第3話:ダイイングメッセージなんてどうでもいいんだよ!ただ…あなたに会いたかった
明日香は怯えていた。自分はあのクラスで本当にやっていけるのかと。
口下手で社交性のない自分が、あんな濃い連中に囲まれてこれから学校生活を送らなければならない。
――やっぱり自分は特進クラスには向いていなかった。
一人悶々とそんな事を考えている時、決まって幹の顔が浮かんだ。
今まで友達がいなかったので、幹というキャラの登場により明日香は歓喜していた。しかしそれは黒幕が仕組んだ甘い罠だった……。そう、作者は明日香を虐めたくて仕方なかった。じわじわと美しい顔が歪んでいく姿が堪らなく――って、違うよ!変な事を書くのは止めてくれ!!
ふぅ、つい取り乱してしまった。
あれ?何の話してたっけ?
「マリア、昨日はすまなかった……君の姿を見てオレはSoulを押さえる事が出来なかった。お詫びにこの花束を君に」
僕が手を出すより先に、幹君がそのバラの花束を足で踏んでいた。「狂夜、教室入るなりキモいよ。こいつ困ってんだろーが」
幹君は僕の体を庇うように前へ出る。
「そうか、そうなのか……君とオレはサバイバルと言うことか」
訂正すらしたくないけど、それはライバルの間違いでは?
「まぁ、何でもいいけど。オレはこいつとダチだからな」
幹君の言葉でまた僕は昨日のように泣いてしまいそうになった。幹君……彼だけは僕を男として見てくれる純粋な友達。
――バン!
突然教室の奥で何かが倒れる音がした。
僕達は一斉にそっちに振り返った。
「あ、ああ……」
見覚えのない女子生徒が何かに怯えている。どうやらあの女の子が机を倒してしまったようだ。
黒髪に大きな眼鏡、そして制服ではなくメイド服を着ている。んーなんだろな、何かを連想させる風貌だな。でもあんまり思い出したくないな。
「お宅オタ子、どうした?」
狂夜先生が女子生徒に近付いていく。
んーこの際怯えてる事はまぁいいとして、『お宅オタ子』って何ですか?酷すぎません?誰ですか、名前考えたの。もうちょっと真面目にしてよ。
「狂夜先生……あ、あの」
お宅さんは唇をガタガタと震わせ今にも泣きそうだ。僕はそんなお宅さんが可哀相になり、近づいてハンカチを渡した。
「大丈夫?」
僕は声をかけた。暫く顔を覗き込んでいると、お宅さんの顔がだんだん赤くなっていくのが分かった。
「王子様……」はい?
お宅さんはうっとりした表情で僕を見つめている。
「好きです」
お宅さんは僕の腕をしっかりと掴みながら呟いた。その顔はまさに少女漫画の恋するヒロイン。僕達のバックには今、無数の花束がちりばめられている。『キラリーン』みたいな効果音もあるはずだ。
僕は今……好きと言われたんですか?女の子に、初めて好きと言われた……この僕が――。
ガッツポーズを取る寸前で夢は打ち消された。
「おい、てめぇ!明日香になに手ぇだしてんだよ!」
「オレのマリア。オレだけのマリア……例え生徒であってもマリアを汚す人間は許さない!」
男二人が僕とお宅さんの間引き裂く。
「明日香、俺は別に嫉妬してる訳じゃねーんだ。けど、この状況を黙って見てる訳にはいかねぇ!」
幹君は僕を抱き寄せ、お宅さんと距離をおく。
「幹!その手を離せ!マリアをオレに返すんだ!これ以上……オレ達の邪魔をしないでくれ!!」狂夜先生は手を差し出し、苦しそうに叫び声を上げる。
「御主人様はあたしだけの御主人様です!メイドは何人もいらないわ!!」
お宅さんはほうきを上へかざして、何やら訳の分からない呪文を唱え始めた。
っていうか、なんだ?この微妙なハーレム。「そんな事よりさ、お宅さんさっき怯えてたじゃない?何かあったんでしょ?」
お宅さんは思い出したようにあっ!と、声を上げた。
「そうなのです!御主人様はあたしの事がなんでもお分かりなんですね。やっぱり御主人様!」
いや、だってさっき叫んでたじゃん……。
「実はその窓際の所で人が死んでるのでございます」
お宅さんの言葉に皆顔が真っ青になる。
なんだってぇー。
嘘だろー。これってコメディーじゃん?
何でミステリーになっちゃってんの!?
死体とかマジで無理だし!!
というような叫びが二時間位飛び交った。そして二時間後。
「ん?よく見るとこれぬいぐるみじゃねーか」
「そうか。しかしぬいぐるみには思い入れがないな。君の温もりを感じない、君がここにいない事を証明してるにすぎない」
幹君と狂夜先生はこのズレに疑問を抱いた事はないのだろうか。
「この死体が何者なのか、読心術で探りましょ!」
お宅さんが目を輝かせながら手を上げる。
ああ……何となく分かっていたけどまたイタイ人が一人増えた。
「読心……謎めいた君の心に触れたい。だけどそれは叶わなくて、君はあまりに遠すぎて」
狂夜先生、それは何ですか?
「あのなぁ、これはぬいぐるみなんだよ。それに読心術ってなんだよ?」
「あちゃ!読心術はダメですかぁ。じゃあまずはレベル上げをしましょ。ルーラを覚えたらとりあえず御主人様とデートできます!」そしてこの二人も全く噛み合っていない。それと、ルーラを覚えても僕はデートしない!!
「あ、見ろ!ここにダイイングメッセージがある」
狂夜先生が指差したのはぬいぐるみの横に置かれたノートの切れ端だった。
『やったのは吾郎さん』
紙には赤色のマジックでそう書かれている。
「ダイイングメッセージ……君に宛てた最後の手紙。振り向かないでくれ、オレを忘れて。幸せになるんだ」
全く意味が分からない。
「分かんねぇな、誰が犯人なんだ」
幹君は腕を組みながらうんうんと唸る。いや、吾郎さんですよ。
「はい、あたしのハンドパワーをもってしても解けません……無能なメイドでごめんなさい、御主人様」
吾郎さんですよーだ。後、ハンドパワーは全然関係ないよよよよよん。
「仕方ない、あいつを呼ぶか」
「ええ、呼びましょう」僕は微笑みを浮かべながら頷く幹君とお宅さんに聞いた。
「誰?あいつって」
二人は顔を見合わせてもう一度頷く。
「この特進クラスじゃあいつより頭の切れるやつはいない!大人のままでも頭脳は大人さ!!」
「難事件をすぐさま解決!ジッチャンの名にかけて真実はいつも一つ!!」
なにか嫌な予感がする……。
二人は踊りながら交互に喋り、そして最後に二人同時に言った。
「その名も、名探偵○ッド!」
交わっている!交わり過ぎている!!そして僕はファンに殺される!!
二人が輝かしくキメのポーズをとり、僕がその様に震えている時、狂夜先生はサディスト麗子に拉致されていた。