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カルちゃんと一緒 その②

今や古い人扱いをされますが、ツンデレはやはり至高だと思うのです。


「……面倒な事に巻き込まれたもんだ。何で俺が……」


 京一(けいいち)はそう嘆息する。


 一周回って、気持ちが落ち着いてしまった。

 その結果出てきた感情は、面倒臭いというものだった。どうして俺が。それだけ。

「私が推測するに、主人公という存在が誰でも良かったというわけではないと考える。あの男も、そして私も、主人公たるべき何かがあった。おそらく選ばれるべくして選ばれたのだろう。それはただ力や頭脳といったものではない……何か、心当たりはないか?」

「そんなこと言われたって、俺はただの学生で、何の力も持ってないし……ああ」

「どうした? 何か気付いたか?」

「……いや、何でもない。気のせいだ」

 そう誤魔化(ごまか)すように言って、京一は目を伏せてしまう。

 一瞬思いついた事柄を、消去する。

「ま、理由なんてなんでもいいじゃん。とにかくさ、これから俺はどうしたらいいのかって話だ。正直、キリカをこれ以上うちに置いとくことはできないぞ。どこの子だって怪しまれるからな」

「拾ってきた、でいいじゃないか」

「犬か。拾ってきたでは済まないのがこの世界なんだよ」

「ややこしい世界だ。やはり虚構世界だな」

「なにがやはりなんだよ。無理矢理(さげす)もうとするな」

 どうやらこの女は思っていたよりも粗暴で、思っていたよりも馬鹿だったようだった。異世界から来たというわけのわからぬ存在が、どこか自分の理解の範疇(はんちゅう)に収まり、ほっとする。異世界とはいえ、人はそこまで変わらないようだ。外国人くらいに思えば良い。

「私もあの変人鎧男の考えは理解できてはいないが――」

 ブラウは木の枝を折って火に投げ込んだ。

 魔法を使う世界でも、暖を取るのに薪を燃やすのだな、と京一はなんとなく思った。やはり魔力的なものを消費するから使いたくないのだろうか。

「私の経験からするに、あの子、ここではゼノとさせてもらうが、に出会った時点でもう歯車は回り始めていると思った方が良い。貴様は主人公となり、ゼノはヒロインという存在へとなった」

「主人公って言われてもな……実感が湧かん」

「すぐに思い知らされる。物語の渦中にいることをな。というよりももう既に、貴様は様々な経験をしているじゃないか。異世界人に襲われ、助けられるなんて、この世界の誰が経験しているというんだ? 貴様くらいだろう」

「そう言われれば、そうかもな」

「つまりもう貴様を主人公とした物語は動き出しているのだろう。ゼノに出会った時点で」

「でも待てよ。別にこの世界は平和だぞ? 悪のマッドサイエンティストも、神も精霊もいない。もちろん世界では争いごとはあるけど、それは俺には関係無い事だ」

「何が敵で何が目的なのか、それは私もわからない。言わばこの物語は、今現在書かれている最中なのだから。どこかに既に完成させられた台本があるわけではない。だからこれから何が起こるかは一切わからないし、言い換えれば、何を起こすかは貴様次第と言う事になる。貴様が物語を描くんだ」

「俺が……?」

 ごくり、と生唾を飲み込む。

 いきなり、手に汗が(にじ)んでくる。本当に自分なんかが重大な責任を背負っているのかと、困惑する。

「私もあの子に導かれていたとは言え、しかしここぞという時に決断をしたのは誰でもない、私自身だ。ヒロインはあくまでヒロイン。物語を終結させるだけの何かを持ち得てはいない。言うなればあくまで主人公の物語を補佐するだけだ」

「俺が決める……って言われてもなぁ」

 思い当たる節などありはしない。憎んでいる相手も、倒したい敵もない。

 自分が進めるべき物語など、京一には一切ありはしなかった。

「まあ口で言ってもしょうがない。どうせすぐに避けようのない運命が貴様を襲う。そして貴様は命がけで、その運命に立ち向かうんだ」

「やっぱ、死にかけたりすんのかな」

「なるだろうな。まあ物語と言ってもいろいろあるから、貴様の物語がそのような展開を迎えるか、わからないとしか言えないが」

「そうか。そう言われれば、物語つっても、殺し合いだけじゃないもんな」

 そう思い至り、京一は少し胸を撫で下ろす。

「ただ万が一貴様が窮地(きゅうち)に陥ろうと、きっとあの子が、ゼノが助けてくれる。私はそれを何度も経験した。あの子に、奇跡に助けられた」

 火を見つめるブラウが、その手を自分の肩にやり、ぎゅっと強く肩を握りしめた。まるでその服の下の古傷でも抑えるかのように。遠い目で。

「不本意だが一つ、約束してほしい」

「何だよ、急に」

 突然目を見つめられて、京一は視線をきょどらせた。その青い目に、飲み込まれてしまいそうだったからだ。

「私はゼノを連れて帰りたい。だがあの子がゼノなのかどうか、判別がつかないこの状況では、私はあの子を連れて帰ることはできない。そもそも私にはあの子をどうすることもできない事はもはや明白だ」

「みたいだな」

「貴様は今感じているだろう。ゼノの存在がとてつもなく重く自分なんかには支えられない、関わり合いになりたくない存在だと。それ故あの子を、できれば手放したいと」

「……ああ。嘘偽りなく言えば」

 本音を言えば、あの少女、キリカを自分の手中から手放してしまえば楽になれる。さっきからずっとそう考えていたし、そうするしかないとまで思っていた。

 京一には目の前の問題に感情的になる心はあっても、途方もない問題をじっくりと取り組むだけの度胸も忍耐も持ち合わせてはいない。考えれば考える程、億劫(おっくう)になる。

「だがあの男には渡さないでほしい。あの子を、ゼノを、死なせないでくれ……頼む」

 恐ろしく鋭い視線だ。だがその奥の瞳は、温かく輝いていた。確かな心が籠もっていた。

 これだけプライドの高い女が、アライエンと(さげす)む何の力も持たない京一に頼み込んでいるのだ。その意味が、京一には強く染みるように理解できた。

「まあ、俺にできる範囲でなら」

 京一はそう、曖昧に返事を返した。

 約束はできなかったから。自分の能力の範疇を超えて動く物語に、何を勘違いして確信など持てようか。全ては京一の能力と理解の外なのだ。それをおいそれと任せろとは簡単に言えない。

 そこまで理想的な主人公には、なれはしない。

「……頼んだ」

 京一の心中を察したのか、ブラウはその曖昧な答えを執拗に追求することはせず、そう言って焚き火を消した。


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