第5話:ポン太の事件簿
名探偵であり暗殺者であるポン太を仲間に加えた明日香達はこれまでのいきさつを説明した。
死体だと思っていたものが実は人形だったこと。その横にはダイイングメッセージが残されていて、犯人は吾郎さんであること。
そして狂夜先生が居なくなったことすら忘れていたこと。
この三つのヒントを手掛かりに、ポン太の名推理が今動き出す!
「ふむ、話は分かったよ」ポン太は手で顎を摩りながら何か考えているようだ。
「あたし達じゃ全く謎が解けなくて……名探偵なら分かると思ったんです!」
お宅さんが真剣な眼差しでポン太を見つめる。
うん、でもねお宅さん。謎もヘッタクレもないんだよ。犯人は吾郎さんなんだよ。
「安心したまえ。このポン太に解けない謎はない!」
「それじゃあっ!犯人が分かったんですね!?誰ですか?やっぱりゴンザレスごり山ですか!?」
ゴンザレスごり山なんてキャラ登場すらしてないじゃないか!
「残念ながらゴンザレスではないよ、お宅さん。真犯人は……この中にはいない!!」
「えっ!?」
「俺は……俺はどうしたら?このトキメキをどう受け止めればいい……」
「わん!」
僕の足元で泣き続ける幹君と最後の変な雑音以外は、一斉にポン太の言葉に反応した。
「この不可解な事件を生み出した悪魔……犯人はあなただ!透!!」
ポン太はポケットから薄っぺらいCDのようなものを取り出し、それに向かって叫んだ。
「なんですの……?それは」
沈黙を破ったのはお宅さんだ。
「かまいた○の夜だ。犯人はこの中にいる!私はこれまで187回この事件に挑んだが何故かいつもサバイ○ルゲームになってしまう……いつも透を疑っているのに……何がいけないんだ!!」
それは透さん以外の人が犯人という事なのでは……。
「残念な事に真理を疑った夜もあったよ……恋人だからって信用はできない。もしかして主人公が犯人!?と思ってしまったりもした……ああ、あれはついうっかりしてたよ。透が主人公だという事に私はつい最近まで気付いていなかった」
ついうっかりっていうか、主人公が犯人なら自分で分かるじゃないか!!そしてなんで187回もプレイしておいて透が主人公だと気付かない?「私には、私には透以外考えられないというのに……!」
ああ、このままポン太が更にヒートアップすればかまいた○の夜を知らない人は全くこの物語についていけなくなる!!
それ以前に、やっぱり僕はファンに殺される!それはマズイ!!!
「あっ、あたし犯人が分かってしまいました!」
お宅さんがポンッと手を叩いて満面の笑みを見せた。
「なに?透以外に犯人がいるというのか?」ポン太はお宅さんの言葉に目を剥いて詰め寄ってくる。
「はい!犯人は吾郎さんです。ダイイングメッセージに書いてありました!」
………………。
……僕の心が回復するまでちょっとだけ時間を下さい。
そしてちょっとだけ時間が経った。
「では犯人はやはり透かね?」
ポン太が頭を抱えながら言った。
「あたしとしては暗黒大魔王山田の線が有力かと思われます」
お宅さんがほうきを振り回しながら言った。二人の言い争いを見て僕は思った。もう、いいじゃないですか……誰が犯人でも。もう何でもいいですよ……ハ、ハハハハハハ。
僕は足にしがみつく幹君を引きずりながら教室に戻った。
深くため息をついて廊下を歩いていると、とてつもない地響きが校庭から聞こえてきた。
僕は窓にベッタリと顔をくっつけ、自分の見た物が真実かどうかを改めて確認した。
「オーホホホ!狂夜!今日こそ私のモノにおなり!!」
「しつこくてよ、サディスト!君とは一夜限りのアメリカンドリームだったのさ!!」
僕は目を疑った。サディストと狂夜先生の声は聞こえるものの、狂夜先生の姿はどこにも見当たらず、グラウンドにあるのはサディストが闘牛に追い掛けられている姿だった。
「なんで闘牛が……」
僕は困惑のあまり独り言を呟いていた。
「狂夜……逃がしゃしないよ!おっと、そんなにゆっくり走ってていいのかい?それとも私の餌になりたいのかい!」
何故追い掛けられているサディストが追い掛けている側のセリフを言ってるのかよく分からない。それともあの人にしか見えない何かが前方にあるのかな?
ああ、今のは見なかった事にしよう。これは全部夢なんだよ、僕は勉強のやり過ぎで頭が可笑しくなったのさ……いぇーい。
僕の口からまたため息が漏れた。そして幹君は僕の足に頬ずりをしていた。