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魔女のガラスの靴

作者: 五円玉

全てはあらすじで書いた通りです。


よろしくお願いします。

むかしむかし、あるところに1人の若い魔女がおりました。


ボサボサの髪に半開きな眼、着ているローブは飼っている猫の毛だらけ。


完璧、寝起きが見て取れる魔女でした。


「うぅ…昨日はソファで寝ちゃったから…首痛い」


魔女は箒に乗って地を蹴り、空へと浮かび上がります。


今日は魔女の師匠に当たる人物から、魔法の手ほどきを受ける日。


しかし魔女は昨晩、近所に住む農夫たちと遅くまでボードゲームを嗜んでいたせいで寝坊。


師匠との待ち合わせの時間まで、あと少しというところまで迫っていました。


魔女はまだ半分寝ている頭を無理やり揺さぶり、師匠の待つ館へと、箒を走らせます。


「遅刻したらまた魔法でネズミに変えられちゃう…あの魔法、解けるのに時間がかかるんだよなぁ…嫌だなぁ…」


魔女は愚痴をこぼしつつ、広大な空を箒に跨り、飛び出していきました。









魔女が師匠の待つ館へと向かう、道中。と言うか空中。


魔女の目に、1軒の屋敷が入りました。


魔女の真下…そこにあったのは、赤い屋根に煙突が1つの二階建ての屋敷。


魔女がよぉ〜く目を凝らして、その屋敷の…庭を見てみると、


「この小汚い娘っ子がっ! 私の靴に触らないで頂戴なっ!」


「そうよそうよっ!小汚いアンタは私たちのモノには一切触らないでくださいましっ!」


「汚い汚い…あぁ嫌だわ、菌が移る。ばっちい菌にはシュシュっとファ○リーズでも掛けてあげるわっ!ほらっほらっ!」


…屋敷の庭では、3人の娘が1人の少女に向かって乱暴をしていました。


ある娘は少女に向かいモノを投げ、ある娘は少女に向かい悪口を言い、ある娘は少女に向かい除菌殺菌をしていました。


少女は3人の娘に囲まれて、小さく蹲り…必死にソレを耐えていました。


「うっわぁ…出たよ、現代っ子の陰湿なイジメ問題。これ、教育委員会に申し出たら夕方のニュースのトップ特集になるやつだ」


と、魔女は空からその娘たちのやりとりを見て、1人明日のニュースの特集予想を開始します。


…ふと。


魔女の脳裏に、先日師匠から言われたとある言葉が再生されます。


『良いですか? 魔女たる者、立派に人助けしてこその魔女です。困っていたり、泣いていたり、春の文の砲に撃たれそうになっている人がいたら、助けてあげなさい』


「…人助けしていたら、ついつい時間がかかってしまい、師匠さまのご指導の時間に遅れてしまいました」


ボソっと、魔女が呟きました。


「あー…コレかな。どうせ今から全速力で行ったって、時間には間に合わない。だったら、これを言い訳にして…うん、アリよりのアリ」


魔女は1人頷くと、そっと箒を降下させ、近くの森へと降りて行きました。










その日の晩。


魔女は、例の少女が1人になるタイミングを庭の茂みに隠れながら待っていました。


…今は秋の月の半ば。


もう夜ともなれば、冷え込みも激しく…


「…寒っ」


魔女はひたすらにローブに包まり、寒さに耐えながら少女を待っていました。


ずっとずっと、待っていました。


待っています。


ずっと待っています。


しかし、




中々少女は現れません。




「…呼び鈴鳴らす…のは、マズいかな」


ついつい寒さに負けそうになり、楽な道の模索に思考する魔女。


時たまに吹く冷たい夜風が、魔女のやる気をどんどん削いでいきます。


その時でした。


「……」


ふと、バルコニーの扉が開き、あの例の少女が現れたのです。


「きたきたきたっー!」


魔女は茂みの中で小さくガッツポーズ。


少女の周りに他の人影がいないのを確認し、颯爽と茂みから飛び出します。


「ヘイガール! 何だかお困りの事でもおありかな? 良かったらこの魔女に何でも言ってくれたまえ!」


颯爽と茂みから現れた、ボサボサの髪にボロボロのローブを纏った黒ずくめの女。


に、少女はビックリし、腰を抜かし、思わず尻餅をつき、結果腰を痛打。


表情が一気に曇ります。


それを見た魔女、あたふたあたふた。


「ごっごめんっ!驚かすつもりは無かったんだ、ごめんっ!」


魔女は咄嗟に魔法でサロン○スを生成しようと思いましたが、まだ物質生成魔法を上手くこなした事が無いのを思い出し、少女の腰をさする行為に留めておく事にしました。








「改めて…こんばんは。アタシは魔女!よろしくね?」


魔女はにっこり、満面の笑みで少女に語りかけます。


一方の少女は、


「……」


先程痛打した腰をさすりつつ、仏頂面のままで魔女を睨みつけます。


「あー…その件はホントごめんって!驚かすつもりは全くなかったんだ、ごめん!」


あー…この子、根に持つタイプかな…と魔女は内心メンドくささを感じつつも、にこやかに少女へ謝罪。


「で…ね、今日はあなたの願いを1つ、叶えに来たんだ!」


謝罪をしても未だ仏頂面な少女に魔女はとうとうメンドくささを表に出し、本題へと話を切り出します。


「……?」


少女は魔女の言葉に、硬い表情を若干和らげ…疑問の表情を浮かべました。


「アタシは善良な魔女! 困っている人がいたら助けるのが道理な魔女! あたな、なんか今…困っていることがあるでしょ?」


その問いかけに、少女は軽く驚いた表情に。


「なーんでも言ってごらん! アタシのスーパーマジックで、何でも願いを叶えてあげるわ!(物質生成魔法以外なら)」


魔女は少女の表情を見て、あっコレはいける…と察し、善行の押し売りに打って出ます。


すると、少し間を置いたあと…少女が、口を開きました。




「Will you grant even what kind of wish?」




(英語だー!!?)


魔女は固まりました。


魔女は、語学力が皆無でした。


(うわぁ…どうしよう、わっかんないよ…えーっ)


少女は、訝しげに魔女の方を見ます。


「あー…えっと…」


魔女は空っぽの頭をフル回転させて、なんとか返答を絞り出します。


「あー…ハッピー!アイムハッピー!オーケーオーケー、トップバリューダディ!」


知ってる英単語を、片っ端から言ってみました。


無論、これは伝わってないな〜感を返答した魔女本人が感じながら。


「…Do you understand the meaning of the words that I say?」


あぁコレはダメなパターンだ、と魔女は思い、この少女に目をつけたことを後悔し始めました。


そして、魔女が返答に困り…会話を諦め、ふと頭上に輝く満天の星空を眺めていると、


「…あのー」


「…えっ?」


目の前にいた少女が…日本語を話し出しました。


「…英語、通じない方だったんですね。なら、この言葉なら分かりますか?」


少女の流暢な日本語での問いかけに、魔女は思わず


「なら最初から日本語で話しんしゃいなっ!!」













「私の名前はシンデレラ。この屋敷に住んでるの」


あれからすったもんだあって。


魔女は少女…シンデレラとバルコニーの手すりに腰掛け、夜空を見上げながら会話をします。


「今日はね…あの山の麓にあるノイスヴァンシュタイン城で…舞踏会が催されるの」


シンデレラが指差す先には、大きな山が1つ。


その麓に、白く真っ白で純白なお城が聳え建っていました。


「武闘会? 何それ凄そう!」


魔女はキラキラした目でお城の方角を見ます。


「あー…多分違うやつを想像してると思うわ、魔女さん」


シンデレラは苦笑しつつ、そっとお城から目を伏せました。


「…今日は、私のお姉様方はみんな…ドレスを着て馬車に乗って、あのお城へ向かったの。舞踏会に参加するために」


「何? シンデレラのお姉さんって格闘家か何かなの? にしては、昼間の集団暴行は拳に力が入ってなくて、素人感をプンプン感じたけど…」


「…魔女さん、まず何から突っ込めば…」


シュッシュッとシャドーボクシングよろしく正拳突きを見せる魔女に、シンデレラは苦笑をさらに浮かべ。


そして。


「…私、舞踏会には1回も行った事がないの。いつもお留守番で、義母さまや姉様たちだけが、いつも…いつも…」


ふと、魔女はシンデレラの…その、切なくも儚い横顔が目に入り…


そして、昼間…この庭で行われていた、あの集団暴行事件を思い出していました。


「…でも、私はドレスもアクセサリーも持ってないから…こうやって、お留守番ぐらいしか出来なくて…えへへっ、笑っちゃうでしょ?」


魔女は…今着ているシンデレラの服装に気が付きました。


…ボロボロで、ツギハギだらけのペラッペラな服。


土と泥で汚れた、見窄らしい靴。


木の皮で出来た腕輪。


綺麗な顔立ちながら、肌は荒れ髪は乱れ、


とても…とても、そのシンデレラの作り笑いが、痛々しく見えて。


昼間、シンデレラのお姉さん達が着ていた服は、もっと豪勢で煌びやかで、どっちかと言ったらお水の仕事してるみたいな服装だったのを、魔女は思い出します。


「…1回でいいから、舞踏会に参加したいなーって思ってはいるけど、私はあくまで…義母さまの本当の子じゃないから、ずっとずっとお留守番なの」


そして、シンデレラは続けます。


「もしあなたが本当の魔女さんで…私の願いを叶えにやって来てくれたのなら…


私を、1回で良いから、舞踏会に連れて行って欲しいの…」


シンデレラは、真っ直ぐに魔女の方を見つめました。


「…なんて、そんな都合よすぎるわよね」


その一瞬ののち、シンデレラはふにゃっと笑みを浮かべ、視線をノイスヴァンシュタイン城の方へと戻しました。


「…分かったわ」


魔女が、ボソっと呟きます。


「…えっ?」


シンデレラはその呟きに連れ、もう一度魔女の方へと視線を向けました。


「オッケー分かったわ! この大魔法使いのアタシが、あなたの願いを叶えてあげる!」


魔女はバルコニーの手すりに足を掛け立ち上がると、腕を腰に当て…真っ直ぐにシンデレラの方を見つめながら、力強く言い切りました。











「ちちんぷいぷいの〜ひらけゴマ!」


ぼふんっ!!


魔女が小型収納可能な伸縮機能付きのステッキを振るい、目の前にあったカボチャに魔法を掛けます。


刹那、虹色の煙が辺り一面に広がり、魔女とシンデレラの視界を遮りました?


「げほっげほっ…ちょっ…ま、魔女さん。これは…」


煙が目に入り前が見えなくなったシンデレラ。


手を伸ばし、目前にいるハズの魔女を探し、煙の中を彷徨います。


すると、


「…あっ」


突如として煙が晴れ、そしてシンデレラの目の前には…


1台の、カボチャの種の馬車が、そこにありました。


「へっへーん。これぞアタシの得意な変異魔法!あのカボチャが、馬車に早変わり〜!」


得意げに腕を組み、ドヤ顔を決める魔女。


シンデレラは、思いました。


(これ…カボチャの、種の、馬車よね。実の部分はどこに…)


たまたまバルコニーの隅に置いてあった明日の朝ごはん用のカボチャが、気が付けば種の形の馬車に。


(カボチャの種の馬車…どうしよう、このカボチャが無ければ明日の朝ごはん…献立が狂うわ…これじゃ、またお姉様たちに…)


シンデレラはちょっと泣きそうになりました。


しかし、そんな事は知らずに、魔女は次々と魔法を掛けます。


「あーした天気になーあーれっ!」


ぼふんっ!


またしても虹色の煙が辺り一面に広がり、むせ返るシンデレラ。


「げほっげほっ…」


そして暫くの後、またしても急速に煙が晴れだし…


「…あっ!」


シンデレラは自分の身なりを見て、驚きました。


水色を基調とした、フリルの可愛らしいドレス。


パールをあしらった、煌びやかなネックレスにブレスレット。


髪は綺麗に整えられ、今時の眉下ぱっつんの可愛らしい髪型に。


肌荒れも治まり、程よいナチュラルなメイクが施され。


そして…足元には、ガラスの靴。


「どう?可愛いでしょ?」


ニコニコ顔の魔女。

まるで一仕事終えたかのような、達成感のある顔をしていました。


シンデレラは…自分の今の身なりに驚きつつも、冷静な目でチェックを施します。


「ねぇ魔女さん」


「ん?なに?」


「…素足にガラスの靴って、危なくない?」


「…えっ?」


突然のシンデレラファッションチェックに、思わず魔女は素っ頓狂な声を上げました。


「だってこれ、万が一躓いたりしてガラスの靴が割れたら、足に破片が刺さって大変な事になるわ」


「え、えぇ…」


魔女はまさかここまでしてあげて、文句は無かろう…と勝手に思っていただけに、

予想外の展開に、固まるしかありません。


「私、普通のヒールの靴とかで良いの。とにかく安全が第一よ。それにこの服、化学繊維で出来てるじゃない。これじゃ静電気がパチパチだわ、せめてコットンをたっぷりなヤツに…」


シンデレラは、気にしぃな性格でした。


「…あっ、うん。ごめん」.


魔女は取り敢えず、謝りました。


取り敢えず、です。










結局、天然繊維100%のドレスに、靴はガラスっぽい加工のされたヒールの靴が選ばれました。


また、メイクもアイシャドウが若干弱いとの指摘があり、目元のくっきり感を意識したメイクに変えました。


また、パールはなんかオバサン臭いとの指摘もあり、急遽ブルーサファイアの装飾がされたアクセサリーに変更。


しかし、出発寸前になってやっぱり色が違うとのことで、青のサファイアから紫のアメジストに変更。


魔女は、何だか疲れていました。


シンデレラは、何だかホクホク顔です。


「では魔女さん、舞踏会に行ってきます。姉様たちが帰ってくるまでに、畑からカボチャを1つ取ってバルコニーに置いておいてね。では、チャオっ」


こうして、シンデレラを乗せたカボチャの種の馬車は勢いよく…ノイスヴァンシュタイン城に向かい、走り出して行きました。


魔女は、走り去る馬車に対し睨みを利かせ、


ふと、ステッキを一振り。


「…先程の魔法に時間制限を設けます。設定は夜中の0時。0時で強制解除。魔法を掛けた衣服は全て消え去ります。…よしっ」


ぼふんっ!


と、虹色の煙が辺り一面に広がりました。













魔女は箒に跨り、ノイスヴァンシュタイン城の上から舞踏会の様子を眺めていました。


「…ふっふっふ。シン公め、人の善意にかまけて色々文句を言ってくれたな。変異魔法って使うとめっちゃ疲れるんだぞ」


魔女は、まさに悪のような笑みを浮かべていました。


「…よしよし、シン公は何も知らずに踊っているな」


魔女の目下では、天然繊維でできたドレスを纏うシンデレラが、なんだか石油を掘り当てた王様みたいな格好の人と、仲睦まじげにダンスを踊っていました。


シンデレラは初の舞踏会…かつ、不慣れなダンスにステップがおぼつかず、何回か転んでいました。


化けの皮が剥がれるのも、なんだか時間の問題のような気がします。


「…めっちゃ田舎者感丸出しだな、シンデレラ」


その後もシンデレラはパーティの会食でキャビアばかりを狙って食べたり、


先程一緒にダンスを踊った石油王(仮)に目を付けて寄り添って言ったり、


その石油王(仮)に対しにゃんごろポーズをかましたり、


とにかく、やれる事はやってました。


「…あざとっ」


魔女はちょっと、いやかなり…引いてました。


「にゃんごろポーズなんて…古っ」


魔女はバリバリの現代っ子です。


そうこうしているウチにも、時は進みます。




リーンリーンっ


ふと、ノイスヴァンシュタイン城に響き渡る鐘の音。


それは、0時を告げるチャイムでした。


魔女は手元の懐中時計を確認します。


「魔法は0時に発動する…つまり、どんなに粘ろうが、最低でも0時0分59秒までには、シンデレラはこの人ばかりの舞踏会の中で…哀れ、素っ裸!」


ニタぁ…っと笑う魔女。


そこには善意などなく、腐りきった悪意しかありませんでした。


そして、


ほわほわほわ〜…っと、目下のノイスヴァンシュタイン城から、虹色の煙が上がり出します。


煙は次第に強くなり、城一面を覆うほどにまでなりました。


「なっ、なんだっ?」

「火事かっ!」

「この煙…虹色っ?」

「一酸化炭素中毒に気をつけろ、伏せるんだっ」


煙に包まれた城から、人々の悲鳴がこだまします。


「ふっふっふー! これぞまさにシンデレラ・イズ・デッド! 哀れシン公、あなたの社会的人生はここまで…」


高らかに笑う魔女。


の、視界に…


煙の中、ノイスヴァンシュタイン城のデッキの隅で1人…(うずくま)る、少女の姿を捉えました。


この舞踏会の中、1人…何も纏わぬ裸体で、ただ1人、デッキで蹲る少女。


その少女の背中…には、




無数の打撲痕や切り傷、かすり傷、火傷の跡がありました。


肩や腕、足にも無数の傷があり、


見ていて…とても痛々しいモノでした。





魔女はふと、昼間に見たシンデレラの姿を思い出します。


姉たちから、集団暴行を受けていた、あの泣きそうになっている、シンデレラの姿を。


「…あーもう、あーっ!!」


魔女は頭を抱えます。


「…ずるいぞ、これ」


その時、デッキの隅で蹲る少女の元に、1人の人影が近づくのが見えました。


その人影は、さっきの石油王(仮)でした。


石油王は煙でハッキリと見えてないながらも、少女の人影には気付いたらしく、助けに向かっているようです。


一方の少女はその迫り来る人影に気付き、両手で一生懸命に前を隠しながら…その場で震え、蹲るのみ。


「…反則です。レッドカードです。だめ、もうダメ」


魔女は…溜め息を吐きつつ、ステッキを振るいます。


「アブラカタブラのカタブラ!」


ぼふんっ!


またしても虹色の煙が辺り一面を覆います。


そして、煙が晴れた、そこには…




「おう少女よ、大丈夫でしたか?」


煙が晴れたデッキで、石油王がその場に蹲る少女に近付きます。


「あっ…って、え?」


一方の少女は…自らの着ている服に、驚いている模様。


…化学繊維バリバリのフリル付きドレスに、パールのネックレス、ナチュラルなメイク。


そして、ガラスの靴。


ちなみに少女の足…は、素足ではなく、厚めのストッキングが履かれていました。


「…これなら、転んでもまだマシでしょ」


上空からそれを見守る魔女は、つまらなそうに呟きます。




その後、少女は恥じらいからか、全速力で城を後に走り出しました。


それを見た石油王は、少女を必死に追いかけます。


しかし、日頃の雑務から足腰の強い少女には追いつけず、石油王は途中でバテて、追跡をやめてしまいました。




…少女は道中、城の入り口の階段で片方のガラスの靴を落としてしまいました。


「あっ…」


少女は一瞬立ち止まりますが、直ぐにまた走り出しました。


「…あんなの履いてたら、靴擦れしちゃうわ」


もともと、自分の足に対しなんだか小ささを感じていた、ガラスの靴。


少女は止まらず走り続け、夜道を全力疾走。

結果厚めのストッキングはビリビリに割かれ、結局足は傷だらけ。


「…ストッキング、2枚重ねの方が良かったかな」


魔女はそんな少女の背を見ながら、中途半端な後悔を浮かべていました。












翌日。


石油王は城の入り口の階段に落ちていたガラスの靴を拾い、その持ち主を探すと街中を彷徨い始めました。


あの靴を履いていた少女が、あのにゃんごろポーズをしてくれた少女だったと気付き、ちょっと惚れた故に…


街の民家を片っ端から周り、この靴に合う足の女性を探していると聞いて周り、


結果、足フェチの変態の烙印を民衆から押される羽目になりました。


そして勿論、石油王は少女の家にも訪れ、姉たち含めてみんなにガラスの靴を履いてもらう事にしました。


姉たちはもちろんサイズが合わない。


そして…少女も、ガラスの靴を履いたは良いものの、サイズが合いませんでした。


…少女の足は夜道を駆けた時に出来た傷がいっぱいで、指先の靴擦れの後など、全く分からないくらいになっていました。










「こらっエマ! あんた、待ち合わせの時間から1日以上遅刻ってどういう事なのっ!」


「うわっ、違うんです師匠! アタシ、ちょっと人助けをしてて…」


とある魔女の館。


年老いた老婆の魔女が、まだ若い女の子の魔女に向かい、説法を説いていました。


「問答無用! あんた、またネズミの姿になりたいみたいね…」


「違う、違うんです! 本当に人助けをしていたんですってば! 師匠ぉ!」


真実?を言っても聞いてもらえない魔女…エマは、半泣きになりながら必死に師匠の魔女に訴えます。


「証拠!証拠だってあるんですよ! ノイスヴァンシュタイン城、ノイスヴァンシュタイン城に、


アタシにピッタリ合うサイズのガラスの靴が…あっ!」


その時、エマはある事を思い出しました。




あの夜、石油王が間近に迫り、いつその裸体を見られるかわからない距離にまで迫っていた、あの少女。


に、咄嗟に衣服を着せる魔法を掛けた、エマ。


しかしエマは物質生成魔法には疎く、何か0から作る場合は…サイズの基準になり得る何かが必要でした。


そこで、取り敢えず…あの場で少女に着せた衣服は、自分のサイズを元に作ったのです。


「そっか、だから…あの時、キツキツ過ぎて逆に靴が脱げたんだ。なんだ…」


少女…シンデレラに比べて、エマの方が若干小ぶり。


「いやしかし、ってことは…何? もしかして今アタシがノイスヴァンシュタイン城に行ったら…靴のサイズがピッタリで、まさかの石油王に…うわっキタこれ、玉の輿!」


エマの瞳にはお金のマークが浮かんでいました。


「…エマ?」


「あっ…」


目の前に浮かんでいたお金がパっと消え、そこには怒り顔の師匠。


手には、魔道書と杖を持っていました。


「あっ…師匠、ちがっ」


「エマよーネズミになぁれっ!」


ボカンっ!







その日、とある館の中から、終始ネズミの大きな鳴き声…ならぬ、泣き声が響き渡っていましたとさ、




めでたくない、めでたくない。

新年明けましておめでとうございます!

自身今年初の作品がコレになりました。正月感皆無ですが。


今年は何作投稿出来るか…今から微妙なところですが、今年もよろしくお願いします。


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