異世界人vs異世界人
やっとバトル!
「ああそうだ。【UTシステム】は天才の私が開発したものだ」
ウェズデムは事も無げに言ってから、肩をすくめる。
「ああ、これはまだ言っていなかったかな」
「てめえが……あんなもんを……」
京一は全身をわなつかせてウェズデムを睨みあげる。
「どうした。何を怒っている? ああ、確かにあのシステムのせいで、この世界で余計なものが流行したようだ。子供たちが武器を振り回して戦うなんていう野蛮なゲームが。しかしそれはシステムが問題ではない。それをどう使うか、それを決めたのは君たち未開人だ。実に愉快な想像もしない利用方法だったがね。しかしこの世界は実に可笑しい。二次元、と言うのかね? ああいった子供染みた文化がこの国を席巻しているようだ。我々とは別の方向へ進化しているようにも見える。正直世界の扉を閉じてしまうのが惜しいくらいだよ」
「そんなこと、言ってんじゃねえよ!」
「だから何をそんなに怒る? ……ああそうか、君の母親の事か」
「っ……!」
にやり、とウェズデムが仮面のその奥でにやついているのが、京一にはよく分かった。
そしてこれもまた、この男の思い通りに話が進んでいる。
「何故知っているのか、そう思ったんだったら、これまでの話を振り返れ」
ウィン、と再び京一の正面に一つの映像が浮かび上がる。
そしてその映像に映し出された人物の顔を見て、京一は表情を青くしていく。
「……母さん」
それは京一の産みの親。今は亡き母――十院叶の姿だった。
京一のよく知る、優しく暖かい母だ。彼女は笑っている。
「可哀相に。アンバサダーなどという下らぬ遊びに感化されて、それに憧れ気の狂った若者に刺されて死んだのだろう?」
「可哀相とか、てめえが言うんじゃねえよ!」
「どうして? 私はただ人類の発展にと、画期的な技術を開発しただけにすぎない。それをどう扱いどう利用するかは、私の関与するところではない。そもそもこの世界に持ち込み勝手な流用をしているのを、私は認可してはいない」
「てめえがこんなもん開発しなきゃ、母さんはっ……!」
「無理矢理な責任転嫁は、醜いぞ。未開人」
「てめえッ!!」
ズザッ、と地面を強く蹴り上げ、京一は一目散に駆けた。強く拳を握り、鋭く睨み付け、目の前の物言う機械鎧に向かって。
だがその京一に向かって、ウェズデムはゆっくりと片腕を向け、ミサイルを撃ち込む。
しかしその瞬間、京一は足下の瓦礫につまずき、体勢を崩した。それが功を奏し、京一は上手くミサイルの軌道から避けることができた。
「……ふむ。やはり無理か」
「ぐだぐだ言ってんじゃねえっ!」
つまずきながらも体勢を無理矢理戻し、京一は再び拳をウェズデムに向け、思い切りそれを振り下ろした。丸く顔の無いフェイス部分を捕らえたそれは、やはり中のウェズデムには一切衝撃は届いておらず、びくともしなかった。
怒りにまかせたところで、何一つその怒りは届かない。呆然とするしかない。
そんな京一を、ウェズデムは虫を払うかのように手で払った。京一の身体は呆気なく地面を転がる。
「反撃することがいかに無駄か、わかってもらえたところで相談だ。私は君に死んで欲しい。何故なら、ヒロインであるあの少女に対し、君は主人公に選ばれた存在だからだ。だがあのヒロインである少女を殺そうにも、彼女を守る不思議な力が働き、私は彼女を上手く殺せなかった。それは既に実証済みだ。時に必然に、時に偶然に、彼女を守る何かが現れては、私の行く手を阻む」
「そんなこと、ありえんのかよ」
「ありえる。そう断言してしまっていいほどに、偶然は彼女を味方した。それは君とて経験しているだろう? あの少女が危機に瀕した時、そう、あの妙ちきりんな青い服を着たアンバサダーとやらに襲われた時、絶対に勝てはしないあの相手に、君たちはどうやって切り抜けた? 偶然が彼女を、そして君を救いはしなかったか?」
思い出す。京一が新撰組三番隊組長斎藤一のアンバサダー蝶璃揚羽に襲われ、駄目かと思ったあの時、ドラム缶から飛び出た燃え残っていた炭の火が袴に燃え移り、彼女は撤退を余儀なくされた。
あれも全て、彼女がもたらした偶然だというのだろうか。
「確かに……でも、あれは……」
「そう。ただの偶然。たまたまだ。だが私の好きなドラマにこんな言葉がある。偶然も三度重なれば、それは必然である、とな。もはや少女の引き起こすそれは、必然なのだよ。私はそれを知っている。だから私はあの少女を狙う事は諦めた。まずは君という物語の主人公を抹消し、物語を終わらせる事で、少女の神がかり的な何かを停止させる。そうすればきっと、私はあの輪廻の概念少女を、殺すことができる。そう推論を立てた」
「どうして、殺さなきゃいけないんだ。あんた頭が良いんだろ。だったらもっと他に解決策があるんじゃないのか?」
「これが一番現実的で、有効な方法だと判断したのだ。もしこれが駄目なら、また別の方法を考える」
「なんでだよ! あいつは、キリカはただの女の子じゃねえか! ……無邪気にはしゃいで、美味いもん食って笑って、何一つ変わらない子供じゃねえか! あんただって、あいつに助けられたんだろ? 救われたんだろ!? だったらあいつをまず守ろうって、そうは思わねえのかよ!」
「あの少女と私の世界、天秤に掛けるまでも無い。私の物語にとってあの子はヒロインだったかもしれんが、愛し守るべき家族ではない。妻も、子も、私には存在する。だったらその世界、私が守らないで誰が守ると言うのだ」
「……だったら、だったら俺が、あいつを守る……あんたの希望を、俺が打ち砕いてやるよ!」
「どうして赤の他人のためにそこまで熱くなるのやら……間接的に母を殺した私への対抗意識か? くだらない。砕いてみせればいいさ。ただ考えろ。この状況で、私が悪か、それとも君が悪か。考えれば、おのずと答えは見えてくる」
ウェズデムはすっと片手を上げた。そしてそこに備え付けられた銃口を向ける。京一は反発するように、彼をただにらみつけた。たとえ力で勝てずとも、意志だけは負けないようにと。
するとその瞬間、ウェズデムの身体が、左へと吹き飛んだ。
いや、吹き飛んだのではなく、右から来た何かに押されるように移動したのだ。
ガギギギギィッ、と金属が削り合う音が響く。
「君は……っ!」
ウェズデムは、横やりを入れてきた人物の刃をその腕で防ぎながら、足で踏ん張りたえた。そうしてようやくウェズデムらの身体は止まった。
ウェズデムは目の前の人間をにらみ上げ、そして吐き捨てるように言った。
「他人の戦いに横やりを入れるとはな……やはり野蛮人だよ、君たちは!」
横やりを入れたその人物は、その青い髪をなびかせ、優雅に着地した。
割って入ってきたのは、先日京一を襲った異世界人。
アインヴェルトに暮らす英雄、ブラウ=リュヒテイン。
彼女は京一を背後に据えて立ち、正面のウェズデムを見据えながら、言葉を飛ばした。
「逃げろ!」
「え……」
まさかの言葉に京一は耳を疑った。京一は重たい顔を上げて、ブラウを見上げた。
彼女はキリカを奪おうとしていたはずだ。そしてキリカを奪う自分を毛嫌いしていたはずだ。だが今彼女は京一を救い、逃げろと言った。
「ここは私が抑える! お前はとにかく逃げろ!」
「逃がすと、思うか?」
ウェズデムの両手からミサイルが放たれた。それはブラウの左右をかすめて、一直線に京一を襲う。
「立ちはだかれ! 【ボーデン】!」
ブラウがそう叫ぶと、京一の正面の地面が急速に隆起し、土の壁を作りだした。ミサイルはその土壁に当たって爆発する。が、その土壁は頑丈でミサイルの威力はそれを突き抜けない。
「ちっ。またその妙な呪文か……野蛮人め! だがしかし、それで私の攻撃が防ぎきれると思うなよ!」
ウェズデムの両指の先端が開き、そこから二十センチほどの光の刃飛び出す。
そのまま彼は足底のブーストを利用し、一気にブラウへと飛び込んだ。ブラウがそれに合わせて持っていた剣――ユングフラウとはまた別の、白い剣――を振るった。
「私のジェノサイドクロウはそんな鉄屑、いとも容易く引き裂くぞ!」
ウェズデムが指の先端から飛び出した光の爪――ジェノサイドクロウをその白い剣に向かって振るった。が、その攻撃はブラウの剣を引き裂きはしなかった。
「何ッ!」
ばちばち、と互いの武器が交じり合い、火花を散らす。
「貴様の技はそれなりに理解している。この剣は光の剣、リーヒット。悪しきものには決して砕けぬ伝説の光剣だ!」
「ぬぅッ」
バチィッ! と互いの力で押し合い、二人は大きく距離を取る。
そこですかさず、ブラウは光剣リーヒットを地面に突き立て、呪文を唱えた。
「夜。それは死の時間。苦しみ、叫び、悶え、泣き喚け……【タナトス】!」
ボコボコ、と地面の至る所が隆起し始める。まるで地の底から何かが出てくるかのように。何かが這い上がろうとするかのように。
土が裂け、そして地面から手が伸びる。それは骨の腕だ。土に塗れた死者の骨が、地面から次々と這い上がってくる。そして数え切れない程の死者の骨が、ウェズデムの目の前に立ちはだかった。
「死者を愚弄する貴様に、その苦しみをとくと味合わせてやろう」
「人骨はないはずだが……ふんっ。死者を愚弄しているのはどっちだ」
ウェズデムは駆けた。迫り来る死者に向かって、容赦無くその身体に隠した数多の武器を解放した。
隆起した土壁の向こうから爆発音が響く。
それを京一は呆然と立ち尽くして聞いている事しかできなかった。予想以上に身体を酷使していたようで、もはや走る気力は無かったのだ。あんな化け物同士の争いに、生身の京一は着いて行けはしない。
京一は鎧を殴りつけて真っ赤になった拳を見下ろした。今は力も入らず、だらりと腕から下がっている。その拳に無力な自分を痛感させられる。
「誰が、主人公だ……なんなんだよ……もうわけわかんねえよっ!」
ゴッ、と京一は傷ついてない方の拳で、土壁を殴りつけた。
感情が、わけのわからぬ方向へ行っている。冷静に状況を判断できる余裕もない。
そんな不快感だけが京一の中に、漠然と存在していた。
「……母さん……」
異世界人らのせめぎ合いの音が、どこか遠くぼやけてくる。
気を失う――そう感じた時には、既に京一の身体は地面へと倒れ込んでいた。




