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くろすそうる・ぱにっく!  作者: 小麦
第一部 幼馴染は交代人格者?
3/19

誠の1日② 誠とゴシップキラー

「それでは、本日の予定について説明します。今日は……」

 先生が話し始めると、誠の視線は自然と自分の目の前に座っている少女に吸い寄せられた。

 彼の目の前に座っていたのは黒く長い髪にきちんと揃えられた足、黒のカーディガンに星のワンポイントの入った靴下、そして長すぎず短すぎない学校指定の灰色のチェックスカートに身を包んだ、まさに学校の模範となるような服装の少女だった。

(やっぱりかわいいなぁ、間宮……)

 誠はこう思う。実は今誠の前に座っている少女こそ、朝方誠が寝ぼけながら名前を言っていた間宮夏穂なのである。新学期前の席替えで彼女の真後ろになった時は、誰かがくじに不正を働いたのではないか、と思ったほどだ。

「朝日君?」

 だが、そんなことを考えていた矢先にその間宮夏穂が突然誠に話しかけてきた。

「のわぁ! ……ど、どうしたの間宮?」

 いきなり振り向かれてしかも話しかけられた誠は、自分の中では極めて冷静を装いながら反応する。

「……? えっと、プリント。今回ってきたの。授業参観のお知らせだって」

 不思議そうな顔をしながら夏穂は誠にプリントを手渡す。

「お、おう」

 誠もこれ以上ボロを出さないように素直にそのプリントを受け取り、後ろに回す。この席になってからというもの、彼はいつも夏穂の後ろ姿を見ながらいろいろな妄想をするのが日課となっていた。

(んっ!)

 また誠が夏穂の方を見ながら妄想を始めようとしたその時、そんな声が目の前の夏穂の背中から聞こえてきた。肩が微妙に揺れていたところを見ると、おそらくくしゃみを我慢していたのだろう。気のせいか危ない危ないという声が小声で漏れていたのもわずかに聞き取れた。

(先生の話の時だから邪魔しないように我慢したんだろうな。やっぱかわいい)

「以上でホームルームを終わります。それじゃ、次の時間の準備を始めてくださいね」

 その一言が聞こえてきて、誠はようやく我に返る。どうやらそんなことを考えているうちにいつの間にか朝の連絡が終わっていたらしい。

「では、間宮さん、号令をお願いします」

 号令をかけるのは間宮夏穂である。彼女は先ほど述べたような外見からイメージできる通り、クラスの学級委員長を務めている。噂では、一か月後に控えている生徒会選挙にも出るという噂までたっているほどだ。まだ1年生だというのにこのような噂が立ってしまうほどに彼女は優秀な生徒なのである。

「起立、礼」

 号令が済むと誠は席を立ち、どこかに行こうとしていたすぐ隣の真悟に声をかける。

「悪い、今日のホームルームの連絡教えてくれないか?」

「……またか。お前席替えしてから毎日聞きに来てるよな?」

 一方の真悟は呆れ顔で誠に聞く。席替えしたのは夏休み直前であるので、まだ聞きに来たのは5回ほどなのだが、連続して聞かれているせいであまりいい反応ではなかったのだ。

「いや、ちょっとボーっとしちまってて……」

「お前最近そればっかりだな……。どうせまた間宮のことでも考えてたんだろ? いや、むしろ目の前に間宮がいるからそっちに意識がいってるのか?」

 図星だろう、と言わんばかりに聞く真悟。

「なっ、そ、そんなんじゃねぇって」

 小声で反論する誠だが、ここまでうろたえていては反論してもあまり信憑性はない。真悟はその様子を見てこれ以上聞いても面倒だ、とでも思ったのだろう、

「まあどうでもいいんだけど、担任の話くらいはきちんと聞いとけよな。今日は大掃除の後に全校集会があって、その後のLHRで下校だってさ。大体終わるのは十二時前って言ってたな」

小言を挟みつつ誠に教えることにした。ところが、それを聞いた当の誠は、

「……おい真悟、お前今何て言った?」

何故か別の意味で慌て始めた。首を傾げかけた真悟だったが、彼は誠の席のフックに引っかかっている黒い手提げ袋を見て納得する。

「……お前バカだなー、弁当持ってきたのかよ。三日前に始業式の日は早めに帰れるからまた遊ぼうぜって言ってたじゃねーか。つーか、そのくらい覚えとけよな」

 誠は普段から黒い手提げに弁当箱を入れて持ってくるので、真悟はすぐに状況を理解できたのだ。一方の誠はと言うと、

「んなこと言われたって……」

それを言われた時の状況を思い出して渋い顔になった。それを真悟が言ったのは三日前、つまりはゲーセンのUFOキャッチャーを壊滅させた時である。そんな時に学校の話などされても、遊びのことと景品運びのことで頭が一杯だった誠がそれを覚えているはずもなかった。

 もっとも、誠が忘れていただけでこの話自体は真悟が言う前からも担任が話していた話ではあったのだが、この話を担任がしていた時の席は既に今の席、つまり誠の前は間宮夏穂だった。なので、もう誠は朝のHRなどロクに聞いてはいなかったのだ。文句など当然言えるはずもない。しかし、それでは何だかあまりにもやりきれなかったので、

「うわぁ、最悪だ……」

と一言呟いた誠はすぐそばの真悟の机に突っ伏した。

「おい、倒れるなら自分の机にしろよ!」

 真悟が言うが、既に彼の声など誠の耳には入っていない。結局誠は大掃除を始めるにあたって、クラスメイト達が机を前に送り始めるまで真悟の机を陣取ったままだった。



 そして、十一時四十五分、

「よっしゃー、終わった!! 誠、帰って遊び行こーぜ! ……ってあれ?」

LHRを含め、すべての日程が終わったので、真悟は誠に声をかける。しかし、誠は席から立つ様子もなく、机の横の黒い手提げかばんに手をかけていた。

「……別に今食わなくてもいいんじゃね?」

 何をしようとしているのか分かった真悟はやや呆れた目で彼を見る。

「うっさい、今ここで食わなきゃ何か負けた気がするんだよ!」

 しかし、誠はそう言って弁当にがっつき始めた。

「……その行動をとってる時点でもうお前はいろいろ負けてると思うけどな」

 真悟は遠い目で誠を見るが、そんなことなどお構いなしに誠はひたすら弁当にがっつき続けた。そのため、結局真悟は誠が弁当を食べ終わるまで待たされることとなった。



「悪い、待たせちまった。んで、今日は何して遊ぶんだ? さっきの話だとお前今月もうあんまり金ねーんじゃねーか?」

 十五分後、弁当を食べ終えた誠は、待っていた真悟にそう声をかける。

「……ずいぶん痛いところをついてくるのな……。とはいえ、遊びには行きたいしなぁ……」

 真悟は誠の鋭い指摘に悩みながら、

「……うーん、じゃ、カラオケとかどうだ?確か隣町に平日500円のフリータイムでカラオケできる場所があったよな?」

遊び場所を提案する。誠は少し考え、

「……ああ、あのマイクがあんまりちゃんと入らない不良品カラオケのことか。曲も2~3年前のしか入ってなかったんじゃなかったっけ?」

渋い顔になった。というのも、そのカラオケ店は安くて料理の質も申し分ないのだが、肝心のカラオケがお粗末なためである。噂だと1つだけ最新の機械があるそうなのだが、誠たちの知り合いどころか、クラスメイトですらそのカラオケに誰も出くわしたことがない。そのため、その噂自体が一種の都市伝説と化しているのは誠たちの高校では周知の事実であった。

「つっても、俺のポケットマネー的に他に選択肢もないし、最新カラオケに当たるのを祈るしかねーって」

「……そもそもホントにあるのか、その最新カラオケって?」

 今までの話そのものを根底から否定しにかかる誠。しかし、

「だから、それを確認するためにみんなあの店に通ってるんだろ? ま、一種の商売方法ってことなんじゃねーの? ……逆にそんな噂を流しそうな人物になら心当たりはあるけどな」

 真悟もその辺りはきちんと理解して誠に話を振っていたようである。

「ああ、あいつか……。確かにあいつならやりかねねーな……」

 誠は頭を抱えつつ、その人物を思い出した。別名ゴシップキラーと呼ばれる女子で、誠が高校で知り合った同級生。一度好きな人を彼女に教えてしまったせいで、次の日に学校中でからかわれたという被害に遭っている誠としては、あまりいい印象がない。

「マコ、呼んだー?」

 そんなことを考えていたその時、その人物は突然教室の中に入ってきた。

「呼んでねーよ! つーかその呼び方はやめろ!!」

 入ってきたのは白のブラウスに短めに履きこなされた灰色のチェックスカートという、瑛琳高校指定の制服を身にまとったポニーテールの女の子だった。彼女の名前は片桐さつき(かたぎりさつき)、噂話が人よりちょっとだけ好きな、どこにでもいるごく普通の女の子である。

「えー、そんな今さら何をおっしゃいますか。あたしとマコの仲じゃないですかー♪」

 一方のさつきは誠のツッコミを特に気にすることもなく、軽い敬語で返す。誠としてはマコというのが女の子っぽい呼び方なのでやめてほしいだけなのだが、さつきはいつになってもそれを理解してはくれないのだ。こんな会話からも分かる通り、この2人の関係は決して悪くはない。ただ、彼女の方が誠よりも一枚上手、というだけの話である。あくまで悪いのは噂話に関する印象だけなのだ。

「……で、わざわざここに来るってことは、何かおかしな噂でもあったのか?」

 誠はさつきに反論するのを諦め、用件だけを聞くことにした。彼女が誠のクラスに来るのは大方何か噂話を聞きつけた時だけなのだ。しかし、

「いやぁ、今回は別に大したネタがある訳でもないけど……何で?」

あっけらかんと答えるさつき。

「おい、じゃあ何で今ここに来たんだよ!」

「えっ、だから呼ばれたような気がしたから来たって最初っから言ってるじゃーん?」

「……」

 言葉を失う誠。彼女の噂話に関するスキルは半端なものではないようである。しかも自分のものに対しても。

「……あ、そういえば噂じゃあないんだけど、おかしなことならあったよ?」

 当のさつきは誠がなぜ言葉を失ったのか分からないままに再び言葉を発した。

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