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二人目の来訪者

2人目の異世界人が登場です。楽しい。

 午前十時。十院(といん)京一(けいいち)は墓の前にいた。


 その墓石には『十院家の墓』と大きく彫られてある。

「……もう1年も終わりだって。早いよな、()()()

 誰もいない大きな墓地に、京一が一人立ち、墓石に語りかける。

 母の、墓石に。

「母さんが死んでもう5年ってとこか。俺も小学生だったもんな。大きくなったろ」

 そう苦笑気味に言ってみるが、しかし墓石からは何も言葉は返ってこない。

 京一の言葉が(むな)しく響く。

 京一の実母は5年前、当時人々を恐怖におとしいれた通り魔に運悪く出会い、帰らぬ人となった。誰もが悲しみ嘆いた理不尽な殺人事件は、世間の注目を浴びた。


 犯人の殺害動機は、憧れのアンバサダーになってみたかった。

 それだけである。


 当時、丁度世間に【ユビキタススーツ】なるものが現れ世間を賑わせていたまっただ中で、それとほぼ同時に、アンバサダーなるものが現れた。初めは大人しく各地で観光客集めをしていただけのコスプレ集団が、随時自動変装装置【ユビキタススーツ】というオーバーテクノロジーとの融合により、アンバサダーという若者の憧れの存在へと変貌をとげた。

 (きら)びやかな衣装に、誰もがうらやむ容姿。そして何より、その手に持った武器で戦うその様が、若者の羨望(せんぼう)の的となった。戦うアイドルの登場である。妄想が現実になり、それまでのすべての最先端コンテンツを過去のものにし、熱狂を呼んだ。

 そして同時に、狂気をも呼んだ。

 アンバサダーになれる人物は容姿端麗(たんれい)眉目秀麗(びもくしゅうれい)、天下無双……などなど周囲よりも抜きんでた容姿、腕力といったものが必要であり、それは自薦でも試験があるわけでもなく、観光課からの要請という形のみでアンバサダーの資格が与えられるのである。

 それ故、テレビに出ているアイドル同様、何の変哲も無い一般人には遠い夢のような存在であり、それ故に憧れ、熱狂するのである。

 だがそのアイドル的存在に憧れ、羨望するだけに飽き足らず、自らもそうなろうという存在が現れるのは、必然だった。


 (みにく)いくせに。

 弱いくせに。

 何も持たないくせに。


 京一の実母を殺した犯人は、自らをアンバサダーと名乗り、手作りの(つたな)いコスプレ衣装をまとっていた。そして正規のアンバサダー同様、彼はその手に武器を持っていた。段ボールとガムテープで作り上げた、先端に包丁が飛び出た、醜い聖剣を。

 彼は自らを聖戦士と名乗り、そして何の罪もない一般人を、襲い、殺した。

 その中の一人が、京一の母だった。

 運が悪い。そう言ってしまうにはあまりにも悔しい。くだらない。納得できない死だった。京一は学校にいる時にそれを聞き、慌てて病院に駆けつけた時には、もう母は息を引き取っていた。年頃にもかかわらず母と仲の良かった京一は、人格を変えてしまう程に、精神にダメージを受けふさぎ込んだ。


 そして父が新しい母を連れてきたのは、その二年後だった。



「母さんはさ、異世界って、信じるか? 笑うなよ。俺も半信半疑なんだ……でもさ、今うちに異世界から来た女の子がいてさ。可愛いんだ。クソ生意気だけどな。多分、()()()()()()()、あれくらいだったんじゃないかな……」

 こうして彼は何かがあるとここに来て、母に話し掛ける。

 もう既に物言わぬ母に。


「興味深い。この世界の人間は石に話しかけるのか」


「え……?」

 墓石から声が返ってきた。

 いや、違う。聞こえてきたのは墓石からじゃない。その墓石のもう少しだけ上。

 京一がその声の聞こえた宙を見上げると、京一は驚くものを目にした。今の今まで自分が見つめていた墓石。その母の墓石の上に、誰かが足を組んで座っている。

 突然現れたのだ。まるで始めからそこにいたかのように。

 その声から察するに男は、全身を奇妙な鎧とも、機械でできたパワードスーツとも言えるようなもので全身を(おお)っていた。一目には白銀のロボットとも言える。

「どうした。私の顔に何かついているか?」

 驚きのあまり唖然とする京一に、そのロボット男は肩をすくめて尋ねた。

可笑(おか)しいな。この世界の人間は石と会話するのに、人間とは会話しないのか?」

「お前……まさか……アライエンか?」

 アライエン。それは異世界から訪れし者。

 先日その異世界人と相対し、死闘を演じた。というより一方的に殺されかけたのだ。

 先日現れた青い髪のその異世界人ブラウは、自分に異世界の存在を教えてくれたのは、奇妙な鎧姿の異世界人だと言っていた。

 まさに目の前のそれではないか。

「アライエン? 残念ながら私の名前はウェズデム。知性ある者、という意味だ。良い名前だろう? 母がつけてくれた。まさか他の誰かと見間違えたんじゃないか? でもおかしいな。私のような男前が二人もいるとは思えない」

「とぼけんな……あんた、異世界人だろ?」

「ほう驚いた。まさかこの世界に異世界の存在を知る賢明な人間がいるとは思わなかった。思っていたよりもこの世界の人間は(おろ)かじゃないらしい」

 男は話す度、わざとらしい大げさなリアクションを取った。

「この間、青い髪の異世界人に襲われた……知ってんだろ?」

「ん~。私は数式は一発で憶えられても、人の顔はてんで駄目なんだ。少し待ってくれ……あー思い出した。ブラウとかいう血気盛んな野蛮人のことだな」

 ウェズデムは人差し指を立ててそう言って見せた。彼のリアクションはどこかわざとらしく、洋画の俳優を彷彿(ほうふつ)とさせる。

「やっぱり、知ってるんだな。あの女のこと」

「ああ、思い出しただけで虫酸(むしず)が走る。私を見た途端、なんだかんだと訳のわからない事を言って襲いかかってきたんだ。君の時もそうだったろう? あの世界の人間の特徴みたいでな。口よりも先に手が出るらしい。野蛮人だろ? 理性で生きているとは思えない。だがしかしなるほど。あの野蛮人もこの世界に来ていたのか。ということはあの世界もなかなか捨てたものではないのかもしれないな。異世界へと渡る術を知っているのだから」

 よく喋る男だ、と京一は思った。今の京一にはいささか神経を逆なでする存在といえた。

「とにかくそこをどけ」

 京一はその苛立ちを隠さずに、そう命令した。

 母の眠る場所に座る、訳も分からぬ異世界人に。

「どうして? 私はただ椅子に座っているだけなんだが」

「それは椅子じゃねえ! 墓だ!」

「墓? 何だそれは……ほう、死者がこの下で眠っているんだな」

「……っ!」

 男の目の前の何も無い空間に、光で映像のようなもの映し出される。映し出されたのは、どこかのウェブページのように見える。テキストがずらりと並び、それが下から上へスライドしていく。

「どうした少年。ああ、これか。エアスクリーンが珍しいんだな。確かにこの世界にはまだ大気中に鮮明な映像を映し出す技術は無いみたいだからな。一体今まで何をしてきたんだか……亀より遅い進歩速度だな」

 ウェズデムは嘲笑した。その余裕ぶった態度が、京一をさらに苛立てる。

「いいからそこどけよっ!」

「そう怒鳴るな。聞こえている。別に誰も困らないだろう? せっかくの座りやすい形をしているんだ。座らなければ他に用途が無いではないか」

「それは死んだ人間の墓標なんだよ! 死人を侮辱(ぶじょく)すんな!」

「侮辱? はて、死んだ人間がどうやって屈辱を味わうというんだね? 口も利けない動かぬ遺体が」

「てめえッ!」

 京一がその白銀のロボット男を思いきり殴りつけると、しかしその鎧はあまりにも堅く、京一の方の拳がダメージを受けてしまう。男は一ミリも動かず、足を組んで京一を見下ろしている。

「馬鹿か君は。素手でどうこうなる物で無いのは見ればわかるだろう。未開人め。理解できるかどうかはわからんが、この【ノーフェイス】はチコウムと言う特殊な金属でできている。この世界にはまだ無い人工金属だな。これは標準的な鉄の百分の一の密度だが、こうして全身に着込んでいても重さはそれほど感じない。しかし牛百頭の重量に踏まれても一切変形しないほどの強度と、優に二世紀は手入れせずとも錆びないという優位性を備えている。まあこれは私の世界でも極一部の人間しか手にすることのできない稀少人工金属ではあるがね。ちなみに言えば、実はこれを開発しているのは私だったりする。ま、所詮本業からずれた趣味の範疇(はんちゅう)ではあるが」

「聞いてねえよ! どけッ!」

 京一はもう一度そのチコウムでできたパワードアーマー【ノーフェイス】を殴りつけた。

 しかし牛百頭の重量に耐えうるというそれは、例え恵まれた体格の京一が殴りつけても、一切の衝撃を感じさせない。ただただ拳が赤く染まりあがる。

「一応、チコウムをさらに改良して、衝撃吸収機能も付けてある。つまり君がいくら殴ろうとも、中の私の身体には一ミリも衝撃は――」

 再び、京一がそれを殴り、小さく音が反響する。その拳から、じわりと赤が滲んでくる。

 それほどに、京一は激怒していた。母の死を愚弄(ぐろう)するような、目の前の常識ない異世界人に、腹が立っていた。

 ウェズデムは京一のあまりの考え無しの行動に呆れかえりながら、息を吐いた。

「本当に非合理的な人間達だ。そこまでして私をここからどかしたいか? どかすことに意味なんて無いのに。私がここをどいたところで誰も喜びやしないし、死人は生き返らない。あの青髪の野蛮人の世界もそうだったが、自然や神、そして霊魂や死後の世界など、君たちのそういった存在しないものへの信仰心というのは、あまりにも人間の持つ本来の力を鈍らせる良くないものだ。そんなものに頼り任せるから、自分で解決しようという気持ちが薄れる。すぐにそんな無駄な概念は捨て去った方が良い。地震は人間の力で充分に制御できるし、死者は所詮死んで土にかえっていくだけだ。この世界には魂も霊魂も神も精霊も、何も存在しやしない。全て科学的に証明、再現できることだ」

 しかしその話すら耳に届いていないようで、京一はもう一度拳を振るった。


 が、その拳は空を切る。


 ウェズデムが、やれやれと墓石の上へ立ち上がったのだ。

「全く……自分の拳を粉砕しても引きそうにないな。全く滑稽(こっけい)だよ。ありもしないものに心を動かされ、おどらされる君たち未開人は。こんなものだ。こんなものがあるから、人間は思考を止め、なまけ、腐っていく。そう、だったらこんなもの、無くしてしまえばいい」

 ウェズデムは言って、その場からなんと、宙へと浮き出した。

 彼の白銀のパワードスーツの足からは激しく緑色の粒子のようなものがふき出ている。それで浮き上がったのだ。そして彼はその手を自分の真下にある、まだ新しい墓石へと向けた。

「やめ――」

 京一がウェズデムのしようとしていることに気付き、慌ててそう制止しようとした瞬間。京一の視界が緑色に光った。ウェズデムの手の平から緑色の光線が飛び出し、京一の目の前にあった母の墓石が、粉々に砕け散った。宙に舞う墓石の破片(はへん)。それらは京一の目の前でスローモーションに落ちてく。

 さっきまでそこにいた母という存在が――消えた。

 例えそれが比喩的な表現でしかなかったとしても、そんな感覚が京一を襲ったのだ。

「それも。これも。全部全部全部、足(かせ)に過ぎない」

 ウェズデムは宙に浮きながら左右に手を伸ばし、次から次へと周囲にある墓石を砕いていく。

「やめろ……やめろっ!」

「こんなものに(とら)われて何の意味がある。前を向け人類。後ろを振り返っても、何もない」

 最後にウェズデムが左右に開いた手の平から、凄まじい勢いで炎のような光線のような、そんな粒子の嵐が噴出され、辺り一帯が轟音と共に吹き飛んだ。

 残されたのは燃え移った火と立ちこめる煙、そして粉々に砕け散った無残な墓の残骸(ざんがい)だった。

「ふう。すっきりした。私はこういう暗くてじめじめした場所は苦手でね」

「てめえッ――!」

 京一は激昂し、ウェズデムに殴り掛かった。

「ッ!」

しかしその時、京一の視界にいたはずのウェズデムが、消えた。まるで風景に溶け込むように。

「透過機能というやつだ。この世界にもこれくらいの技術力はあるんだろう?」

 何も無い、誰もいない場所から声が響いてくる。低くそれでいて軽快な、あの男の声だ。

「さて。すっきりしたところで、そろそろ本題に移ろうか。少年」

 今度は京一の背後から声が聞こえてくる。

 慌ててそこを振り返るも、そこにウェズデムの姿は見えない。

「私がどうしてここに来たか。それは大体理解はしているのだろう? あの青髪の野蛮人と同じさ。私もあの少女を捜しにきた」

 少女とは、キリカのことであろう。尋ねずとも、この一連の騒動の核にいるのは、あの少女以外あり得ない。今キリカは、自宅で母と過ごしているはずだ。

「自分の世界に連れ帰るため、か? ふざけんな! そんなことのためにこんなことをしでかすのかよ! てめえらいい大人が、あんなガキ一人に寄ってたかって恥ずかしくねえのかッ!」

 どこにいるかわからない男に対し、京一は叫んだ。

 視界に捉えた瞬間襲いかからんばかりの勢いで。

「連れ帰る? ……いや違うな」

「何?」


「私は()()()()()()()。あの少女を」


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