表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

1、I am I.


 目を開けると、水へ沈んだようだった。青年はぽこり、と空気を吐く。


〈転送プラグラム正常、再構築正式承認完了、システムオールグリーン。転移、終了しました〉


 機械的な女性の声に、ああうん、と頷いて青年は歩み始めた。石ころが、いくつも転がっている。それは次第に大きくなり、岩となり、岸壁となり、あたりに様々な山を作り、麗しい魚が泳ぎまわっている。



挿絵(By みてみん)



 海の中だ。

 水の中なのか。

 それとも別のものなのか。

「……なんだろう、ここ」

 深い場所だというのは、よくわかった。

 青年の知識にもない、探索システムにも引っかからない、これ以上の検索となると≪全能なる記録≫へのアクセスが必要となる。それを考えると、考えない方がいいと、青年は思った。これまでの経験上、そうなのだ。

 しばらく歩くと、宝石に遭遇した。

 美しい、多角面、しかもよく成長している。ここまで成長するとなると、アージストなどの石の名が思い浮かぶ。しかしそれ以外の可能性もある、と思い、そっと触れた時だった。

「こんにちは」

 はにかんだような声が聞こえ、青年は上を見上げた。

 誰かがいる。しかし、姿は見えない。

「こんにちは」

 青年が、返す。

「すみません、この近くの人ですか」

「ええまあ、近くの人です」

 声からして、女性のようだった。

「さっき来たばかりなのですが、この石の名を知っていますか?」

「ああ。そうですねぇ……しいて言えば、夢でしょうか」

 青年は、首を傾げた。夢、というものは、もっと荒唐無稽で、あるいはあいまいで、人によっては確信だ。このように、形をもったものではない。場所によっては、夢が結晶化して力となるところもあったのだが、こういう宝石となるのは珍しい。

「あなたが名付けたのですか?」

「さあ。名付けるのは私ではないので」

 不思議な言い方に、青年は首を傾げた。

 岩の上にいる人物は、何かを想っているらしい。ぷかぷかと、美しい虹の輝きを持つ球が、ふわふわと落ちてくる。

「これはなんですか」

「これ? ああ、それはですね……諦めです」

 美しい姿には似つかわしくない名前に、青年は余計首を傾げた。

 その崖の上へと、とん、とん、と足を進めていく。岩の上、魚が泳ぎ、水面は近づく。あたりに、がれきが散らばっている。岩は積み重なり、それは年月の様で、と感じたとき。 

 青年はふと、顔を上げた。

 誰もいない。

 ただ、そこに、薄紅の花が残されていた。

「……それは、羞恥です」

 心底恥ずかしそうに告げられた言葉に、青年はかりかりと頭をかくと、そこにすとんと腰を下ろした。無粋な真似をした、と思ったのだ。

「ここは、あなただったのですね」

 一人きり、青年はそこに腰かける。静かに、ふう、と口をとがらせ、煙草のようにそれを口にした。


 シャボンの泡が、ぽこりと浮かぶ。

 水が揺れている。

 海が、ある。

 青年は一人、岩の上で、考え事をしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ