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第6話:オカマがいいかマカオがいいか真剣に考えてみたくなったんだ。分かるだろ?


赤に染まった雲が上空を流れていく。ああ、雲はあんなに有意義に空を旅できるのに、僕はここで何をしてるんだろ。


僕は河川敷にいた。一人、目の前で流れる川を見つめていた。近くにあった石ころをひょいと掴みとり、川に向かって放り投げた。虚しくぼちゃん、という音だけが聞こえた。


「僕、何がしたかったのかなぁ」

僕は体育座りをして顔を埋めた。


最初から可笑しいと思ってた。サディストや妄想ナルシストが教師だったり、メイド服を着た不思議ちゃんや探偵なのに暗殺者とか……全部有り得ない話だ。


だって僕が目指していた場所は勉学の道を志す者なら誰でも憧れる、あの『特進クラス』だ。バリバリのお堅い優等生しか居ないはず。それなのに何故あんな意味不明な人しかいないんだ。


「勉強が、好きだっただけなのになぁ」

僕はまた近くにあった石ころを掴み、投げようとした。


「うっうぅ……僕、普通がいい。普通に授業したいよ」

駄目だ、僕!ここで泣いたらまたオカマって呼ばれちゃう。泣くな!男じゃんか。


「明日香」

後ろから声がした。振り返るとそこには幹君が立っていた。僕は手で目を擦り無理矢理笑顔を作った。

「さっきは悪いな、取り乱しちまって。俺の言ってた事はそのー忘れてくれ」

え?なんか言ってたっけ?ごめん、幹君。僕それどころじゃないや。


「なんかあったのか?元気ねぇな」

幹君は隣に座り僕の顔を覗き込む。


「さっき、サディストが闘牛に追い掛けられてたんだ」

「へぇ、そいつは凄いな」幹君は感嘆の声を上げる。

「何とも思わないの?幹君、特進クラスって今までずっとこんなのだったの?僕さ、がっかりしたんだ……みんな遊んでばっかりで授業もしないで。僕が目指してた所ってこんな物だったんだぁって」

堪えていた気持ちが溢れ出た。僕は頬を涙で濡らしながら幹君を見据えた。

なんて弱いんだろ、僕は。こんな事で泣くなんて。


「――いいんだ」

「え?」

「なんて可愛いんだ!!」幹君はそう言って僕を力付くで抱き寄せる。


「は、離して!幹君!」

「離したいのは山々だけど体が俺の気持ちと反比例するんだ!あぁ……今すぐ女を好きになれる薬があったら飲みたい」

何言ってるんだ、幹君。冗談を言うのは止めてくれ。僕は真剣に悩んでるのに。


その時、僕達の足元に解読不可能な無数の文字が浮かんだ。

「幹!御主人様から離れなさい!」

ふと横を見ると、ほうきをふりかざしたお宅さんが幹君を睨みつけている。

「御主人様に気安く触らないで!」

「うるせぇ!俺だって触りたくないけど手が勝手に動くんだ!」

幹君は何故かぼろぼろと涙を零している。やっぱり彼も普通ではないかもしれない。


「ノ、ロ、ウ、ゾ」

お宅さんはこの世のものとは思えない声を発し、そして猛スピードで僕達に向かって突進してきた。


なんかコメディーじゃなくて異次元になってきているのは僕の気のせいかな。え?そんなの最初からだって?そこは突っ込まないって約束じゃないか。もう僕もそこそこギリギリchopなんだよ。


「幹!オレのマリアから離れるんだ!!」

何処からか狂夜先生の声が聞こえた。けど、辺りを見回しても狂夜先生の姿はどこにもない。


「狂夜!どこにいやがる!」

「どこなんですの!?先生!」

二人が僕に寄り添い、見えない狂夜先生から守るように警戒する。


「ふふん、そんな所を探していてもオレは居ないぞ!」

また狂夜先生の声だ。こんなにはっきりと聞こえるのに姿が全く見えない。一体、一体どこにいるんだ……狂夜先生!!



「わーれはエロティカーせぶーん!!!」



エロティカセブン!?あのサザ○の破廉恥な名曲を、純真無垢な子供達が遊び回る河川敷で堂々と歌い上げるなんて……!!


「あっ上を見ろ!お宅!」幹君が叫んだ。

僕はその言葉に従って上を見上げた。


大きな紙飛行機のような物に全裸の姿で張り付いた狂夜先生がこっちに向かって飛んでくるのが見えた。


あの人は教師という自覚があるのだろうか?いや、それ以前にあの格好を人として疑問には思わないのかな?


「あいつ、翼を手に入れたんだ!俺達にはない自由という名の翼を……!!」

「素晴らしいですわ!あぁ……あの空の向こうへ連れて行って。愛と夢の世界へ!」

幹君とお宅さんはキラキラと輝かしい視線を狂夜先生に投げつける。


なんだい、二人揃ってその温度差は。熱苦しいとしかコメントできないよ。


そして暫くして狂夜先生は地上に降り立ち、僕達の50分に渡る熱い説得によって漸く服を着た。

「オレは自分を偽りたくないのさ。素直に全てをさらけ出して生きていきたい……それのどこがいけないんだ?」

狂夜先生は完全に不貞腐れ、僕達と目を合わせようとしない。

僕としてはさらけ出す場所を間違えましたね、としか思えない行動だったんだけど。


「ふん、まあいいさ。マリアには見て貰えたしね。あれが君の好みのタイプかどうかは版画で表現して明日にでも提出してくれ」

なんの話ですか!?そしてなぜ版画なんですか!明日までにできないですよ!


「狂夜、お前がどうしてここに来たのか俺には分かるよ」

幹君と狂夜先生が見つめ合う。

「はいっ、お二人がここに居る理由、あたしも同じですよ」

お宅さんが笑いながら人差し指を頬に当てる。


なんだ?何なんだ、みんな揃って。


「明日香!」

幹君が僕の肩に手を置いて薄く笑う。「お前の言う通り、確かに特進は勉強できるだけの馬鹿の集まりだ。正直俺は学校なんて興味ねぇし、クラスの連中とも仲良しこよしするつもりもなかった。けどな、俺、お前に会って変わったんだよ」


幹君……。


「あたしは今まで現実の世界で楽しい事がありませんでした。だから頑張って超能力を覚えて、魔法を覚えて……無理矢理楽しい世界を作ろうとしてました。けどそんな時に御主人様に出会いました」


お宅さん……なんか途中だいぶ可笑しい事になってたけど。けど、二人共こんな僕を想ってくれてるんだね。嬉しいな。


「マリア。最初の登場が麗子サディストの次と聞いて断ったんだが……君に会って変わった。やはりあの時に巡り会って良かったと、そう思ったんだ」

狂夜先生……そうですね、色んな意味で被ってますからね。サディストと。


そっかぁ、みんな僕の事こんな風に想っててくれたんだ。あれ?なんか、嬉しくて涙が出てきちゃったよ。ちぇっ、こいつらめ!よせやい!

ああ、そういえば僕、初めてだな……こんなに友達できたのって。しょっぱい、しょっぱいなぁ。これが青春の味かぁ。僕に大人の階段を上らせやがって。よーし、あの電柱まで競走だ!


「ありがとう、みんなありがとう」

僕達は四人で円を作った。そして僕は沈んでいく太陽の光りを見据えて泣いた。そんな僕に三人は声を揃えて言った。






「勉強が全てじゃないだろ……」




僕の心臓が大きく動いた。

そうだ。僕は間違っていた。学ぶべき事は勉強だけじゃないのに……そうだ、そうだったね。勉強だけで人の価値は判断できないよね。勉強なんてできなくたって、僕達の未来は無数に広がっているね。

忘れていた。僕、一番大事な事忘れていたよ。

特進クラスなんてもうどーでもいいよねっ!



「よーし!今からかくれんぼと鬼ごっこをしよう!」

「混ぜんのか!?」

「素敵ですっ、御主人様!」

「かくれんぼと鬼ごっこ、隠れる者と追う者……それは即ち永遠に追い着く事の出来ない究極のLoveゲーム」




明日香は一番大事な事を忘れてしまった。そしてポン太の行方はというと、謎である。

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