第1話:まずは逃げることから始めよう
はじめまして。萌萌と申します、よろしくお願いしますm(__)m
初のコメディーに挑戦してみました。因みに投稿するのも初めてです。
かなり心臓バックンバックンですが、楽しんで貰えると嬉しいです♪
タイトルをいじったのでかなり長くなってますが、『学園遊戯』が一応要となるタイトルです。そしてその隣にある『〜』の中のサブタイトルは狂夜先生の心の叫びです。どうか受け止めてあげて下さい。
新たな境地で生まれる出会い、悲しみ苦しみ、そして愛。運命に翻弄され、一人の少年はかけがえのない友と巡り会う。 少年の名は柚木明日香。透明感のある白い肌、道を歩けば誰もが振り返るその美貌。これほど美しいオカマはいない。あ、間違えた……男はいない。
スポーツは苦手とするものの、勉学で彼に敵う者はいない。なにもかも揃った輝かしい人生。しかし、そんな彼にも悩みがあった……。
これはそんな美少年と、それを取り巻く仲間達の物語である。
『柚木明日香君、今度から君は特進クラスへ移るんだ』
直々に校長に呼び出され、僕は今日から別館にある特進クラスで授業を受ける事になった。
学年は関係なく、成績がズバ抜けた者だけこのクラスに編入できる。一度ここに入ると遅刻や欠席、その他の校則違反も多めに見てくれるようになる。かなりえこひいきなシステムだが、僕は自分自身の向上の場でもある、この特進クラスにずっと憧れを抱いていた。
そしてその夢がようやく叶った晴天の朝、僕は別館の門の前にいた。
「よし、遂にこの日が来た。頑張るんだ僕」
朝アイロンがけしたばかりのシャツが汚れていないか、もう一度チェックして僕は自分に言い聞かせた。
クラスの人達に馴染めるか、勉強についていけるか、不安は尽きなかったが悩んでいても仕方ない。当たって砕けろだ。 僕は足を進めた。
何時も生活指導の先生が立っている場所の近くで何やら妙な音が聞こえる。近付くにつれ、音に便乗して女の人の叫び声まで聞こえてきた。
「ほら!さっさと四つん這いにおなり!」
不思議な発言の次に響く何かを叩く音。とりあえず僕は学校の敷地内に足を入れた。
「ふん、このマゾ犬が!ケツを突き出さなきゃ学校には入れないよ!」
何故か黒の下着にガーターと網タイツ姿の女の人が、髪を振り乱しながらムチを振り上げている。
何故サディストがここに?
とりあえずそれしか浮かばなかった。
「あぁ……もっと泣くんだ!はぁ……快感だ。たまらない」
僕もたまらない。朝からこんな濃いものを見せつけられては。
女性はひたすらお尻を突き出している生徒にムチを打ち続ける。興奮しているのか、顔が紅潮している。
「先生、許して……あぁん!」
殴られている男子生徒もまた卑猥な声を上げる。 これは夢だろうか?もし夢じゃないなら、神様、僕が一体何をしたというのでしょう?
「おや?そこのメス犬、ここの生徒だね?」
女の人は息を荒げながら僕を見据える。どうやら気付かれたらしい。
「ちちち違います!コスプレです!」
僕は手を振りながら後退りする。
「そう、男装の趣味があるのね。よくお似合いだけど……私の目はごまかせないわよ、メス犬」
全然ごまかせてるじゃないか。
僕が女に間違われる容姿なのは自分でよく分かってる。身長は150センチしかないし、目はくりくり二重だし、華奢で体力もない。この16年間、ずっと『オカマ』と呼ばれ続けてきた僕だから理解できる。けど譲れないものくらい僕にだってある!
「僕は男です」
「いいえ、メスよ」
「男だ」
「男になりたいメスなのかしら?」 女の人はいつの間にか四つん這いにしていた生徒の事を忘れ僕に集中している。
僕もいつの間にか時間を忘れ、女の人の言葉に反論していた。
茜空が頭上を覆っている。どの位ここで激論を交わしただろうか。僕の精神力はもう限界に達していた。
「はぁ……しぶといメス豚だね」
女の人が息を切らしながら喋る。
「だ、から……僕はミザール星人でもなければネメックス星人でもない!僕は男です。いや、その前に地球人だ!」
僕は膝に手をついて地面とにらめっこした。
汗がびっしょりシャツに染み込んでいる。
キーンコーンカーンコーンと、チャイムが鳴った。
僕ははっとした。重大な事を忘れていた……僕はまだ学校の中に入っていない。こんな変態サディストと校門の前で何をやっていたんだ!せっかく特進クラス初登校の日だというのに。
僕は肩に鞄を提げて走りだした。
「すみませんけど僕学校に行かないと」
「お待ち!私の獲物だ、逃がしゃしないよ!」
女の人が叫ぶと同時に、飛んできたムチが僕の足に絡み付く。っていうか、あなた本当に何なんですか!どう考えても有り得ない技でしょ。
「お前は今日から私の下をはいつくばって生きていくんだ。永遠に束縛から逃れられないようにしてね」
「嫌です、かなり」
「ふんっ、素直じゃないメス豚だね。けどそこが調教しがいがあるってもんさ」
もう誰かこの人を連れ去ってくれ。焼き肉食べて、焼き肉食べて、焼き肉食べたような感覚になる。次の日はお腹ぐるぐる上からげーげー、さあ大変だ。あ、食事中の人ごめんなさい。
「僕は今日からこの特進クラスの生徒になったんです。ずっと憧れてて、しかも今日が初登校だったのに……あなたのせいで目茶苦茶だ!」
僕は足をジタバタと動かしながら怒鳴り上げる。こんな時力があればいいのに、そしたらこんなムチ引き契ってやるのに。
「ほぅ、お前特進の生徒かい。なら私の教え子だね」
は?このサドは何を言ってるんでしょう?
「そんな鳩が豆鉄砲くらったような顔するんじゃないよ。私はここの教師、サディスト麗子さぁ……あぁん」
最後のあぁんは何?っていうか、教師が学校の前で、しかもほぼ裸で調教なんかしてていいのですか?免許剥奪でしょ。っていうか、誰か止めないんですか?止めましょうよ!
「さぁ、これでなんの問題もなくお前は私の奴隷になれるねぇ。可愛がってあげるからね、メス豚」
問題まみれでしょう。そして僕はメスではない。
ふと顔を上げると、サディスト麗子が僕の眼前で笑っていた。思いきり両手を掴まれ押し倒される。
「さぁ、いい声で鳴くのよぉぉぉおおお!ギャハハハハハハハ!」「ただの妖怪じゃないですか!強制わいせつで訴えますよ!」
と、その時、一発の銃声が耳を貫いた。
続けてもう二回。気がつくと僕の足に絡み付いたムチが切れていた。サディスト麗子は恐る恐る立ち上がり、校舎の屋上に目を向ける。
「スナイパーか……」
サディスト麗子がぼそりと呟く。
僕は恐怖のあまり弾丸が貫いたコンクリートを呆然と見つめていた。
「ふん、どうやら今日はここまでのようだ。楽しみは次に取っとくよ」
そう言ってサディスト麗子はムチを拾い上げ、校舎の中へと消えていった。
何か予期せぬ事が僕の前に立ちはだかっている。何かが起ころうとしている。あ、もう起きてしまったけど。
何か、とても嫌な予感がする……邪悪な何かが僕の身に降り懸かろうと……まぁ、解説はこの辺にしといて、とりあえず僕はため息をついた。
『A-クラス』と書かれたそこは4階にある特進クラスの教室だった。僕は深く息を吸い込み目をつむった。
ゆっくりと教室のドアに手をかけ、勢いよく引いた。
「あ、あの、ぼぼ僕、今日からこのクラスに編入する予定でした柚木明日香と言います!ちょっと色々ありまして……は、はっきり言えばサディストに捕まってたんですけど……そ、それで授業に間に合いませんでした!すみません!」
僕はまくし立てながら深く頭を下げた。
「サディスト……そうか、それは永遠の愛と独占欲。即ちそれは、君に捧げるオレの愛」
甘く囁くような声に、僕は頭を上げた。
教卓の上に足を組んで座る男の人が目に飛び込んできた。さらさらの茶色い髪に鋭い目付き、何故か真っ黒のスーツに胸元は全開。首やら手やらにじゃらじゃらとアクセサリーを付けている。そしてどういう訳か、手には赤ワイン。
「マリア、遅いじゃないか。オレは君を待ちわびてここで死ぬのかと思ったよ。ああ、だが……それも悪くない。君をこの胸に刻んだまま死ねるというのなら、それも愛に生きたオレへの罰」
あ、教室間違えたな。きっとナルシスト部かなんかだろ、ここは。
「さあマリア、こっちへおいで。君に溺れた哀れな男の傍に……一瞬だけでも居てくれ」
きっと間違えたな、うん。だって幻覚が見えるもん。
僕は教室の外に出て、もう一度札を確認した。『A-クラス』
……んーと。
…………んーと。
………………。
「マリア、どうして逃げるんだ?」
振り返ると男の人が僕の真後ろに立っていた。有り得ない香水の匂いだ。これだけ臭いなら人も殺せる。
「あの、勘違いです!僕は男だしマリアって名前じゃない。それにここにはただ特進の教室を探しに来ただけなん――」
男の人は突然言ってる僕の口を塞ぐ。「マリア、オレの付けた愛称が気に入らないなら取り消そう……だが、オレの心に残された君への愛まで取り消さないで」
やっぱりここは特進クラスじゃない。『集え!妄想ホスト』とか『どこまでもストーカーで行こうね』とか、その辺の類だ。うん、よく分からないけど、多分そういう系だ。
「マリア、オレは確かに許されない恋をしてしまった……だが、心の中で奏でるRomanceをもう押さえる事はできないんだ!」
取り敢えず僕は逃げた方が良さそうだ。このままでは僕はRomanceの主人公にされてしまう。え?もうされてるって?そこは突っ込まないでよ。
という事で僕は逃げた。