顔だけ極悪人な俺は妹の様子が気になります。
ピピピッという目覚まし時計の音で目が覚める。
まだ眠気が残っているものの気合いでベッドから起き上がった。
それから自分の部屋のカーテンを開け、入って来る太陽の光を体全体で受け止める。
ゴールデンウィーク二日目、天気は晴れである。
昨日は俺が二階に上がった後柚子達二人でしばらく話し込んでいたみたいだ。
そのとき時折柚子の悲鳴のようなものが二階まで何回か聞こえてきたが、深く考えてはいけない気がする。
とにかく柚子に友達ができて良かった。
それから俺は手短に身支度を済ませ、一階のリビングに下りた。
「おはよう、柚子」
「おはよう……」
一階のリビングでは柚子がいつものように朝食を食べていた。
しかし今日はそれよりも気になることが一つある。
それは柚子がお洒落をしていることだ。
柚子がお洒落をするときは年始の初詣や親戚が家に来るときなどのイベントがあるときのみである。
親戚は数年に一回来るか来ないかなので実質年に一回程しか柚子はお洒落をしない。
普段学校では制服を着て、家の中では部屋着でうろつき回っているのだ。
なのにも関わらず、今日はお洒落をしている。
今日親戚が家に来る予定はないはずなので後他に考えられる可能性といえばどこかに出掛けるくらいだろうか。
だとしたら誰と出掛けるのだろう。
もしや、彼氏! とかはないよな……。
先日まで友達がいなかった柚子に彼氏なんて……いや友達はいないですけど彼氏ならいますっていうパターンかもしれない。
とにかく本人に確認するしかない。
「……なに?」
「あ、いやそのだな。今日どこかに出掛けるのか?」
咄嗟のことで前置きなく聞きたいことを直接的に聞いてしまった。
「ん、ちょっと……」
「そうなのか。あ、これ美味いな……」
その返答じゃ聞きたいことが一切分からないじゃないか。
もっと詳しく聞きたいが柚子はもう食べ終えたようで食器を片付けてリビングを出ていってしまった。
「気になる……」
一人になった途端言葉に出てしまうほど俺は柚子の行き先が気になった。
柚子は一体誰とどこに行くのだろう。
玄関の近くではバタバタと慌ただしい足音が鳴り響いている。
どうやらもう家を出るらしい。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
俺はリビングから柚子を送り出した。
柚子を送り出した後、急いで食べ終え、外出する準備を整える。
そう今日丁度ほしい本を買いにいかないといけないのだ。
断じて柚子の後をつけようとかそういうのではない。
もしかしたら本を買いにいった先で柚子を見つけて跡をつけてしまうかもしれないが仕方ないことだろう、そう仕方ないことなのだ。
俺は三分で外出する準備を済ませ急いで家を出た。
家を出ると、まだ柚子の姿が遠くにうっすら見えていた。
「確かこっちの方向だったかな」
そう口に出しつつ柚子の向かった方向へ歩き出す。
五分程歩いて柚子が近くのコンビニに入っていったところで俺はそのコンビニの近くの自動販売機まで行き、柚子が出てくるまで身を隠した。
身を隠している間近くを通りかかった人に不審な目で見られたが警察に通報されないことを祈ろう。
自動販売機で買った飲み物を飲みながら時間を潰していると柚子が入店音を鳴らしながらコンビニのドアを開けて外に出てくる。
「やっと出てきたな」
どうやら飲み物を買っていたようだ。
柚子はコンビニを出てしばらくスマートフォンを弄っていたが目的を済ませたのかスマートフォンをバッグにしまい歩き出す。
俺は柚子の後を気づかれないようについて……もとい目的地に向かった。
柚子はコンビニからしばらく歩いて交差点の近くまで来ると急に周りをキョロキョロしだした。
「柚子のやつ一体どうしたんだ?」
俺は柚子の行動を疑問に思いつつもそのまま柚子を見守る。
柚子はキョロキョロして何かを探しているようだったが探しているものを見つけたのかある方向へ一直線に進んだ。
「どこに行くんだ? もしかして誰かと待ち合わせしていたのか?」
柚子の向かった方向へ視線を向けるとそこには誰も待っておらず、代わりに俺達が普段お世話になっている地元のスーパーがあった。
「待ち合わせていたわけじゃないのか。それにスーパーってまた何か買うのか」
俺は再び柚子が出てくるまでスーパーの近くで待つ。
しばらく待っていると柚子がお菓子が入ったビニール袋を片手にスーパーを出てきた。
確かにお菓子はコンビニで買うよりスーパーで買う方が安いしな、流石我が妹である。
スーパーを出てから柚子は迷いながらも徐々に住宅街の方へ進んでいく。
「まさか、俺の知らないところで両親公認の仲になっているのか?」
そして柚子の足がとある一軒家の前で止まった。
柚子は家のインターホンを押し、中から人が来るのを待っている。
一体誰と付き合っているんだ、柚子よ。
とさながら自分のことのように緊張しながら待っていると。
ゆっくりと家のドアが開いた。
開いたドアから出てきたのは……。
「柚子ちゃん、こんにちはです。ささ、上がってください!」
なんと中城さんだった。
確かに昨日俺のいなくなった後にもしばらく話していたみたいだし家に呼ぶってこともあり得るか。
どうやら俺の早とちりだったみたいだ。
俺がうんうんと頷いていると中城さんと目があってしまった。
気づかぬうちに柚子とともに自分も家の近くまで来てしまっていたらしい。
俺は隠れていた電信柱の裏に咄嗟に隠れるがどうやらそれは無駄な抵抗だったみたいだ。
「先輩そこで何してるんですか?」
俺は隠れることを諦め柚子と中城さんの前に姿を現す。
「いや、ちょっと本を買おうかと思ったらここまで来ちゃってね……ハハ」
「先輩、本屋だったら先輩の家の近くにありますよね」
なかなか痛いところを突いてくるな。
「先輩、まさかとは思いますが柚子ちゃんをつけてきたんですか? それだったら正直引きますよ」
「お前に言われたくないわ!」
やってしまった、ついつい乗せられて自分から暴露してしまった。
「お兄ちゃん……」
柚子の顔を見ると何とも言えない微妙な顔をしていた。
「その柚子さん、これは柚子さんが心配でですね……なんと言うかごめん!」
俺は柚子に謝ることしか出来なかった。
「……今週の風呂掃除」
ん? これは俺にしろということか確かにただで許してもらおうだなんて甘い考えだったかもな。
「よし、分かった。引き受けた!」
「……今週のご飯当番」
確かに風呂掃除だけで許してもらえるはずがないもんな。
「任せろ!」
「……ケーキ」
まさかケーキまでとは、これも仕方ないか。
「分かった。今度一ピース買ってくるよ」
「……ホール」
なんと一ホールでご所望のようだ。
これも……って。
「流石に勘弁してください!」
俺は頭を下げて懇願する。
「……仕方ない分かった、許す」
「ありがとうございます!」
柚子の前ではプライドなど皆無に等しかった。
例えここが学校の教室だとしても同じ事をしただろう。
なぜかって? そんなの決まっている。
ただ単純に柚子が怖いからである。
俺はこの日ある一つの大事なことを学んだ。
それは柚子を怒らせてはいけないということである。
それと同時に俺の日常はこうして続いていくんだなとも思った。




