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漆黒のレーヴァテイン「旧版」  作者: 山崎 樹
序章・戦乱のヴァルハラ
7/15

永久に眠りし戦巫女・二

一円=一クロイツァー(異世界の通貨単位) のように設定しています。

???―――


 しゃんしゃんと鈴の音がなる。

 どこか澄んだ空気を感じさせる木造の建物は小さいながらも雅で、どこか神聖な雰囲気すら醸し出している。

 しかしこの建物には太陽の温かい光はない。

 燈される灯りは蝋燭によるもので、何かを塗り込んでいるのか甘い香りが漂うが、日の光のような快活さはない。

 ここが地下であると勘のいい者ならばすぐに気づくだろう。


 ここは帝を祭る社……十年前に敗北した和人たちが、後ろめたい気持ちを隠しながら訪れる、朽ちかけた社なのである


*****


「また同胞が堕ちたか……」


 社の中心に居座る巫女、名を秋水シュウスイと言う。

 足まで届く長く艶やかな黒髪と、吸い込まれそうな漆黒の目が印象的な二十代の女性だ。

 綺麗な人ではある。

 その落ち着いた雰囲気は神職として相応しいものであった。


 だがカイトが初めて会った時の印象は、どうにも暗い女だなといういささか失礼な物だった。

 もっとも、カイトはここにはいない、カイトはまだこの場所に来ることを許されてはいない。

 ここにいるのは秋水を除けば、来栖……謁見者は彼だけなのだ。


「だがその死、無駄ではないぞ……戦巫女を手に入れた功績、あまりに偉大だ」

「やはりあのミイラは巫女……ですが、遅裁刑を受けたあの状態では」

「来栖、別にあやつは死んでいるわけではない、私の力で目覚めさせることは可能だ」


 覇気のない、どこか湿った口調で秋水が話し続ける。

 カイトが持ち出したミイラ……実のところ、図りしえない価値を持つ物だったのだ。

 十年前の無残な敗戦……それによって大半が奪われた「戦巫女」。

 拷問を受けて廃人同然の状態とて、まさか戻ってくるとは思わなかった。


 遅裁刑……この国で、死刑より重いとされる過酷な刑罰である。

 

 罪人の心臓を魔術的方法で引き抜き、失った心臓の代わりに魔術の力で身体を維持させる。

 魔術の力で生きているということは、術者の気一つでいつでも術を解いて殺すことができるという事であり、また身体が術で維持されているため、術者の腕前次第でいくらでも「弄る」ことができる。

 「あの子」がミイラとなったのは、術者が「かなり」弄んだ結果なのだ。


 生命を握られる重圧、自分の身体を自分の意思で制御できない恐怖。

 それが死ぬか発狂するまで永延と続くのだ。

 人間の精神には限界がある、常に気を張っては生きていけない。

 

 遅裁刑を受ければ、最終的にはどんな屈強な戦士でさえ、泣いて許しを乞う。

 

「たとえ一人でも、巫女が我らの手に戻るのならば幸いと言うものです」

「任せておけ……久しぶりに私の本気を見せてやろう」


 秋水の、暗すぎる目に少しだけ輝きが戻る。

 彼女は肉体改造の術に秀でている……ミイラ、廃人同然の「あの子」も元通りにとはいかなくとも、それなりには治るかもしれない。


 もっとも彼女は先日、異世界召喚したカイトの改造に失敗しているのでいささか心配ではある。

 何が失敗したのか専門でない来栖には詳しくは分からないが、分かりやすいのは顔だ。


 人とも思えぬほど滅茶苦茶になってしまい、カイトは仮面で顔の上半分を隠す羽目になっている。

 幸いにも頭のネジがぶっ飛んでいるカイトは顔の件をあまり気に止まなかった。

 記憶をなくしている……? 秋水はそれは私のせいじゃないと強硬に主張した。


 とりあえず来栖は、十年以上の付き合いであることも鑑みて、彼女の本気を信じることにする。


「では失礼します……」

「今回の依頼報酬、色を付けてギルドに振り込もう……あの子は優秀だ、首尾よく蘇ったのならば、あるいは蜂起が早まるかもしれない、今少し、お前の本業をまともにしておけ」

「……」


 蜂起……弾圧されし和人が及び異世界人が、隷属を強要する「教会」に反抗する一大作戦。

 だがその「悲願」にあえて来栖は応えず、無言で退出する。

 それを秋水は咎めなかった。


「優秀だよ、あの子は……無能な私と違って」


 しゃんしゃん、りん……。

 服の各所に着けられた鈴、そして首輪に着けられた鈴が鳴る。


 来栖が帰った社にて無力なる巫女・秋水が静かに佇んでいる。

 社と言う名の監獄の住人が……静かに佇んでいる。


これで一章は終わりです。

二章は二十二日の深夜に投稿予定。

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