顔だけ極悪人な俺は夢を見ます。
人は外見より中身が大事である。
そんなことを言い出した人ははたして誰だったか。
いくら外見が良くても、中身がどうしようもない人間だったら確かに嫌であろう。
では世の中の人間が求めるのは内面だけなのか。
当然そんなことがあるはずもない。
結局内面が重要と言われているのは最低限の外見を兼ね備えた者達だ。
それ以外の人はどうすれば良いかだって?
そんなの俺が教えて欲しいくらいだ。
つまり人間は口では内面が大事と言っておきながら結局は外見を重要視するのだ。
そんな世の中に俺はこう言いたいクソくらえと。
辺りに雨の匂いが立ちこめる中、俺は凸凹して歪な形のアスファルトロードの上を歩いていた。
俺の数十メートル先では男子小学生達が傘を振り回して遊んでいて少々騒がしい。
傘持ってきた方が良かったか……。
どんよりと曇って今にも雨が降りだしそうな空と周りの人達を見てそう思った。
現在俺は自らが通っている学校へ登校中である。
今は五月で後一ヶ月もすれば多くの人が憂鬱になるであろう季節、梅雨というやつだ。
俺は案外この季節が好きだったりする。
雨で周りの音が遮断されて、まるでこの世界には自分一人しかいない感覚になるからだ。
いつもは妹と一緒に登校するのだが今日は日直らしく朝早くに家を出ていった。
なので今はひとり寂しく登校している。
しばらく歩いて学校前の坂までたどり着く。
しかし、この坂なぜ学校の目の前に、と思うぐらい急な坂である。
実際に測ったわけではないが角度にして三十度はあるだろう。
坂を登りきった校門前では五月からスタートした挨拶運動という取り組みを生徒会が行っている。
俺は挨拶を交わし、足早に自分の教室に向かった。
「じゃこれで今日のホームルーム終わりな。今日も適当に頑張れよ」
やる気のない発言を残したのは我がクラスの担任、桜田先生だ。やる気はもちろんないし、生気もない。
この先生本当に大丈夫何だろうかと思ってしまうほどに。
やる気のない桜田先生はそのまま教室から出ていく。
「俊君………おはよう。今日も元気みたいね」
俺に声をかけてきたのは幼なじみの追川 涼香。
クラスメイトだ。
涼香の後に続いて他のクラスメイト達も俺に挨拶をしてくれる。
「おう、涼香おはよう。みんなもおはよう。なんかみんな今日はやけに………みたいだな」
自慢じゃないが俺はクラスではかなり上手くやっていけている方だ。
相手が困っていれば自らが率先して助けるし、逆に自分が困っていれば、自然と周りが助けてくれる。
そういった助け合いの精神が上手くやっていく秘訣だと思う。
「そうかな? そん………はないと………けど」
なんだか今日は声が聞き取りづらいな………。
それに急に頭が揺さぶられるような感覚が………。
そして次の瞬間には自分の部屋の天井が見えた。
「ですよね、夢ですよね………それよりさっきから頭が……イタタタタタ!」
現実は厳しきかな。
今のは全て夢だったようである。
願望であり、妄想であり、自分が手に入れられなかったものだ。
そう考える俺の頭にはお腹に巻き付けるタイプのダイエットマシーンが巻き付けられていて、振動していた。
小刻みに揺れるそれは一秒間に数百回振動するらしく、毎秒数えきれないほどの脳細胞を破壊していた。
このマシーンを考えたヤツは頭がおかしい。
そう思う今日この頃であった。
なんとか取り外し、頭にダイエットマシーンを巻かれることになった原因を探る。
まぁやりそうなヤツはこの家の中ではアイツだけだろうな。
俺の頭は朝起きたばかりなのにも関わらずフル回転していた……もしかしてこのダイエットマシーンのお陰か? とあらぬ方向に思考が飛びかけるもなんとか思考を元に戻す。
俺は我が家の魔王兼妹の佐藤柚子を思い浮かべる。
柚子の非道な行いはこれが初めてではない。
以前は朝起きると、部屋の中の家具や小物を豪華に使ったピタゴラ装置が作成してあった。
そのままテレビに出しても恥ずかしくないレベルのものである。
そしてそのときに限って朝部屋まで俺を起こしに来るのだ。
いや、起こしてくれるのはありがたいが、せめてもっと普通の起こし方をだな………。
ドス、ドスっと下から階段を上る足音が聞こえてくる。
どうやら今回も柚子の御出座しのようだ。
「……お兄ちゃん。もう起きた?」
階段を上がりながら柚子が声をかけてくる。
足音が部屋のドアの前まで来るとガバっと勢い良く俺の部屋のドアが開かれた。
柚子は年頃の兄弟の部屋に入る時でさえノックはしないようだ。流石は魔王様である。
「柚子よ、せめて部屋に入る時はノックして欲しい」
それに対する柚子の反応がこちらだ。
「……なんで?」
なんということでしょう! こちらを気遣う様子が全くないではありませんか! と某番組の匠の仕事を絶賛するナレーションみたいなことを思った。
果たしてこの対応は『兄弟なんだから部屋なんてものに縛られず仲良くやっていこうぜ』という意思の表れなのか、はたまた『なんでテメェなんかに気を使わなきゃならないんだよ、オラ!』という意思の表れなのか、俺が知る由もない………これは間違いなく前者であろう……と思われる……たぶん。
まぁそんなやり取りは置いといてそろそろ起きないと学校的なあれでいろいろヤバい。
余談だが、この住みやすい現代日本では『ヤバい』という単語を使っていればどうにかなる節がある。
『ヤバい』は【この服どうおもう?】というような相手の問いかけに対して使うことが出来るし、相手の話に同調するときにも使える。もう万能すぎてヤバいと思う。
なので先程言いたかったことも大体分かるのではないだろうか。
頭を学校モードに切り替えた俺は妹の柚子を部屋から早々に追い出し、学校に向かう準備をした。
「今朝の夢は最高だったな……」
そうため息を漏らしながら呟いている俺は 今日も一人で登校中である。
佐藤 俊、どこにでもいる人畜無害の高校2年生で趣味は本を読むこと、休みの日は家でダラダラするのが日課となっている。まさしく俺のことである。
俺の通っている学校はありとあらゆる専門的な分野を学べる総合学科という学科の学校で柏崎高等学校という。
俺には可愛い妹、柚子がいて父は海外出張、母は仕事が修羅場化することがしょっちゅうなので実質家族二人暮らしだ。
「ひっひぃぃぃ!」
突然の悲鳴に俺は思考から現実に引き戻された。
何かあったのかと振り向くと五メートル程後方に同じ学校の制服を着た女子生徒が怯えたような様子で立ち竦んでいた。
とりあえず何があったのか聞くためにその女子生徒に近づく。
するとその女子生徒も近づいた距離の分後ろに下がる。
あれ? と一向に距離が縮まらないことに疑問を覚える。縮まらない僕と君の心の距離……うん何でもない、すぐに忘れて欲しい。
もしかして、いやもしかしなくても俺が原因か? そう思い出来るだけ優しい声を心掛けて話しかけた。
「あの………どうかしました?」
「い、いえ、す、すみませんでした」
すると女子生徒は涙を浮かべながら走り去ってしまった。
俺はその場に立ち尽くす。
「俺なんかやったっけ?」
俺は朝から心にダメージ受けながら学校へ向かった。
ダメージを受けながらというのもこのやり取りを学校の通学路かつ最も登校する人が多い時間帯に行ったことにより多くの人たちに見られていた。
つまり非難の視線が俺に継続的にダメージを与えていたのだ。
例えるならば、男子が女子の着替えている最中に女子更衣室内を堂々と歩き回るようなものである。もはや勇者だ。
そんな勇者な俺はなんとか周りからの非難の視線を耐え抜き自分の教室に入った。
教室に入ると今まで騒いでいた奴らが嘘のように静かになる。
少しするとヒソヒソと声が聞こえ始める。
俺は気にすることなく窓側の後ろから二番目の自分の席着いた。もうお気づきだろう。
俺だって認めたくないが事実である。
俺こと佐藤 俊は学校中から恐れられている。