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動き始める歯車

ただただヒロインとしゃべり続ける話を書きたい。。。

 ブラウと別れ自宅に着いた京一(けいいち)が見たのは、京一の知らない形に変貌を遂げた自宅だった。

「そんなバナナ……」

 京一が人だかりの外から見上げた自分の家は、まるでそこだけ戦時中なのではないかと思わせるほどに崩れ去っていた。縦に割ったような断面図となった自分の部屋を見上げる。

 周囲には救急車や警察などがたむろしていたが、どうやら火事などは起こっていないようだった。

「まさかあの家、あんたん()?」

 野次馬から一歩下がったところで家を見上げていた時、突如声を掛けられ見ると、京一の隣にどこかで見たことのある同じ歳くらいの女の子が立っていた。ただそれが誰なのか、判然としない。

「な、何よ? 私の顔に何かついてる?」

「……誰だっけ?」

 かああ、っと顔を真っ赤に染めてその女は京一を睨み付ける。そして彼女の右手の辺りが光ったと思ったら、次の瞬間には彼女の手に一本の剣が収められていて、それを京一に突きつけた。

「思い出したかしら?」

「ア、アンバサダーって事は……あ、お前もしかして、新撰組の?」

「違あうっ! 誰よそれっ! まさか忘れたの!? 昨日も喫茶店で会って、クリスマスにもあんだけ追い回してやったのに!」

「……ああ、シジミ女」

 ぶおん、と京一の上空を剣が()いだ。危うくはげるところだったと京一は冷や汗を流す。

祝部(ほうり)(かんざし)よ。憶えなさい。私と喋れるだけでも一生もんの思い出だって人もいるんだから」

「どんだけ自信過剰なんだよ」

「じ、事実だからいいでしょ! 私だってこんな立場気に入っちゃいないんだから!」

「どうだか」

 再び彼女の持つ剣――スサノオがヤマタノオロチを切ったと言う伝説の剣【天羽々斬(あめのはばきり)】――が光を放ち、その形を消していく。

「ていうかあんたん家、凄い事なってるわね。あれ、爆撃でもされたの?」

「……俺も今帰ってきたところで、驚いてたとこなんだ。何がどうなってんだか……」

 その時、京一の頭に、先程のブラウの言葉が響き渡る。彼女は言っていた。


 どうせすぐに避けようのない運命が貴様を襲う――と。


「ってことは、これもあいつが? ……くそっ」

「何よ? 心当たりでもあるの? ていうか親と連絡取ったら?」

「わかってる。ていうかお前こそこんなとこで何してんだよ。お前鳥酉(とっとり)県民だろ? イベント終わったのにいつまで京斗(きょうと)に――いぃッ!」

 ぐにゃり、と祝部は笑顔で京一の指をひねって回し、関節技を決めて見せた。

「痛い痛い痛い痛いっ!」

出雲(いずも)大社で有名な、ヤマタノオロチ伝説の残る山陰地方の有名な都道府県はどーこだ?」

「え、だから鳥酉(とっとり)――いだいいだいいだいいだいッ! 折れるって! まじで!」

「第二問です。シジミの漁獲量で有名な、神聖な湖である宍道湖(しんじこ)がある山陰地方のゆ・う・め・い・な県は何県でしょう?」

「おも、思いだした! 島子(しまね)だ! 島子! 島子県のアンバサダー、祝部釵だろ!」

「ピンポンピンポーン。長期休みの家族旅行には、ぜひ我が島子県を。何かの縁だし、良い場所紹介するわよ」

 ようやく離された指を見つめながら、京一は絶対に行かねぇと心の中で毒づいた。

「で、だから何でその島子県の女子高生のお前がこんなとこにいるんだよ」

「だって私ももう冬休みだし。イベントでこっちに来るついでに、年末年始もこっちですごそうかなって。良い機会だしね。それに大晦日にもう一個仕事が残ってるし」

「年末年始なんて、神社はかき入れ時だろ。出雲大社の巫女のアンバサダーでもあるんなら、あっちにいないと駄目なんじゃねえのか? お前目当ての客も多いんだろ?」

「あ、憶えてくれてたんだ。その通りなんだけどね。でもあっちはあっちでたくさんいるし。そもそも私はアンバサダーとしてやれる範囲の事はやるって契約でなったの。だからああいう現場に立って笑顔でお客さんを迎え入れるのはしたくないのよ。ていうかできないし」

「……確かにな」

 テレビの中で、一人ぶっきらぼうにイベントをこなしていた彼女を思い出し、そう呟く。この少女はたしかに可愛らしいが、営業スマイルなどできる性格ではなさそうだった。彼女のこの仏頂面を見れば、ファンはショックを受けるだろう。多分。

「だったら人前に出て変に幻滅させるより、こうやってテレビとかの仕事だけ受けてた方が、神秘性みたいなものが高まって良いんじゃないかって話になったの」

「アンバサダーなんてそもそも見せもんみたいなもんだろ」

「それでもいいからって頭を下げてきたのは向こうなんだし。別にいいじゃない」

 だがそれ故人気ランキングで上位にランクインしてるのも、京一には理解できた。やはりアイドルには高貴さと言うか、届かない存在という潜在意識が必要だろう。考えてみれば、アンバサダーの人気上位にランキングする人たちは皆、あまり人前に出ることがない。皆独特の雰囲気を持ち、信者からは神と崇められるような神秘性の持ち主ばかりだ。

「でも本人はいないけど、お前のグッズは売るんだろ? 阿漕(あこぎ)な商売だな」

「アンバサダーの存在意義なんてそんなもんしょ」

 平然と言い放つ祝部に、京一は何故か彼女の大人な部分を垣間見せられた気がして悔しい。アンバサダーなどと着飾ってみても、結局はその本質は金銭がらみの商いなのだ。

「で、連絡取れたの? 家族には」

「ああ、留守電が入ってた。近所の知り合いの家に泊めてもらってるらしい。一応は無事みたいだ」

「そう。それはよかったわね。それにしてもほんと、何があったのかしら。まさかアンバサダーの仕業? でもこんな大規模な破壊行為はできないはず……ガス爆発でもしたのかしら?」

 京一はもう一度削り落ちた自宅を見上げた。こんな大事な破壊をできる存在を、京一は一人しか知らない。


 そう。ウェズデムだ。


 あの全身兵器に身をくるんだ、未来世界からきた異世界人ならば、家一つを吹き飛ばすことは容易だろう。理由は何かと聞かれればそれはもちろん決まっている。

「直接キリカを、狙ったのか……もしくは俺?」

「え? キリカって誰? 妹さん?」

「……違う。ところでお前さ」

「さっきからお前って呼ばないで。祝部よ」

「……祝部。参考までに聞きたいんだが、あんたクシナダノヒメのアンバサダーなんだろ? ヤマタノオロチ伝説の」

「そうだけど?」

「ヤマタノオロチ伝説って、どんな話なんだ?」

「え、何? 興味湧いた?」

「え、あ~まあな。神話とか伝説とか好きなんだ、俺」

 京一は祝部の嬉しそうな顔に、そう嘘を言って誤魔化す。

 しかし祝部は餌を与えられた犬のように顔を綻ばせて、口を動かしだした。

「ヤマタノオロチはね、出雲の国、今の島子(しまね)県ね。そこに流れていた川の氾濫、洪水の化身だと言われているわ。そもそもこういう自然の驚異を怪物として表現する事は、日本の歴史には良くあることで、例えば――」

「あーいや、そこはいい」

「え?」

「だからその辺りはいいから、伝説の物語を教えてくれ」

「そう? ここ説明しとかないと、理解度が下がっちゃうわよ?」

「いいから。俺は刺激的な物語が聞きたいんだ」

「そ、そう。わかったわよ。聞かせてあげるわ」

 京一に見つめられ、どこか恥ずかしそうに視線を逸らす祝部。アンバサダー自体嫌々やっているようだが、その実、彼女も地元を愛する一人の有志なのだ。

「昔ね、スサノオノミコトが高天原(たかまがはら)と呼ばれる神々の住む天界を追放されて、出雲の国に降り立ったの。そこに流れていた川の川上から泣き声が聞こえてそこに行くと、一人のたいそう美しい女性がいた。それがクシナダノヒメよ」

 あくまで神話を説明しているだけなのに、どこか自画自賛話をしているように聞こえるのは京一の偏見か。

「で、伝説よ伝説! あくまで神話の話なんだから……とにかくそのクシナダノヒメは八人姉妹で、年に一度、ヤマタノオロチがその家にやってきて、一人ずつ食べてしまうの。これはいわゆる生け贄というやつね。氾濫する川を沈めようと生け贄を捧げていたんでしょ。それがヤマタノオロチという化け物が食べていくという神話になった。そしてスサノオノミコトが見たクシナダノヒメは、その八人姉妹の最後の一人だった。彼女を救うために、スサノオノミコトは酒樽(さかだる)を八つ用意し、やってきたヤマタノオロチはそれをそれぞれの頭でそれらを飲み干した。それで酔って眠ったヤマタノオロチを、スサノオノミコトは十拳剣(とつかのつるぎ)――つまり、この【天羽々斬(あめのはばきり)】で切り裂いたの」

 彼女の手に、再び一本の剣が現れる。石見銀山のソーマ銀を使用しているというその剣は、美しく銀色に輝いていた。

「あ、ちなみにヤマタノオロチの飲んだとされる八塩折之酒(やしおりのさけ)は、島子のお土産ランキングベスト37に入る人気商品だから。あんたは駄目だけどお父さんにどう?」

「聞いてない。ていうかベスト37ってベストに入らないだろ」

 というか何か縁起が悪そうだ。飲んで酔って寝て、火事にでもなりそうだった。

「でもそうか……やっぱりヒロインを助けるために戦うんだな。主人公は」

「何かその言い方されると漫画チックだけど、まあそうね。そんな化け物に向かってくんだから、かなりの度胸の持ち主よ。ちなみに『君も強くなれる、スサノオノミコト饅頭』は、お土産ランキングベスト3位の大人気商品よ。中はこし餡に白餡、最近の人気はカスタードクリームで、レンジでチンして食べると――」

「ええい! いちいち宣伝すんな!」

 耳障りだと京一は耳元を払うような仕草をみせる。

「え、祝部(ほうり)? あの鳥酉(とっとり)の?」

「違うよ、島子(しまね)だよ」

「うわすっげ! 本物じゃん!」

 その時、ざわざわと京一の大きな声のせいで彼女の存在に気がついた周囲の野次馬が、京一の家から祝部へと注目の視線を変えていく。鳥酉と間違えられて一瞬いらっとした表情を見せた彼女だったが、面倒にならないように抑え、目を伏せた。そして京一のスマホを無理矢理奪い、もの凄い速度で何かを打ち始める。

「おいっ何すんだよ」

「これ、私の番号。ここで会ったのも何かの縁だし、今度島子に来たら連絡頂戴。アンバサダーとして、少しでも楽しんでもらえるように協力するわ」

 くい、っと差し出された携帯の画面には、見たことの無い番号が羅列されていた。おそらく営業用だろう。

「行ったらな」

 行かねえけど、と内心で続ける。

「ちなみに私の街、過疎化対策に、若者の移籍誘致を行ってるの。移籍学生支援制度って言うんだけど、もし一人暮らししたいとか、農業に興味あるとかあったら、ぜひうちに引っ越してきて。学校も編入制度を設けてるし、住みやすい街よ……あとこれ」

 そう言って彼女が胸ポケットの中から取りだしたのは、長細い封筒だった。

「なんだこれ……?」

「チケットよ。年末のカウントダウンイベントの」

「あー。そういや、そんなのもやるんだったな」

 基本的に、毎年アンバサダーのクリスマスイベントを担当した都道府県が、その一週間後に行われるカウントダウンイベントも同時に取り仕切るのが慣例である。

「なんでこれを俺に?」

「一応こないだ迷惑かけたから、そのお詫びにと思って! ……あと喫茶店では気分悪くさせたみたいだし」

 珍しく殊勝な態度で言う祝部。

「なんだ。なんでこんな観光街じゃない住宅街にいるのかと思ったら、これを渡したくて俺を探してたのか」

「――っ!」

 ざわぁぁ――と、祝部は毛を逆立てるように顔を赤くする。

「探してなんかないわよ! 偶然見つけたからついでにと思っただけっ!」

「お、おおう」

 彼女のあまりに必死に弁明に、そこまで必死にならなくても、と京一は困惑する。

 しかし彼女が大声を出すものだから、野次馬たちはいっそう彼女が有名人であると確信を抱き、その距離を近づけてくる。

「そろそろやばいわね……じゃあ私行くから。絶対来なさいよね! わかった!?」

「……あいよ」

 祝部のあまりの気迫に、京一は頷かざるをえず、そう返す。

 そうして祝部は言い捨てるようにして走り去って行き、京一の自宅に集まっていたはずの野次馬の群れが一斉に大移動を開始する。あっという間に京一の視界の前からいなくなってしまった。

「俺も早く帰らなきゃな」

 京一はもらった封筒を乱暴にポッケにしまい直した。

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