二〇一六年 十一月 十八日
現代日本―――
ヒビの入った窓ガラスから雨水がじわりじわりと、滴り落ちている。
床に落ちた水滴はフローリングの床にたまって水溜まりとなっていた。
部屋に積もった埃はそれほど厚くはないが、それでもこの部屋に何日も人が出入りしていないことを証明するには十分である。
床に幾何学的な方陣……。
薄い赤色で書かれたそれが本物の血で書かれたと知ったのなら普通の人間は何事かと訝かしむ。
もしかすると、その行為が何を意味するか調べるかもしれない。
だがその魔法陣が異世界への扉を開くものであると気付くものは恐らく皆無だろう。
異世界はすぐ近くにあり……しかるべき方法を取れば、そこへ渡るのは容易なのだ。
ただし一方通行……行けば戻ることはできない。
………
……
…
棚に置かれている写真立てに飾られた家族の肖像。
中年の優しいそうな男性は父親か。
同じく中年の、やや陰のあるように見える女性は母親か。
そして両親に挟まれた二人の男子……恐らくは二人の子供。
ただ奇妙なことに二人の男子の内、一人の顔は鋭くとがった物で傷つけられ、その素顔を見ることはできない。
それが何を意味するかは分からない。
しかしその写真立てのガラス越しに開けられた穴がどこか不気味な趣を醸し出し、家族の肖像に真っ黒な染みを作り出しているのは確かであった。
かつては行われたであろう和やかな家族の歓談……もうこの家で行われることはない。