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くろすそうる・ぱにっく!  作者: 小麦
第一部 幼馴染は交代人格者?
7/19

誠の受難① さつきの本心

 そして放課後、誠はさつきと合流した。だが、周りの目は思ったよりも冷ややかだった。

(おい、誠のやつ放課後にあの片桐と一緒にいるぞ)

(珍しいな、めったなことじゃ厄介ごとに自分から首突っ込まないあいつが……)

「……あたし、何か悪い方で噂されてる気がするんだけど」

 さつきは周りのひそひそ声を嫌そうに見る。明らかにペアでいることを考えると絶対何かある、という視点で誠たちは見られていた。誠はため息をつきながらこう答える。

「……そりゃあ、お前の普段の行動を考えてみればな」

「ちょっと、それどういう意味よ!」

 さつきは聞き捨てならないといった様子で誠に食ってかかる。

「……深い意味はねーよ、気にすんな」

 こんなところでさつきとじゃれあっている場合ではないと判断した誠は、さつきのツッコミをさらっと流す。そして、

「……なあ、ところで、ホントに俺がするのはあれなのか? 正直朝はああ言ったけど、やっぱり気乗りしねーんだけどさ……」

今になってそんなことを言い出した誠。さつきはじっと誠を見つめてこう言った。

「なーにを今更、あたしの考えに乗るって言ったのはマコでしょ? それとも何、直前になって怖気づいた?」

「バカ言うな、別に怖気づいてなんかねーよ」

 慌てて反論する誠。こんなところで器の小さいやつと思われたくはなかったというのが本音だった。

「だったら、このさつき様の作戦通り、マコはただ人形の如く従ってればいいのよ」

 だが、それは結果的にさつきに反論の糸口を与えることとなってしまった。やはりさつきの方が弁論では一枚上手のようである。それに、とさつきは付け加える。

「マコに校内の情報収集なんて無理でしょ?」

「……うっ」

 確かに人脈と人見知りのなさにかけてさつきの右に出る者はいなかった。そしてそれが彼女の情報源につながり、彼女をゴシップ・キラーの通り名を持つまでに押し上げた最大の原因であることはもはや誠が語るまでもないことだった。

「だからそっちはあたしがやるしかないの。朝もそれは言ったでしょ? そもそも、あたしはマコに一番楽しそうな……じゃなかった、重要な役目を任せたんだから、しっかり仕事してよね」

「お前、今の絶対本音だっただろ! そうなんだろ?」

 彼女の口からうっかり漏れた言葉を誠は聞き逃さない。このうっかりのせいで何人もの人間が犠牲になっているのだ。なお、以前に誠もその犠牲者の1人として酷い目に合っているのは想像に難くない。

「細かいことは気にしなーい♪ じゃ、報告はメールでってことで」

「お、おいちょっと待……」

 誠が最後まで言い終える前に、さつきはどこかへと消えてしまった。誠は相変わらず噂話のことになると生き生きしてるなあいつ、と思いながら、

「……しょうがない、俺も動くか。間宮はまだ教室から出てなかったはずだから、このままここで待ってれば見つけられるはず……」

物陰に隠れて夏穂が出てくるのを待つことにした。こうなってしまった以上は自分に任された任務をきちんと遂行するしかないと考えたからである。すると誠の読み通り、ものの数分で彼女は現れた。夏穂は誠に気付かないままその横を長い黒髪をかきあげながら優雅に通り過ぎて行った。

(よし、追いかけるか)

 誠は夏穂がギリギリ見えるような位置まで離れてから、物陰から出て彼女の後をつけることにした。

(探偵でもないのにこんなにこそこそ人を尾行することになるとはな……)

 誠はさつきの作戦を思い出す。彼女の作戦というのは、さつきが情報収集している間に誠が夏穂のあとをつけ、夏穂の秘密を内や外のあらゆる方向から暴いていこう、というものであった。最初は趣味が悪いな、と思った誠だったのだが、現状他に方法がなかったため、仕方なくさつきの策に従うことにしたのである。そして、誠がこの作戦に乗ったのにはもう一つ理由があった。

「ホントに信じていいんだろうな、片桐……?」



 それは今朝、誠がさつきから作戦を聞いたときに遡る。

「なぁ、片桐。お前はどうして間宮の秘密を知るのにここまで協力的なんだ? やっぱりいつもみたいに噂話を集めたいだけなのか?」

 誠はさつきのいつも以上に積極的な態度があまりにも気になったので、彼女から作戦を聞き終わった後に彼女につい尋ねてしまったのである。すると、さつきの表情が少し曇る。

「……今回はいつもみたいに興味本位だけじゃないよ。あたしも夏穂に避けられたのがショックだっただけ。あたしも割と嫌われるような人間の部類に入ってるのは分かってるけど、少なくとも夏穂にそんなことをした覚えはないし、どう考えても夏穂に会ってない夏休み中に何かあったとしか思えないのよ。夏休み前日までは一緒に帰ってたし」

「……それなら確かにそう考えるのが普通だな」

 誠は頷く。いくらさつきの素行に問題があるとはいえ、夏穂に嫌われるようなことを彼女がしていた訳ではない以上、その理由はやはり夏穂自身にあると考えるのが普通だろう。

「それであたしの予想だと、夏穂が変わっちゃった理由はたぶん夏休み中に行ったイギリス旅行だと思うの」

「イギリス旅行!? 間宮ってそんなに金持ちなのかよ?」

 誠はそこまで知っていたさつきの情報網よりも、夏穂がそんなゴージャスな家に住んでいることの方が驚きだった。

「あれ、知らなかったの? って言ってもマコは夏穂とそんなに話してたわけじゃなかったし無理もないか。実は夏穂の家って結構な豪邸なんだよ。裏庭にはテニスコートとか二十五メートルプールもあるくらいなんだから。中には確かすごく高そうな置物とかもあったかな」

「へ、へぇ~……」

 むしろ何でお前はそんなあっさりしてるんだよ、もっと驚くべきだろ、という視線をさつきに向けるが、よく考えると彼女はもう既にその豪邸に上がっている可能性が高いことに気付く誠。家の中まで知っているとなるともはや確定的だろう。一方、そこまで話してから、誠の視線がさつきを疑うジト目に変わっていることに気付いたさつきは、慌てて取り繕う。

「言っとくけど別にこれは調べたとかそんなんじゃないんだからね。あたしと夏穂は結構よく遊んでる仲なんだから」

「へぇー……」

 誠は意外そうに反応する。まさかさつきがそこまで夏穂と仲良しだとは思っていなかったからである。

「だから必要だったら別にマコと夏穂を仲良くさせてあげることだってできるんだよ?」

「な、何だと!」

 誠は大声を上げて反応する。それは価値のある情報だ。

「まあもちろん別途紹介料くらいはもらうけどね」

「金取るのかよ……」

 嬉々として輝かせた目を元に戻すと、誠はがっくりとうなだれる。もっとも、さつきがタダで何かをしてくれるはずはなかったので最初から期待などしてはいなかったのだが。

「お金じゃなくて情報かな、あたしの場合は。誰かの好きな人とか、誰も知らない自分の秘密なんかを提供してくれるときちんと動いてあげるよ」

「嫌な交換条件だな……」

 誠は渋い顔をする。さつきと交渉するなんて外交官レベルの語彙力がないと無理じゃないだろうか、と半ば本気で考えてしまった。

「でも夏穂はこの条件を飲んでくれてるからね。夏穂の秘密ならあたしいろいろ知ってるよ。その分あたしの秘密も夏穂には知られてるけど」

「……ん? じゃあ、間宮と片桐って……」

 そのさつきの発言を聞いた誠は意外そうな目でさつきを見た。

「だからずっと言ってるじゃん。友達だって。あの子はあたしの一番の親友だよ。学校じゃあんまり話してないからそうは見えてないだろうけどね。結構夏穂はあたしにいろんなこと教えてくれてたんだよ」

 言われてみると確かにさつきが夏穂と話しているところはあんまり見たことがなかった。おそらくだが、さつきはいろいろな人と関わることで情報を得ているために、高校では夏穂1人だけと話しているわけにもいかなかったのだろう。

「でも、今回はいつもと違う。一番仲がいいはずのあたしにすら何も言ってくれなかった。あの子は多分何かを隠してるんだと思うの。考えすぎだったらそれでもいいけど、もし何かあるんだったら、あたしは夏穂のことを心配もするし、力になってあげたいとも思ってる。でも、今の夏穂は多分何を聞いても答えてくれない。だったら、今のあたしにできることは何かできることがないかを地道に情報収集することしかない、って思ったの」

「でも、それは……」

 確かにさつきの言っていることは間違ってはいないが、その方向はおかしい、と誠が言おうとしたその時だった。

「もちろん、こんなやり方が普通じゃないのは分かってるよ? でも、これが一日考えて出したあたしなりのやり方、あたしの答えなの」

(片桐、お前そこまで……)

 誠は目の前のさつきの両肩に手を置き、そのままさつきに顔を近づける。

「ちょ、マコ!?」

 いきなりのことに顔を赤くするさつき。しかし、誠はそんなことなど気にせず、こう続けた。

「……あんなこと聞いて悪かったな。今回の片桐が本気なのはよく分かったよ。俺もできる限り協力する」

「あ、ありがと……」

 さつきは赤くなった顔を悟られないように誠から目をそらしながらこう答えた。しかし誠は何にも気付いていない様子で、

「……ん、どうした? 顔赤いけど、熱でも出てきたか?」

「べ、別に何でもないよ! とりあえずあたしの作戦ってのはこんなところだから、じゃ、放課後よろしくね♪」

 さつきはそんな誠の問いかけに慌てて教室へと戻って行ったのだった。



(まぁ、あの時の片桐の態度も気にならなかったわけじゃねーけど、さっき普通に話しかけてきたところを見ると別に大したことじゃなかったんだろ。さて、と……)

 誠は昨日ちょうど夏穂を見かけた辺りまで着いた。昨日はこの辺りで声をかけた時に確か突然姿を消してしまったはずだ。

「大方あの感じだと昨日も屋根の上に飛んだから消えたように見えたんだろうな。俺をいったん避けた理由は分かんねーけど。で、結局自分の姿が他人にどう見えてるのかだけが気になって、俺にあんなことをしてまで、自分のことを尋ねた、と……」

 昨日の彼女の行動のおかげで、どうにかこの場で何が起きたのかまでは誠にも知ることができた。が、いまだにその理由だけはよく分かっていない。彼女に何があったのだろう、とまた同じところに考えが戻ってきた誠。とその時、

「のわぁぁああ!!」

考え事をしていたせいか、何もないところで盛大にすっ転ぶ誠。全身を前から思いっきりコンクリートに打ちつけた。

「いってぇ……」

とりあえず体を起こす誠。これは今まで生きてきた中で三大ドジに入るな、と思いながらゆっくり立ち上がろうとする。すると、

「大丈夫、朝日君?」

 どうやら知り合いの誰かが手を差し伸べてくれたらしい。

「あ、ありがとう……」

誠はその手に摑まって立ち上がる。さて、一体誰が助けてくれたのだろう、と誠がその人の顔を確認する。

「後ろから叫び声がするからどうしたのかと思って振り向いたら、朝日君が倒れてたから……」

「ま、間宮!?」

 誠に心配そうな顔を向けて話していたのは、今まで尾行し続けていた間宮夏穂だった。

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