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顔だけ極悪人な俺は妹を説得します。


「……ただいまー」


 あれから俺はどこにも寄らずに家に帰った。

 元々家に帰るために学校を出たのだから当然といえば当然であるが、もしかしたら町一周パルクールしながら家に帰るという人もいるかもしれない。

 俺の帰宅のルートを気にする人のための配慮である。

 まぁ配慮も何も思っているのは心の中だけなわけで気にする人がいたとしたらそれは俺を含めて一人しかいない……つまり俺は自分の思考にツッコミを入れて言葉遊びをしていただけである。

 これは普段話す相手が限りなく少ないことからの反動とかでは決してなく、やってみたら以外に面白いよということだ。

 そう、面白いからやっているのだ。

 まぁ流石に家にいるときまではしないが……。


「……おかえり」


 柚子はどうやら先に帰っていたようだ。

 丁度良いからここであのことを話してしまおう。

 そう思い、口を開こうとしたとき柚子が突然抱きついてきた。

 唐突なことだったので少しビックリしたがすぐさま落ち着き柚子に何があったのか問いかける。


「……いきなりどうしたんだ? 何かあったのか?」


「……うん」


「……嫌なことか?」


「……うん」


 俺はこの光景に小さかった頃のことを思い出していた。

 昔も今と同じく両親の仕事の都合で各地を点々としていた。

 そのためだろうか学校ではあまりクラスに馴染めないことが多かった。

 例え仲良くなったとしてもすぐに転校してしまう。

 それでも初めの内は友達を作ろうとし続けた。

 だがいつからかそれがバカらしいと思うようになり自ら人と関わるのをやめた。

 どうせすぐに転校してしまう、何をやっても結局は白紙に戻ってしまう。

 そのときの俺はそう考え家で遊ぶことが多かった。

 やはり兄妹なのだろうか、柚子も多くの時間を家で過ごすようになっていた。

 そして柚子は時々、学校から帰ってきたと思ったら俺に抱きついて来て……。

 そういえば、昔もこうして泣いてたっけ……。と俺は今の状況と昔の柚子の様子を重ね合わせる。

 おっとこうしてる場合じゃなかった。

 この状況をどうにかしないとな。


「とりあえず、リビング行くか」


「……うん」


 俺は柚子を伴ってリビングに移動し、柚子をソファーに座らせる。

 ちなみに柚子は移動するときもずっと引っ付いたままで少々歩きづらかった。

 さて、リビングに移動したは良いがどうしたものか……。

 落ち着いて来たようだし、もう一回聞いてみるか?

 俺は柚子と対面の位置にあるソファーに座り話を切り出した。


「なぁ柚子。何があったんだ?」


「……」


「もしかしたら、俺が解決出来ることかもしれないし……」


「実は……今日いきなりクラスの人に変なこと聞かれて……私、またイジメられてるのかな……って思ったらなんだか不安になって」


「そうか、辛かったな……何かあったらいつでも俺を頼ってくれて良いんだからな。それと話してくれてありがとな」


 俺は立ち上がり柚子の頭を撫でる。


「……うん」


「そうだ、何か暖かいものでも飲むか?」


「……ココア」


「はいよ」


 俺はココアを入れるため台所に向かった。

 そして俺は……。

 いやいや、あの野郎何やってくれてるんだ。

 距離を置かれているっていうレベル越えてるよ! もはや引かれてるよ! 天元突破だよ!

 と俺の頭の中でサムズアップしてる例のストーキングをしていた女子生徒に心の中で文句を言っていた。

 どうするか、あの話……タイミング見て言おうとしていたが状況的に無理そうだ。

 もし、うっかりこの後『ココアお待たせ……そういえば、柚子に変なこと言った人が多分明日家に来るかも☆楽しんでね♪』と言ってしまえば柚子の俺に対する信頼というものが塵も残さず綺麗に消えてなくなってしまうだろう。

 信頼がなくなることだけは避けなければならない。

 そう俺は決意し、マグカップに入れたココアを柚子の元へ運ぶ。


「ココアお待たせ。熱いから気をつけて飲めよ」


「……ありがとう」


 ここで急いではいけない、早く伝えることを伝えて楽になりたいという気持ちを抑え、じっくり観察して最善の時を待つのだ……。

 俺は静かに耐え忍ぶ忍者の如く屈強な精神を持ったつもりで最善の時を待つ。


「……何?」


「……いや何でもないよ、気にしないでくれ」


 どうやらガン見してしまったようだ。

 危ない危ない、一回冷静になろう……スーハースーハー、よし。


「なぁ柚子……そのな、変なこと言ったヤツってどんなヤツだったんだ?」


「……」


「あ、嫌だったら答えなくても良いんだぞ」


「……同じクラスの中城彩夏(なかじょう あやか)っていう人で……普段話さないからわからないけど……男っぽい人……」


「柚子、話してくれてありがとな」


 さて、ここからどうしたものか。

 例の女子生徒も悪いことをしたにはしたけど、それは仲良くなりたいという思いからであって……とにかく例の女子生徒に悪気はないのだろう。

 まずはそれを伝えなければ行けないだろう。


「柚子、その人はもしかしたらイジメているつもりはなかったんじゃないかな」


「……」


「実はな、今日その人が俺のところまで相談しに来てたんだよ。柚子と仲良くなろうとしたけど失敗したーって」


「……」


「ちょっと言動はおかしいけど悪いヤツではないと思うんだ」


 言動はおかしいがそれは柚子とお近づきになりたいという気持ちが強すぎたためだ。


「……」


「悪いことしたから、だからって言うのも変だけどそいつのこと許してやってくれないか?」


 俺は普段は例の女子生徒のこと変人、ストーカーなど思っているが心の底では案外良く思っているのかもしれない。

 主に柚子に一途という面で…。

 今まで柚子には家族以外でこんなにも思ってくれている人はいなかった。

 柚子は贔屓目なしで見てもかわいいというか美人だ。

 だからだろうか、周りの目線といえば嫉妬や妬みそんなものばかりだった。

 でも彼女は違った、嫉妬や妬みではなくちゃんと柚子と向き合おうとしてくれた。

 それは人生の中で早々に出会える存在ではないだろう。

 だから、柚子には彼女を大事にして欲しい。


「……わかった」


「それで何だけど、明日家に来ることになっているんだが……」


 どうだ? どんな反応をしてくるんだ?


「……大丈夫、私も一回会って話してみたい」


 良かった、そう聞いて安心した。


「でももし身の危険を感じたらすぐ俺を呼んでくれよ」


「うん、ありがとう……お兄ちゃん」


 俺は柚子の最後に小さく呟いた『ありがとう、お兄ちゃん』という言葉を聞き逃さなかった。

 この言葉だけで三日は飲まず食わずで生きていける。

 そのくらい『ありがとう、お兄ちゃん』と呼ばれるのは嬉しいことだった。


「じゃ柚子、俺は上行くからな」


 それから俺はそう言い残して二階の自分の部屋に上がった。


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