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くろすそうる・ぱにっく!  作者: 小麦
第一部 幼馴染は交代人格者?
4/19

誠の1日③ 誠と夏穂?

「気になること?」

 誠は言葉を濁したさつきの発言をさらに深く掘り下げてみる。

「うん、夏穂のことなんだけど」

「間宮? あの容姿端麗で成績優秀、おまけにスポーツ万能のあいつが一体どうしたってんだ?」

 とここで、誠とさつきのやり取りで入るタイミングを完全になくしていた真悟が会話に入ってきた。一見褒めているように見えるが、真悟の皮肉でもある。別に彼女と険悪な関係であるわけではない。彼自身も誠と幼馴染であり、つまりそれは同様に彼もまた間宮夏穂と幼馴染であることを意味しているからである。だが、それとこれとは話が別、自分より優秀な人物をひがむ傾向にあるのは人間の性だ。

「いや、大したことじゃないんだけどね」

 さつきはそう前置きしてから話し始める。

「今日あたし朝たまたま夏穂に会ったから、いつもみたいに一緒に学校行こうと思って声かけたのよ。ほら、あたし夏穂とは仲いいからさ」

「そうなんだよなあ。お前何でか間宮とも仲がいいんだよなあ……。どこからどう見ても正反対な性格してると思うんだけどなあ……」

 真悟が感慨深そうに言う。

「ちょっとそれどういう意味よシンちゃん?」

「何でもございませんよさつき様」

「よろしい」

 さつきの白い目を見てこれはまずいと判断したのか、慌てて執事口調になる真悟。さつきも満足そうである。

「……それで、その後は?」

 今度は蚊帳の外になっていた誠がイライラしたように会話に戻ってくる。こういう話の途中に別の話を挟まれると気になってしまうのは別に誠に限った話ではないだろう。

「あ、ごめんね。そしたら夏穂ってば、『ゴメン、今日はちょっと……』って言って先に行っちゃったのよ。夏穂が断るなんて珍しいから、ちょっと気になってね」

「ふーん……」

 誠は内心気にならないようなそぶりを見せながら頷く。しかし、実際はと言えば、これ以上ないくらいの興味津々具合だった。

「間宮が断る……かぁ。あんまり大きな声じゃ言えないけど、あいつ友達多い方じゃなかったよな?」

 一方の真悟はそんなことを言う。というのも、彼が見ている限り、あくまで夏穂と話している人間の彼女への接し方が、友人というよりもクラス委員長としての関係のみで接しているような希薄な関係に見えたからである。そしてそれは彼が先ほどさつきに対して含みのある言い方をしていた理由でもあった。さつきは少し考え、

「あー、確かにそれは間違ってないと思う。夏穂のところに来る人は今日の予定とか課題について聞きに来る人が多いって前に本人から聞いたことがあったから」

こう答えた。どうやら真悟の思い込みではなかったらしい。誠としては夏穂の姿を眺めているだけで実際ごちそうさま状態だったのでそんなことなど知る由もなかったのだが。

「一体何でだろうな? 今日も授業終わったらすぐに帰っちまったし……」

「えっ、夏穂もう帰っちゃったの!?」

 さつきは真悟の言葉に驚いて聞き返す。きょろきょろ辺りを見渡すが、確かに夏穂の姿はなかった。誠もつられてぐるりと教室を見渡し、

「ああ、そういやもう帰っちゃってるな……。普段の間宮なら放課後は三十分くらい残って読書でもしてなかったっけか?」

「そう言われてみるとそうだな……。確かに不思議なところが目立つかもしれない。でも、今日だけたまたまってこともあるかもしれないぞ? ほら、家の用事とかなんてありそうじゃないか?」

「じゃあ、もし仮にそうだったとするよ? そしたらさっき言った朝の一件はどうなるの?」

 真悟の言葉に納得いかない様子のさつき。

「……うーん、今日は人と話したくなかった、とか」

 真悟は少し考え、苦し紛れに自分の考えを述べてみるが、自分で言っても納得できたものではなかった。そもそも彼女の友人らしい友人はさつきを除くとほとんどいないのだ。そんな数少ない友人の頼みを彼女が自分の都合だけで断るとは思えなかった。

「ね、マコはどう思う?」

 さつきは真悟に聞くことを諦め、今度は救いの言葉を誠に求めた。

「えっ、俺か? ……俺が思うに、このことにはあんまり触れちゃいけないような気がするぞ? ほら、人には一つか二つくらい触れてほしくない話みたいなのがあるだろ。今回の間宮の件はそんな感じなんじゃねーかな?」

 聞かれた誠は当たり障りのない回答をした。彼としては、さつきに根も葉もない噂話に持っていかれるのが面倒そうな気がしただけだったのだが。本当は彼女が困っているなら今すぐにでも駆けつけて助けてあげたいくらいである。

「うーん、そうなのかな……?」

 さつきはあまり納得していない様子ではあったが、

「まあ、マコがそう言うならそういうことにしとくか。じゃ、あたしはそろそろ帰ろうかな。また何か噂聞きつけたらゴキブリのごとく現れるね!」

 ニコッと笑いながらそう言った。しかし、

「ということは、俺たちはそれをすさまじい勢いで叩きのめさなきゃいけないわけだな?」

「ちょ、冗談を本気で返されると対応にものすごく困るんだけど!?」

真悟のボケ返しに思わず突っ込んでしまうさつき。どうやらこの2人に関しては真悟の方が上手らしいな、と誠は驚くほど客観的に判断していた。



 そして、さつきが帰って行ったのを見送った二人は、今日の予定の話に戻した。

「さて、片桐もいなくなったし、遊びの相談を再開しようではないか、誠君?」

「お前は相変わらず会話の感じが安定しねーな……」

 誠はやや面倒臭そうにそう突っ込んでから、

「それはともかく、あいつと絡んでたせいで、もう十二時半回っちまってるぞ? 待ち合わせ何時にするよ?」

本題に戻す。そもそも、今日はカラオケに行こう、というのが二人の予定だったはずだ。

「うーん、もう俺んちでゲームとかでもいいような気がしてきたな……。そういや最近新しいソフト買ったんだった。GGってお前知ってるよな?」

「ん? ……ああ、ガビンズ・グロースだっけか? また新しいの出たのか?」

 誠はそう聞く。ガビンズ・グロース、正式名称はGUBBINS―GROWTHというもので、世間でゴミ扱いされていた主人公が様々な人と出会うことで更生していく、というストーリー性の高い人気ゲームである。現在11シリーズ出ていて、毎回主人公が違うので、ファンによっては作品の好みが分かれることでも有名な作品である。一番人気が出たのは3で、ゲーム作品としては異例のダブルミリオンを達成、アニメ作品への展開も果たした。そこからファン層が徐々に拡大していき、今となってはヘビーユーザーがかなりの人数を占めているほどだ。ちなみに誠は今の発言から分かる通り、ほとんどプレイしたことはない。

「ああ、今回は過去に万引きを人にやらせたことのある主人公が自分で万引きをしちまって、刑務所から出てきたところから話が始まるんだ」

「……何かすごくネタが尽きてきた感があるのは俺だけか?」

 誠は真悟の説明にやや呆れながら反応するが、

「ところがそうでもないらしいぞ。今回は話がありがちな分、ストーリーの凝り方がハンパじゃないらしい。通販サイトの評価を見たらほとんど星五つの評価だったからな」

 珍しく春野雨以外のことで熱弁をふるう真悟に少し興味を示した誠は、

「へぇ~……。そこまで言うんだったら、今日は真悟の家に行くとするかな。待ち合わせは……とりあえず一時半にしようぜ」

 そう真悟に提案する。今から帰ったのでは一時には間に合わないだろう、という判断である。真悟も納得し、

「了解、じゃあまた後でな。俺は今から飯食わなきゃいけないから先帰るわ」

そう言って先に教室を出て行った。危ないから廊下は走るな、という教師の声が聞こえてくる。どうやら教師とぶつかりそうになったらしい。

(……相変わらずだな真悟も)

 真悟もこういうところは小学生の頃から変わっていない。目の前に誰がいようが実行しようと思ったことは即断即決で実行してしまうのだ。結果大人に怒られてしまったことは1度や2度ではないし、誠自身それに何度も巻き込まれた記憶があり、これが誠が真悟を悪友と呼ぶ最大の理由でもある。

「……さて、俺も帰るとするか」

 誠も手提げかばんと黒い弁当入れの袋を手に持ち、教室を出た。



(あれ? あそこにいるのって、間宮……だよな? ずいぶん前に教室出てったって話だったはずだけど……。図書室にでもいたのか?)

 教室を出て学校指定の色である白のスニーカーに履き替え、正門を出た誠は少し前に見慣れたシルエットを見つけた。一応帰り道は同じ方向なので会ったところで何の不思議がある訳でもない。だが、先ほどの会話を踏まえると、やはりおかしな話である。誠は多分夏穂にも何か事情があったんだろ、例えば先生に何か大事な学級活動の議題を頼まれていたとかな、と無理に合理的な理由をつけ、自分を納得させる。そして、彼女に話しかけようと走って近づいた。

「おーい、間宮。ちょっといい……」

 しかし、夏穂に話しかけようとしたその時、そこにいたはずの彼女の姿はまるで蜃気楼のように消えてしまった。

(……見間違い、だったのか?)

 誠は何だか釈然としないまま、首を傾げるばかりだった。



 一方、誠が首を傾げているのを近くの家の屋根の上で観察している人影が一つあった。

「……ふむ、今のが誰なのかは分からぬが、私のことを知っているような口ぶりで近寄ってきたということは、おそらく間宮というのがこの女性の名前なのだろう。だが、そうだとしても分からぬ。一体だとしたら、今の自分は何者なのだ?」

 ロングヘアーの美少女は誠と同様に首を傾げる。

「それに、ここは一体どこなのだろう? 私の知っている日本とはどうも違うような気がするのは気のせいではないだろうし……」

 彼女はさらに独り言を続ける。しかし、ふと思いついたように、

「まあ良い。いずれにせよ、今の私のことを知っているあの少年と再び接触するのが最良の選択肢であろう。それには、少し現在の自分と自分の置かれた状況について理解しておく方が先かもしれないな」

 ニヤッと笑みを浮かべ、まだ首を傾げたままの誠を見つめる彼女。

「あやつとはまた会うことになるだろう。だがそれは後回しだ。今はまずこの体の持ち主のことについて調べる方を優先せねば」

 そう言って彼女は再び姿を消し、どこかへと去って行った。

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