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風と旅の中に
風はたくさんのことを僕に教えてくれる。
気温や気圧、遠くから運ばれてくる植物の香り、葉や雲の動き、鼓膜を揺らす風の音。
触覚だけではない。風は僕の五感全てに語りかけてくる。
いつだってそうだ。様々なものを通して、風は僕にこの世界のことを教えてくれる。
今日は暖かい。
風は穏やかで、僕の熱を飛ばしはしない。
穏やかに泳ぐ雲は、僕を急かさない。
このまま、何事もなく進めたらいいな。
膝の高さほどの草木が辺りを覆う平地を、1人の少年が歩いていた。年は10代中頃で、赤茶色の髪をしていて、揉み上げが少し長い。日が高く昇っているというのに、フードの付いたコートを身に付けている。そして、パンパンに膨らんだ大きなリュックを背負っている。
よく見ると、少年の荷物はどれも酷く汚れていた。とても2、3日でできた汚れではない。
少年もまた、この世界に生きる『旅人』なのだ。