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はじまりからのいきなりピンチ

毎日投稿がんばりたいんです。書きたい!


「ど こ だ こらァ!」

 ドガァッ、と轟音がして、青くライトアップされた青蓮院の竹林が揺れた。

 そこは京斗(きょうと)市東山区。ちらほらと粉雪が舞う師走。幻想的なライトアップで有名な寺院の庭を、一人の男子が駆けていた。

「おいおいおい、嘘だろ……」

 その少年――十院(といん)京一(けいいち)はゆっくりと自分に向かって倒れてくる無数の竹を見上げながら、そう呟いた。京一はすぐさま反転して走り出し、その倒れてくる竹の下敷きにならないように、右へ左へと逃げ回った。

「はっけ~ん。もう逃がさないんだから」

 何とか全ての竹を避けきった京一の目の前に現れたのは、一人の少女だった。首元までの短い髪を揺らし、その顔は笑っているがひくひくとどこか怒りに満ちていた。

 その少女――祝部(ほうり)(かんざし)は、何故かこの時代にそぐわない、巫女姿をしていた。しかしただの巫女装束ではなく、緋色の袴の裾が異常に短い。もう少しで下着が見えてしまうのではないか、というくらいに短く、しかも少女は巫女らしからぬニーハイブーツを着用していた。また頭にはきらきらと光る櫛が入っており、彼女の手には六十センチはあろう両刃の剣が握られていた。祝部はその剣で竹林を切り倒したのだ。

「お前……いい加減にしろよ。せっかくの竹林をこんなにして。弁償できんのか!」

「うっさい。そこはちゃんと補償金が国から出るようになってんのよ」

「国民の血税をくだらねえことに使いやがって……しょうもない遊びはいい加減やめろ。田舎もん」

 その最後の言葉に、祝部のこめかみがぴくりと反応を示した。

 彼女は持っていた剣を京一に向ける。

「いちいちいちいちうっさいのよ! 誰が田舎もんじゃい!」

「あー? 充分田舎もんだろ。鳥酉(とっとり)県民だろ?」

「だから島子(しまね)だっつってんでしょっ!」

 祝部が赤面して地面を何度も強く踏みつける。彼女の短い袴がひらひらと揺れる。

「そうだっけ? ま、どっちでも一緒だろ」

「馬 鹿 に、すんなッ!」

 祝部はその場から京一に向かって飛びかかり、その剣を振り抜いた。しかし彼女の振り抜いた剣は京一を捉えはしなかった。京一は間一髪の所で横へと跳んで逃げていた。

「ぼけっ! 死ぬだろ!」

「大丈夫よ。この〈真・天下統一合戦〉では、人に致命傷は負わせないようにできてるから。だから最悪全治三ヶ月程度の怪我ってところよ!」

 今度は横薙ぎに剣を振り回す。それをなんとかしゃがんで避けたが、空を切った剣は側にあった竹を綺麗に横に切り倒した。

「あほか! 全治三週間は充分大変だろ! そもそも俺は〈ユニゲー〉の参加者じゃない! 一般人を襲うのは規則違反じゃないのかよ!?」

「大丈夫よ、ばれなきゃねっ!」



〈真・天下統一合戦〉――この何の捻りもないセンスゼロのネーミングの遊びこそ、今現在、日本中の若者を熱狂させているゲームなのである。

 端的に言えばそれは疑似戦争である。かつて戦国時代にあった本当の天下統一の争いを真似て、現代に遊びとして蘇らせたものだ。

 それは各都道府県、およびその市町村の観光課が、自らの土地の観光PRとしてその土地出身の容姿端麗や百戦錬磨などの、土地を代表するにふさわしい人間を選出し、代表選手として戦わせるゲームの事で、これら選ばれた人間を『観光PR戦士(アンバサダー)』(日本観光協会命名)と呼び、これらお役人によるセンス無いネーミングに辟易している若者はこの遊びを〈統一ゲーム〉だとか、〈ユニフィケーションゲーム〉だとか独自に様々な呼び方をしており、主に多用されているのが、〈ユニフィケーションゲーム〉を略した〈ユニゲー〉という呼び名だ。

 観光課から選ばれたアンバサダーはその土地の所縁ゆかりあるもの――それは偉人から神、ひいては食物や文化までなんでもあり。これを『由縁(コネクション)』と呼称する――をイメージに作られた衣装を身に纏う。彼らはあくまでその土地をPRする役割として存在しており、その端的に言ってしまえばコスプレ衣装をなびかせながら、他の都道府県のアンバサダーたちと戦うのである。

 それ故、アンバサダーには、第一義に観光PRというものが念頭に置かれている。

 アンバサダーが戦うのはあくまで余興であり、それらアンバサダーの戦いを見て、アンバサダーに興味を持ち、アンバサダーに入れ込み、それらがアンバサダーのPRする商品や観光地へ還元されるという単純な仕組みとなっている。

 ちなみに戦うと言ってもあくまで遊びであり、殺人はありえない。

 アンバサダーのみが持つ随時自動変装装置【ユビキタススーツ】と呼ばれる、身体のラインに沿った薄手のボディスーツ型装置により、アンバサダーは自身のPRすべき由縁コネクションをモチーフにした衣装に一瞬にして着替える事ができるのだ。

 例えば目の前の祝部(ほうり)(かんざし)の巫女姿のように。

 それは未来技術を一足飛ばしにしたようなオーバーテクノロジーが搭載されており、【ユビキタススーツ】を着用することで記憶させた衣服に瞬時に着替えられるだけでなく、スーツに流れる電気刺激により身体機能の大幅な増加が見込まれる。

 まさにスーパーマンスーツと言えよう。

 加えて、【ユビキタススーツ】により呼び出された武具で物は壊せても、人は傷つけられないように制御されている。

 ただ祝部の言うとおり、あくまで致命傷を与えないだけであり、木刀やバットと同じく、鈍器として相手を傷つけることは可能である。もちろんその場合車の免許と同じで、アンバサダーはアンバサダーとしての資格を失い、通常の傷害事件以上の罪を負うことになる。

 要するところ、あくまでルールを守った上での、チャンバラごっこだ。



「うおっ!」

 ぶおっ、と頭上で薙いだ祝部の剣。それを辛うじて避ける。

 今現在ここに、そのルールを思いっきり破って一般人を襲っている女がいる。

「俺を倒しても何も意味ないだろ!」

「アタシの気が晴れるっ!」

「何だそれは!」

 逃げまわる京一を、祝部は後ろから鹿を狩るように追いかけた。

 この<ユニゲー>。戦う事に意味があるのかと言うと、戦って勝利し、仮想領地を広げたり、勝利ポイントを稼ぎ貯めたりすることで、その合計ポイントを都道府県同士で競い合い、毎年その成果が発表されるというシステムになっている。そしてその順位に応じて政府から助成金が支払われたりするのだ。

 これは財政の厳しい地方などには願ってもない救済措置であり、それ故この<ユニゲー>に本格的に力を入れている。つまりこのゲームは若者だけでなく、大人も含めその地方地方が躍起になって取り組んでいる一大行事なのだ。

 これらある種危険な遊びを容認し、むしろ援助している立場の政府の真意は、地域活性化と、若者の地元愛を育むという目的の二つにある。現にこの<ユニゲー>が広まってからというもの、若者の他府県に対する対抗意識が芽生え、自分の住む街をより強く、より人気にしようと誰もが熱心になった。さらに自分の好きなアンバサダーに肩入れし、あげくそのアンバサダーの所属する地方へと引っ越しをする若者も後を絶たない。むしろファンにとっては、それこそが最大の愛情表現なのだ。都心部への人口の一極集中に歯止めがかかり、地方の過疎化が一気におさまったのだから、大成功だったと言えよう。

 要するに、アンバサダーとは一種の御当地アイドルなのである。

 本来のPRうんぬんが忘れ去られ、可愛いカッコいい強いからとアンバサダー単体にファンがつくようになり、そのファンはそのアンバサダーがPRする土地に旅行に行き、グッズを買い、お金を落とす。アンバサダーによっては歌手や俳優業もこなし、その優に数千はいると言われているアンバサダー達を人気度でランキング化し、ネット上では毎週それが更新されている。今や音楽チャートよりも注目度が高い。

 つまるところ、これは政府の意志というよりは、これらアンバサダーのキャラクター性による地域活性化に生存の希望を見いだした地方の役人たちが、ぜひにと頭を下げた結果、政府は渋々これを容認することとなったのである。この<ユニゲー>に反対したのはごく一部の収入源に恵まれた大都市だけであり、それ以外のほぼ全ての都道府県がこの疑似戦争を要望し、その熱意に押され仕方が無く始まったのが<ユニゲー>――正式名称〈真・天下統一合戦〉(日本観光協会命名)である。

 だがしかしそこに内包するのは金銭以上の、他の都道府県に対する対抗意識だ。

「お前の気が晴れようが晴れまいが知るか! それ以上やるなら、警察にちくんぞ! アンバサダー資格を剥奪されても知らねえぞっ!」

「うっさいわね! じゃあさっさと謝りなさいよ!」

 そんなこんなで、十院京一は、島子(しまね)県のアンバサダーの少女・祝部釵から逃げ回っているのであった。

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