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くろすそうる・ぱにっく!  作者: 小麦
第一部 幼馴染は交代人格者?
8/19

誠の受難② 夏穂の秘密を探れ!

 誠が立ち上がってから数分後、誠は何故か尾行していたはずの夏穂の隣にいて、二人で一緒に帰るという訳の分からぬ状況に直面していた。

(……こ、これはどういう状況だ!? い、いや、まて、とりあえず落ち着け俺! 間宮が俺の手を握ってくれて、今何故か俺は間宮の隣で一緒に帰って……って、こんな状況で頭の中なんか悠長に整理してられるかー!)

「……朝日君?」

 明らかにいつもと様子のおかしい誠に夏穂が声をかける。

「ああ、いや、べ、別に何もおかしなことなんて考えてないですハイ!」

「……フフッ、やっぱり面白いね、朝日君は」

 夏穂は誠の方を見て微笑む。どうやら悪印象ではなさそうである。誠としてはいきなり事が進みすぎてタイムマシンもびっくりな状況なのだが、もちろんそんなことなど夏穂が知る由もない。

「ところで、何であんなところで転んだの? あそこに何かつまずくようなものなんてなかったよね?」

「……できることなら忘れてくれると非常に助かる」

 後をつけていたことに疑問点を持たれなかったのは救いだったのだが、代わりに彼女の中には誠の不本意な行動がしっかりと埋めつけられてしまったようである。

「意外とドジなとこあるんだね、朝日君」

「だーかーら、忘れろってば!」

 心から叫ぶ誠ではあったが、おそらく無理な話なのは言うまでもないだろう。



「そういえば、間宮って片桐と仲いいんだって?」

 誠は夏穂にそう切り出す。ようやく頭が冷静になってきた誠は、さつきと仲がいいという話を今日の朝に本人から聞いていた事を思い出したのだった。

「うん。さつきは私の一番の友達だね。だって小学校からの付き合いだし」

「小学校?」

 誠は首をかしげる。誠がさつきと知り合ったのは高校に入ってからである。そんな前からさつきと夏穂に関係があったのは初耳だった。だが、夏穂はさらに意外なことを誠に聞いてきた。

「あれ、朝日君覚えてない? 私がさつきと知り合ったのは一回だけ小学校の頃に遠足の班一緒だったときなんだけど」

「えっと……、そんなことあったっけか?」

 もちろん、質問するくらいだから誠が覚えているはずもない。

「覚えてないかな、ほら、2年生の頃」

「2年生って……もしかして確か真悟も含めた三人でアトラクション回ったあれの事か?」

 誠の言っているのは小学二年生の頃のシースカイパークアトラクション巡りのことだ。ある程度の制限はあったものの、小学生の頃の遠足ではあれが一番楽しかったのは間違いない。その時の班のメンバーがたまたまなのか何なのか、夏穂と真悟だったのである。

「うん、その時」

 夏穂が正解、といった様子で答える。

「でも、片桐は違う小学校だったよな?」

「覚えてないかな、一緒に観覧車に乗った女の子のこと」

「観覧車……ってああ、そういえば」

 誠はだんだんと思い出してきた。あの時様々なアトラクションを巡ったのだが、身長の都合で乗れなかったジェットコースターの代わりに高いところに行きたいという真悟のたっての希望で観覧車に乗ることになったのだ。そして、その時観覧車に五人乗るのはきついから、誰かひとりだけ他の班の人と乗っていただきたいのですが、と言われていた他校の同い年の小学生の子一人を加えて観覧車に乗ったのだ。確かその子とかなり盛り上がっていたのは記憶にあるのだが……。

「……まさか、あの子が片桐だったって言うのか?」

「あれ、もしかして気付いてなかったの?」

「いや、だって気付くも何も……」

 誠の記憶する限り、確かに話は盛り上がったが、あの時のさつきは今とイメージが全然違っていた。今でこそ噂話好きの女の子だが、あの観覧車の時のさつきは人当たりもよく、今よりもずっといいイメージだったからである。

「まあ、確かに今とはちょっとイメージ違ったけどね。別れ際にあの子自分の住所くれたから、あの後からずっと連絡取ってたの。二人で手紙の交換とかしてたんだよ」

「へー、そういえば何か降りた後二人で何かやってたような気はしてたけど、そんなことがあったのか……」

 意外な過去のカミングアウトだった。ということは、さつきの発言は誇張表現でも何でもなく、本当によく遊ぶほど仲が良かったということだろう。誠は朝にさつきを疑ったことを少し申し訳なく思った。

「……そういやあいつと高校で知り合った時は意外と違和感なかったんだよなあ」

 さつきとの初対面は斬新だった。『これからマコって呼ぶからよろしくね!』『ふざけんな!』この会話だけでその後の立ち位置が決まってしまったのは今でもよく覚えている。

「さつきは朝日君のことも相原君のことも私が話してたから覚えてたからね。二人とは真っ先に友達になるんだって意気込んでたよ」

「あいつらしいな」

 誠は苦笑する。さつきのネットワークの広さは既に小学校の頃から形成されてきていたという訳らしい。それにしても、と誠は思う。

(まさか間宮があの時のことを覚えててくれてたなんてなあ……)

 夏穂の記憶力の良さに驚く誠。そしてそれが自分たちに関係のある出来事だったというのがもっと嬉しい点でもあった。



(……あれ、そういえばこれってもしかして絶好のチャンスなんじゃないか?)

 こんな感じである程度歩きながら夏穂と話した誠は、ふと我に返る。もともと誠は夏穂の様子がおかしいのを調べるために彼女を尾行していたのだった。もっとも、大分当初の計画とは変わってしまっていたのだが。結局昨日あんなことがあったというのに、夏穂は普通に学校に来た上、昨日のことなど何もなかったかのように誠と話していることを考えると、多少突っ込んだ質問をしても問題はないのかもしれない。

「なぁ、間宮。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

 そう考えた誠は夏穂にそう切り出す。

「……なぁに?」

 やや陰りのある表情に変化した後、夏穂はいつもの微笑みに戻って尋ねる。誠は少し迷った後、こう切り出した。

「あの、最近間宮の様子がおかしいって、片桐から聞いたんだ。別に何ともないならいいんだけど、何かあったのか?」

「……そっか、さつきもやっぱり微妙に気付いてたんだ。でも大丈夫、私は特に何ともないよ。ちょっといろいろあって、人には言えないんだけど。心配してくれてありがとって、さつきにも言っておいて」

「……間宮は、自分では言わないのか? あいつ、間宮のこと相当気にしてたぞ」

「……ゴメン、私が言ったらあの子いろいろ勘ぐりそうだし、これだけはさつきに話したくないの」

 それは、さつきにばれると自分の秘密が広まってしまう、と夏穂が考えているということだろうか。確かに、仲のいい誠からしてもそれは危惧すべき問題ではあるのだが。それでも一度信じた以上、誠はどうしても言っておかなくてはいけないことがあった。

「あいつ、言ってたぞ。今回は興味本位じゃなくて、本当にお前のことが心配だったからだって。もし相談できないような問題だったとしても、お前が自分で片桐に説明するのがいいんじゃないか? それが、友達ってもんじゃないのか?」

「……分かってるよ、私だって。本当はさつきを避けたりしちゃいけないことも、もっとちゃんと説明しなきゃいけないことも。でも、これだけはダメなの。私の中にいるあの子、それがいつ出てくるか分からない以上……」

「……あの子?」

 聞きなれないフレーズに誠が首をひねる。何か考えがあってのことだったのだろうが、夏穂にしては珍しく、よく分からない言い回しを使った。それが誠には、どうも夏穂がさつきと会うと何か良くないことが起こる、という風に聞こえてならなかった。

「あ、ううん、何でもない。気にしないで。とにかく、今話したことはみんなには内緒にしててくれる? 絶対に誰にも知られたくないの」

「ああ、分かったよ。……じゃあ、最後に聞くけど、さっきのあの子っていうのは、昨日の忍者みたいなやつのことなのか?」

「えっ!?」

 夏穂の動きが止まる。おそらく、彼女もそんなことを聞かれるとは思っていなかったのだろう。しばらく迷った彼女は、少しの間無言のまま考え込んでいる様子だったが、

「……えっと、何のことかな?」

 いつものような笑顔で誠に尋ねる。しかし、気のせいか彼女の表情には余裕がなくなっているように見えた。それは言葉がしばらく出てこなかったこともそうだし、その後に彼女らしくないとぼけ方をしたのもそうだった。

「……言えないことなら無理には聞かないけど。実は俺、昨日お前によく似たやつに会ったんだよ。で、いきなり何かよく分からないものを首筋に押し付けられてさ、お前には私が間宮夏穂に見えているのか、とか何だか訳分からないことを聞かれたんだけど。もしお前に姉妹でもいるんだったらあんなことしなくてもちゃんと質問には答えてやるって言っといてほしくてさ」

 別に無理に聞くつもりはなかった誠は、あの忍者が夏穂の知り合いであることは間違いなさそうだったので、とりあえず夏穂に伝えてもらおうと誠はこう持ちかけた。ところが、

(詩乃のやつ、朝日君にまで迷惑かけたのか……)

 一方の夏穂はと言えば、何か誠に聞こえないような声で独り言を呟いていた。

「ん、どうした?」

「い、いや、何でもないよ! そっか、そんな人がいたのか、めずら……」

 焦った夏穂が慌てて何かを呟こうとしたものの、その言葉は途中で途切れてしまう。

「ん、どうしたまみ……」

「クシュン!」

 誠がどうしたのかを聞こうとした頃にはその原因は既に分かっていた。どうやら鼻がむずむずしていたようで、彼女はくしゃみをしたのである。これだけならよくある出来事で済むのだが、どうも誠が思っていたのとは全く違った現象が発生した。というのも、彼女がくしゃみをした直後に彼女から白い煙が発生し、彼女の周りを取り囲んでしまったからである。さらに異様だったのはその煙が彼女の体から発生し、誠までその煙の中に巻き込まれてしまった、ということである。

「おい間宮、大丈夫か!?」

 誠はしばらく呆然と彼女の様子を眺めていたが、彼女が何かおかしな出来事に見舞われているということに気付くと、慌てて彼女に声をかける。すぐ真横にいるはずの夏穂が、煙のせいかとても遠くに感じられた。誠が周りの煙を手で払うこと二分、再び夏穂の姿が現れた。が、

「……いったい、今度は何だというのだ?」

 次に気付いた彼女が発した言葉、それはいつもの夏穂、というよりもさっき話していた夏穂とは似ても似つかぬものだった。その口調はむしろ、誠にあるものを思い出させた。

「まさか、昨日の……」

 その雰囲気はどう考えても、先ほどまでの穏やかな夏穂ではなく、昨日誠を脅しにかかったあの女性だったのだ。

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