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漆黒のレーヴァテイン「旧版」  作者: 山崎 樹
一章・ミッドガルドは回る
12/15

間章・カイトの魔術訓練

和平会・本部・練兵場―――


 黒子のような姿をした者達がカイトに襲い掛かる。

 手に武器はなく、代わりに炎や雷撃を生じさせる人ならざる者。

 

 魔を統べる術……すなわち魔術を扱う者たち。

 肉体改造や薬物によって得たその力は代償が大きいが強大だ。


 基本的に剣や弓で戦うこの世界に銃を持ち込むようなもの。

 剣よりも遠くから、弓よりも致命的な打撃を与える彼らは十年前の「大戦」で猛威を振るった。


 だがそれでも異世界から召喚された異世界人には及ばない。

 そもそも「魔術」自体が異世界人の力を模倣、あるいは劣化コピーした物に過ぎないのだ。

 肉体を改造しても異世界人には劣る。

 ならば肉体を改造した異世界人はどうなのか。


 図りしえない極限を得るだろう。

 代償……強化による副作用?

 そんなこと……「彼らにとって」どうでも良かった。


 その思想の下、和平会・随一にしてほぼ唯一の魔術士・カイトは誕生した。


*****


 魔導書に嘆願する……。


 黒子たちの魔術に頓着することなく、カイトは魔導書に魔力の供給をお願いした。

 炎も雷撃も、カイトにとっては大した打撃とは言えない。

 どのような魔術も、体を粉みじんにするのでなければ、しょせんは一度限りだ。


 魔術というものは、よくは分からないが周囲のマナとかなんとかの力を使用するために術の行使ごとに、数十秒から数分程度の詠唱を必要とするらしい。

 放てば必殺……が戦闘中には数十秒の膠着でさえ命取りになりかねない。

 故に魔術士は一度、良くても数回使用が限度の、言わば爆弾のように扱われる。

 改造や薬物の副作用で意思の疎通が困難なのならば猶更だ。


 だがカイトは違う、異世界人の特権か、カイトの魔術は連発式だ。


「燃えろ」


 それはやはり銃に似ている。

 一発ごとに再装填リロードしなければならない通常の魔術士。

 何発も撃つことができるカイト。

 

 能力的には、火縄銃とリボルバー(回転式拳銃)ぐらいの違いがある。

 共通する事はどちらも弾切れはあり、再装填が必要な事。

 カイトの場合は魔導書・フレスヴェルクがなければ再装填ができない。

 

 そして劣る部分はその弾丸(魔力)が生命維持と肉体の再生にも使われること。

 魔術士が魔力を使い切れば気絶するだけだが、カイトは死ぬ。

 重傷を負い、その傷を癒やす魔力がなくても死ぬ。


 再装填するにも力が必要だ、例え魔導書があっても、魔力を使い切れば死んでしまう。

 目の前に食べ物があっても、食べる体力すらなければ餓死するということだ。

 

 「……」


 カイトが放った炎の術は黒子を焼き尽くし、断末魔の声を挙げて彼らは消滅した。

 それにカイトは何も覚えない。

 黒子は式神、魔術士を模した……ある種の天才でもある、和平会代表・秋水が用意した式神。

 つまりは人の姿をした偽物であり、「人間ではなく」物なのだ。


 故にどれだけ「破壊」しても心など痛まない。

 これは物、だが仮に人だとしてもカイトは自らの行いを顧みたりはしないだろう。

 そう言えば、誰かが言っていた。

「殺人に抵抗がない異世界人は珍しい」と……誰だったかな。

 忘れたよ。


*****

 

「お見事ですじゃ……」


 式神を破壊しつくし、訓練を上首尾で終えたカイトを一人の老人が出迎えた。

 髭を胸まで伸ばした仙人のような老人。

 名前を聞いたが、教えてはくれない。

 よってカイトは彼の事を仙人爺さんと陰で呼んでいる。


「その力があれば、和平会も安泰じゃわい……頼みますぞ」


 好々爺と然としたその態度は意外と好感が持てる。

 周りがワカメ女(秋水)、マスターぼっち(来栖)などの奇特な人物ばかりでは普通の人間は希少なのだ。


 この訓練場はカイトが所属する和平会と言う組織の訓練場。

 それ自体は問題ないのだが、そこへ行く方法が少々変わっている。

 まず訓練場へ行く許可を関係者に貰い、日時を指定される。

 そしてその日時に町中を歩いているといつの間にか訓練場の前にいるのだ。


 麻酔銃を撃ち込まれて連れてこられる……イメージ的にこんなものだろうか。

 カイトがここを利用するのはこれが初めてだが、カイト以外に利用者が見当たらない。

 ガラガラ状態と言うのが妙にしっくりくるのは俺が異常なのだろうか。


「秋水殿がギルドにお米を届けたそうですじゃ……腹の足しにしてほしい、と」

「はっ……お米?」


 帰り際に仙人爺さんを通して和平会代表(ちなみに代行らしい)の秋水からの言伝が届く。

 ギルド……来栖ギルドマスターが秋水とつながっているのは知っているが、依頼以外に食糧が送られているとは……都会に働きに行っている息子への仕送り?

 オカンなのか……あのワカメ女、来栖のオカンなのか?

 その疑問をストレートに伝えたカイトに爺さんは苦笑しながら頭を振る。


「親子ではない……十年前の戦争で来栖は少年兵をやっておってな、奴を指導していた部隊長が秋水殿なのじゃ……どうも、その時の癖が抜けなくてついつい世話を焼いてしまうらしいのう」

「へ……」

「秋水殿はたまに嘆いておる……戦い以外を教えることはできなかったと」

「……」


 戦い以外に教えることはできなかった。

 その言葉はそのまま受け取っていいのだろうか。

 なにせカイトの強化改造を失敗した女である。

 

 来栖の指導とやらも、穿った見方をすれば教育に失敗したと取れなくもない。


「秋水殿は己れに厳しいお方……あまり虐めてくれるな、指導者としての重責に耐え兼ね、いつも一杯一杯なのじゃ」

「お、おお……」


 しみじみと語るご老人には悪意の欠片など何処にもない。

 いいではないか。

 元より異世界に召喚され、記憶も何も失ったカイトに道しるべを示してくれる存在……それはナメクジ……ではなくワカメ女・秋水と来栖ギルドマスターなのだ。

 

 とりあえず、この世界に慣れるまでは当分の間、言うことを利いておくか。

 そう考え直し……。

 カイトは問題先送りと言う怠惰な選択を選んだ。


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