顔だけ極悪人な俺は家に人を上げます。
目が覚めて、時計を見てみると針は午前の七時を指していた。
今日はゴールデンウィーク初日だが、まだ朝早いせいか住宅街だというのに窓からは一切音が聞こえてこない。
枕元に目を向けると一本で一日分の野菜が摂取できる野菜ジュースが置いてあった。
野菜ジュースを枕元に置いた記憶がないので、きっと柚子が俺の寝ている間に置いていったのだろうと当たりをつける。
多分昨日のお礼なんだろうなと相変わらず感情表現が下手な柚子の行動を微笑ましく思った。
俺はベッドから起き上がり、朝食の準備をするために身支度を済ませる。
我が家の朝食と夕食の当番はそれぞれ一日交代で決まっている。
例えば、今日朝食当番だった場合は明日の朝食は作らなくて良いが代わりに明日の夕食を作り、今日夕食当番だった場合は明日の夕食は作らなくて良いが代わりに明日の朝食を作ることになっている。
昔から両親が家になかなか帰って来なかったので、自然とこういう形式になった。
俺が自分の部屋から一階にあるリビングに下りると、既に柚子は起きていたようで挨拶をしてきた。
「……おはよう」
「…おはよう。あ、それとこれありがとな」
俺は手に持った野菜ジュースを見せ、柚子にお礼を言う。
「別にお礼言われるようなことじゃない……昨日助けて貰ったから」
まったく素直なのか素直じゃないのかわからんな。
突然ピンポーンと家のインターホンが鳴る。
どうやらもう来たみたいだ。
ソファーで柚子と昨日録画したバラエティー番組を見ていた俺は立ち上がり玄関へと向かった。
現在時間は午前十時を回ったところである。
柚子の方はというとインターホンが鳴ってから、今まで笑って見ていたバラエティー番組を無表情で見てしまうほど緊張しているようだった。
実に分かりやすい反応で可愛らしい。
そんな柚子の反応を思いだしながら玄関のドアを開け外を確認する。
「あ、先輩おはようございます! どうですか? この格好、似合いますか?」
「すみません。間に合ってます」
俺はそれだけ言い残しドアを閉め鍵をかける。
どうやら執事の勧誘だったみたいだ。
家は俺と柚子で家事は間に合っているからな、そこで無駄なお金はかけたくない。
俺はそう結論づけリビングに戻ろうとするがドアからは……。
「先輩! 何で閉めるんですか? 酷いです」
という声が聞こえてきた。
やれやれ……と心の中で呆れながら再びドアを開ける。
「あ、ごめん。執事の勧誘だと思ってて(笑)」
「その(笑)って何ですか? 絶対気づいてましたよね! だって(笑)使うくらいですもん」
「いや、そんなことないよ。ところでその格好は何?」
俺は誤魔化すため咄嗟に話題を反らす。
「おっと、これですか。先輩なかなか鋭いですね。先日流石に柚子ちゃんに悪いことしたかなぁって思って、それでお詫びに自分に何が出来るかって考えたら、こうなった訳ですよ!」
「……いやどうしてお詫びしたいと思ってそうなったんだ」
「チッチッチッ……先輩は分かってませんね。お詫びと言ったら奉仕、奉仕と言ったら執事ですよ!」
「メイドとかじゃなくてか?」
「この見た目でメイドってのも……」
「……確かに。まぁとりあえず上がってくれ。あと言っておくが柚子に変なことしようと考えるなよ」
「……そんなことするわけないじゃないですか」
今の不自然な間、絶対に何か考えてたな。
だが疑っていても仕方ないので中城さんを家に上げる。
柚子に名前は聞いたので名前で呼びたいが急に『あ、中城さん』などと名前を呼んだりしたら中城さんに『何で名前知ってるんですか?……ちょっと怖いです』と引かれかねない。
そうなったら俺のガラス製のプライドが粉々に砕けてしまうので俺は中城さんに名前を尋ねることにした。
「そういえば……名前って何て言うんだ……」
「え? 今何て言ったんですか?」
「だから……名前何て言うんだ……」
「え、聞こえないですよ。もっとはっきり言ってくれないと」
コイツ分かっててやってやがるなと俺は中城さんを睨む。
「ごめんなさい。あまりにも照れてる反応が可愛かったので。私の名前は中城彩夏ですよ」
「……俺は佐藤俊。そんなことは良いから早く行くぞ」
何が可愛いだ、この顔のせいで今までどんなに苦労したことか……という感じで俺は自分が言い出したことをそんなことと言ってしまうくらい混乱していた。
「わかりました! ようやく待ちに待った柚子ちゃんとご対面ですね! ワクワクします!」
中城さんのテンションの高さに既についていけなくなった俺はその後黙ってリビングまで案内する。
ドアを開け、リビングに入ると柚子が何故かソファーの上で正座をしてお茶を飲んでいた。
何やってるんだと思いつつも、中城さんに柚子を紹介する。
「中城さん、こちら妹の柚子だ。柚子、こっち来て挨拶しなさい」
俺は柚子にこっちに来るよう呼び掛ける。
「……ご、ごきげんよう」
だが柚子はソファーに正座をしたままどこかの貴族のような挨拶を返してきた。
柚子、お前まさか……コミュ障なのか。
確かに今まで家以外での柚子は見たことないが、まさかここまでだったとは思わなかった。
一方、中城さんはというと……。
「ごきげんよう! 柚子ちゃん! ハァハァ」
何か色々まずかった。
俺はこの二人に一抹の不安を覚えながらも中城さんを柚子の対面にあるソファーに案内する。
「中城さん、こっちにどうぞ。それと今お茶入れるよ」
大丈夫だろうかあの二人、特に柚子の方……と俺は不安になりながらもお茶を入れに台所に向かうのだった。




