誠の1日④ 誠と悪友②
「なぁ、どう思う?」
「……どうって、今の話か?」
それから一時間後、誠は真悟の家に着くと、彼の部屋に入るなり、先ほどのことを真悟に相談した。ちなみに、彼の部屋はご想像に漏れることなく、春野雨グッズで埋め尽くされている。ポスターから抱き枕、サイン色紙に加えてどうやって撮ったのか二人で撮影済みのまであるため、もはや誠としてはあまり長居したくない空間の一つと化していた。が、今はそんなことなどどうでも良くなるくらいの疑問が彼の頭を渦巻いていた。
「ああ。いくらなんでもおかしいと思わないか? 目の前にいたはずの人間が突然姿を消したんだぜ?」
誠は絶対何かあるだろ、と言わんばかりの勢いで真悟に聞く。
「……まあな。まさかお前が見間違うとも思えないし、やっぱり今日の間宮は何かおかしい、って考えるのが妥当な線ではあるんだろうけど」
だが、聞かれた当の真悟は歯切れの悪い言い方で答える。
「何だよ、えらく微妙な返答の仕方だな」
もう少し乗ってくれることを期待していた誠としては物足りない反応だった。
「俺たちがここで考えたところで、あいつが教えてくれるわけでもなんでもないからな。さっきお前も言ってただろ、人には知られたくない秘密の一つや二つはあるってさ」
「……それはそうなんだけど」
真悟に正論を言われ、押し黙る誠。
「ほら、それが分かってるんだったら余計な詮索なんて止めて、さっさとGGやろうぜ! これはホントに評判いいから、きっと面白いぞ!」
それはおそらく真悟なりの気遣いだったのだろう。それを理解した誠は、ひとまず夏穂のことは忘れて、真悟とゲームを楽しむことにした。
「そういやさ、一か月後に遠足があるじゃん? あれってどこ行くんだっけ?」
GGをプレイしていた誠は先ほど聞こうとしていたことを思い出して聞く。彼らの学校では十月になると遠足があるのである。
「ああ、どうせシースカイパークだろ。あそこ小学校の頃から行ってる気がするけど、俺は地元だとあそこくらいしか遠足できそうな場所を知らないぞ?」
真悟はやや飽き飽きした様子で言う。というのも、シースカイパークというのがパークと名乗っているにもかかわらず、中に様々なものがある総合テーマパークと化しているからである。外国人にも人気であり、日本の観光名所のトップ10にもランクインするほどだ。特に人気なのはそのシースカイパークの兎のマスコットキャラクター、ビクターとビビアンである。だが、彼らはある特定の時間帯にしか姿を現さない奇妙なマスコットキャラクターであるために、すれ違うことは非常に困難であると言われている。そのせいか出会うことができれば幸運が舞い込むとすら言われているくらいだ。さらに、シースカイパーク自体が朝風モールと呼ばれる超大型ショッピングセンターの一角にあるテーマパークなので、実際はさらに大きかったりする。ちなみに誠たちは小学校一~二年の時はシースカイパーク、三年の時は朝風歴史博物館、四年で朝風市一周という名目で朝風モール全体を遠くから眺め、五年の宿泊学習では朝風スキー場でキャンプファイヤー、といった具合にほとんど市街に出ることなく校外学習の類が済んでしまうという驚愕の出来事に遭遇済みだ。
「またあそこなのか……? あそこってホント無駄にデカいよな。確か一時期朝風モール都市化計画とかいうのも立ち上がってた気がするけど、結局中止になったんだっけ?」
誠も遠足のことを思い出して顔をしかめる。ちなみに朝風モール都市化計画とは、朝風モール自体を朝風モール市という一つの市として独立させよう、というまさに名前の通りの計画である。しかし、その計画を進めている最中に市長選で現職の市長が落選してしまい、結局計画そのものが凍結されてしまった。
「まあ、俺としては今のままの方が良かったからちょうどいいけどな。そんなことされたら一応隣町って理由だけで後輩全員があの地獄を見るだろうし」
「確かに」
誠は苦笑する。さすがに学校も低コスト路線を進めすぎたと思ったのか、誠たちの卒業後は行く場所がやや変更されたのだ。もっとも、逆方向側にも行くようになっただけで、低コスト路線自体は相変わらず継続されているらしいが。
「しかし、外国人にはあそこってすごい人気らしいな」
誠は朝風モール自体に話を戻す。この朝風モールという場所、実は国際交流の場としても有名で、お忍びでハリウッドスターなんかが遊びに来ることもあるのだ。
「ああ、日本の文化が全部揃ってる、って評判みたいだな。まあ、日本文化の代表的な存在のアニメ作品の展示があったり、電化製品の安売りも一番活発的にやってるくらいだし、外人に人気のものはある意味ここ来りゃ全部揃っちまうわけだからな。ただ、俺としてはそこに春野雨をねじ込んでいきたい」
「えらく強引に話題変えやがったな……。確かに日本を代表するモデルに成長してきてるとは思うが……」
誠は本日何度目かのため息をつく。
「おお、お前もとうとう俺と同じ土俵に……」
「いつ俺がてめーと同じ春野雨信者になったんだよ! ……まったく、俺としてはそのお前の思考回路にネジを十数本ねじ込んでやりたいくらいだけどな」
突っ込み、頭を抱える誠。だが、
「ネジだけに、か?」
「別にしゃれたつもりなんかかけらもねーよ馬鹿野郎!」
そんなことなど気にすることもなく、してやったりとドヤ顔する真悟の頭を誠は思いっきりひっぱたくのだった。
「そうそう、最近この近くに服屋ができたろ?あそこにはもう行ってみたか?」
殴られた真悟が頭をさすりながら聞く。
「あ~、全国展開してるけどこの辺りにはまだなかったあの服屋だよな? 確か……レイテストだっけか? ネーミングがそのまますぎるって噂の」
「……そんな元も子もないこと言うかぁ? 確かにもう今時のって英語的に言っちまってるようなもんだけど」
何とかフォローしようとする真悟だったが、途中で諦めたらしい。
「……んで、そのレイテストがどうしたんだ?」
「いや、こないだそこで服買ってきたんだよ、春野雨プロデュースの」
「……お前もしつこいな。服の時点でそんなことじゃないかと思ってたけど」
誠に既に先ほどまでのハイテンションツッコミをする気力は残っていなかった。
「で、それが……」
真悟は自分の部屋のタンスまで行き、そのタンスの4番目の引き出しからその洋服を取り出す。しかし、その洋服が半分ほど見えたところで、誠は真悟の近くまでダッシュで近寄り、真悟の頭をグーパンチで殴る。本日二度目だった。
「いってーな……。激しいドS体質なのかお前は? もう10年以上の付き合いだが初耳……」
真悟は殴られた衝撃で落とした洋服を再びつかみ、半分ほどまで引き上げた。一方の誠はといえば、
「ボケてる場合じゃねーだろ! てめーは何で女性用の洋服まで買い込んでんだよ! それどこからどう見てもスカートじゃねーか!」
何でこんなもん持ってんだよ、と今にも掴み掛らんばかりの勢いで真悟に詰め寄った。
「ほう、その通り。これはいかにもキュロットスカートだが」
何の問題もない、と言った様子で答えてから、真悟はその洋服を全て取り出す。そこから出てきたのは確かに黒いキュロットスカートだった。しかし、表面に春野雨のサインがあるのが普通のものとは異なっていた。それを見て、
「……まあ、買った理由は分かりきってるから一応理由を聞くが、何でそんなもんを買ったんだよ?」
誠は頭を抱えながら聞く。
「そんなの決まってるだろ、春野雨がプロデュースしたからだよ。俺は春野雨が手を付けたものに関しては例え何があろうとすべてを手に入れてみせるつもりだからな。ほら、その証拠にサインもここにあるだろ?」
誠はやっぱりか、と額に手を当ててから、
「い、いやいや、それはちょっといくら何でもおかしくねーか? 理屈は分かるが、何で自分が着ない服まで買ってんだよ……?」
と尋ねる。ところが真悟はと言えば、
「別におかしな話じゃないぞ。例えば今テレビで流行ってる小さな子供と大人のお兄さん向けのテレビアニメがあるんだが、相当その作品に入れ込んでる男子のファンなんかはキャラがプリントされた子供用の服だって平気で買いに来るって服屋で働いてる親戚のおばさんから聞いたことがある。その点俺の買ったこれは恋人でもできてみろ、普通にプレゼントとして使ってもらえる。着られなくなったらまた俺が春野雨コレクションとして保存できるしな」
否定するどころか逆に別の事例を挙げて誠に反論する始末である。
「……へ、へぇ~」
誠は熱心に語る真悟にそう返すのが精一杯だった。さらに真悟は続ける。
「ちなみに先月の一日にセレクトミールで発売されたエビの土瓶蒸し、あれも俺はエビ嫌いだったが、春野雨が考案したってことで初日に見事完食済みだ」
セレクトミールというのは選ぶ食事の名の通り、和・洋・中、さらにはロシア、タイ、エジプトまで、ありとあらゆる世界中の料理が食べられる、と評判のレストランだ。しかし、ごく稀に主人の気まぐれで考案されるメニューが考案されるせいで、たまに赤字になることがあるらしい。しかし、次の月には黒字に戻っている、という不思議な店だ。ちなみにこれは誠の聞いたさつき情報なので、そもそも情報源も信憑性も謎である。もしかしたら話題性を上げるためにさつきがいつもの要領で噂を流したのかもしれない。
「お前……そこまでする理由がどこにあるよ? 別に誰かと競ってるわけでもないだろ……」
誠は疑問の目で真悟を見る。だが真悟はため息をつきながら首を横に振る。
「分かってないな。競うからファンじゃない、自分が満足できるまでそれについて知ろうとする、だから初めてファンを名乗れるんだよ。ただの知識だけ詰め込んだオタクとかとはそこが違うんだ。それが分かってないうちはお前もまだまだだな」
「……別にお前に勝つ気なんかないし、ファンでもねーけどな」
いつの間にやら立場が逆転したことに気付きながら誠は思う、真悟に勝てる春野雨ファンは世界中どこを探してもいないんじゃないかと。それも結構本気で。




