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くろすそうる・ぱにっく!  作者: 小麦
第一部 幼馴染は交代人格者?
14/19

夏穂の真実② 詩乃の正体?

「……ありがとう、もう落ち着いたから大丈夫」

 しばらく泣いていた夏穂は落ち着いたことを告げると誠から離れた。

「おう」

「……あと、このことも内緒でお願いね」

「お、おう……」

 顔を赤くしながらそう言った夏穂に、顔をそらしながら答える誠。そらしたくてそらしたのではなく、(先ほどの自分の行動も含めて)あまりの恥ずかしさに目を合わせることができなかったのである。

「じゃあ、話そうと思うんだけど、最後に確認。絶対、誰にも言わないでね?」

 夏穂のその言葉に誠は夏穂の方をしっかりと向き直して頷いた。いよいよ、彼女の秘密、それが明らかになるのだ。

「じゃあ、ちょっと長くなるけど」

 夏穂はそう前置きして、誠に話し始めた。

「実は私、夏休みにイギリス旅行に行ってたんだ」

 そこで誠はさつきの話を思い出していた。

「あー、それなら片桐から聞いたぜ。あいつも確か怪しいのはそこだって勘ぐってた記憶がある。じゃあ、やっぱりそこで何かがあったのか?」

「うん、正確にはイギリス旅行のついでに寄ることになってたお母さんの幼馴染の家、なんだけどね。その幼馴染って言うのがまた奇妙な人で、どうもおかしなものをいろいろ作る発明家だったみたいなの」

「発明家、ねぇ……」

 話の見えてこない誠はとりあえず首を傾げる。この話の流れだと、どうも夏穂はその発明家の発明を試したせいでこんなことになっている、というのが最も筋の通った解釈になるのだが、それがどう詩乃の存在と結びついてくるのか、そこまでは謎のままだった。

「そもそも、何でその発明品を間宮が実験することになったんだ? 別に、その人本人がやったって構わないはずだろ?」

 そしてもう一つ疑問なのが、何故会ったこともない夏穂に発明品の実験をしてもらおうとその発明家が考えたのか、である。

「それが、元々試してもらうなら自分の娘か私にしようと思ってたんだって。何でも、頭のいい想像力のある人が実験台にふさわしい、とか何とかって。で、大体そういうのが一番ピークにあるのがその人の持論で言うと高校生の女の子だったみたい。ほら、女の子ってメルヘンチックなところがあるって一般的に言われてるでしょ?」

「何かずいぶんはた迷惑な選ばれ方だな……。あれ、じゃあそのもう片方の娘さんはどうなったんだ?」

 ここで誠は気付く。今の話だと、その研究者には娘がいることになる。なら、当然最初にその娘を実験に使うはずなのだが……。

「だから、その子が断ったから私に白羽の矢が立ったんだって」

「あー、そういうことか……」

 どうやらその子もあまり父親の発明品を良くは思っていないようだ。自分の娘にさえ信頼されてない父親って、と誠は渋い顔をする。

「お父さんのこと自体は嫌いじゃないみたいだけどね。何かよく失敗するから、大掛かりなものは大抵他の人に回すようにしてるみたい」

「……親子共々何て家族だよ」

 そのせいで夏穂がこうなったのだ、もし会うような機会があるのなら文句の一つでも言ってやりたいところである。

「だ、大丈夫だよ、ちゃんと二人とも私のために協力してくれてるから! 奈津美なんて自分の勉強と両立させながらお父さんのお手伝いしてるんだよ!」

 誠が握り拳を作ったのを見て慌てて弁解する夏穂。自分のことでもないのに必死に弁解する彼女は本当によくできた高校生である。

「……奈津美?」

 一方の誠は初めて聞く名前に首をひねる。

「ああ、その子の名前。霧原奈津美ちゃんって言ってね、私と同い年で向こうで友達になったの。真面目で努力家でいい子なんだよ」

 笑顔でその子の魅力を語る夏穂。その顔を見て誠の顔が赤くなる。生きてて良かったといっても過言ではない、というかむしろ今死んでもいいと思える。それくらい彼女の笑顔は最高のものだった。

「仲良いんだな。学校での様子見てると意外っちゃ意外だけど」

「……今さらっと失礼なこと言ったね朝日君?」

「あ、い、いや、そんなつもりじゃ……」

 照れ隠しで何か発言しようとして思わず本音の出た誠に、夏穂は頬を膨らましてすねたような表情を見せる、誠は慌てて弁解しようとした。だが、

「……まあ、間違ってはいないんだけど、ね」

彼女はさびしそうな表情をして、誠の方を見た。どうも本気ではなかったようである。

「私、子供の頃から本とか読むの好きでね、人からは真面目な人って思われてたみたいだけど、そのせいであんまり友達とかできなかったから、さ」

 真悟やさつきの言っていたことはどうも真実だったようだ。疑っていた訳ではなかったが、本人の口から同じことを言われるとやはり信憑性がさらに増したのは言うまでもない。当然本人の主観も入るから受ける印象も変わってくる。

「話を戻そっか」

 どう答えようかと考えているうちに、夏穂から切り出してきた。彼女もあまりこのことには触れてほしくないのだろう。

「で、その人が発明したものがね、通称AIっていう機械なの」

「AI……? 何だか人工知能みたいな名前だけど」

 どんな機械なのかも分からぬまま、誠が聞き返す。

「ちょっと違うみたい。Actual Imagination―想像実現装置―って言うのが正式名称らしいから。本人の頭の中から分泌される特殊な物質を読み取ってそれを電気信号として体験者の頭の中に具現化することで、その人が思い描いた理想の世界を体験できるって機械だったみたい。思い描く世界が変わればその都度自分がいる世界は変わるから、まあ平たく言ったら現実逃避装置みたいなものかな。一度想像した世界を変えることはできないから、変更したいときに機械の中に入り直す手間はあるんだけどね」

「……ずいぶん元も子もない言い方だな」

 もしそれが本当に実用圏内に入ったとしたら、おそらく辛いことがあった人たちがみんな駆け込んでくるだろう。恋人に振られた人はフラれる前の楽しかった時間に、いじめにあって辛い人はいじめっ子のいない世界に、といったように。

「まあ、そんな説明を作った本人が言ってたからね。それに、あんまりやってると脳に悪影響が出るから一日一時間! ってきつく言われちゃったし」

 それはそうだろうな、と誠は思う。前に現実と空想の世界の区別がつかなくなる統合失調症の患者の話を聞いたことがあった。この機械の特性を考えれば、統合失調症は充分起こり得てもおかしくはない。その点でも、ある程度自我の安定した高校生という年齢は適していたのだろう。意外と合理的に考えられているのだな、と誠はちょっとその発明家を見直した。

「で、間宮は一体どんな世界を思い描いたんだ?」

 その機械の実験台になったということは、つまり夏穂も何かしら自分の思い描いた世界を具現化したわけであるはずだ。そう思った誠は次にそこに質問の焦点を当てた。

「えっとね、私が想像したのは、自分の気の合う友達のいる世界」

「……うん、まあそうなるよな」

 彼女は先ほど友達があまりいない、と言っていたし、その答えは誠にとってもごく自然なものであった。自分の理想の世界を作り出すこと、それはいつの世界誰もが一度は夢見ることだ。さつきとその奈津美くらいしか友人のいない(ように見える)彼女が友人に恵まれた世界を想像していても何の不自然もないだろう。しかし、聞いていて誠が返答に困ったのもまた事実であった。

「朝日君がそんなに落ち込まなくていいんだってば。これは私の問題なんだし、気にしないで、ねっ?」

 夏穂は誠のその様子を見て慌てて励ました。彼女にとっても誠に落ち込まれるのは辛いものがあるのだろう。

「じゃあ、続きだけど、私が作ったその世界にはね、いろんな人がいたの。メイドさんもいたし、ナースも、それからあたしと同い年の高校生の女の子もいたわ」

「ずいぶんごちゃ混ぜにしたんだな」

「うん、どうせならいろんな人がいた方が楽しいじゃない? 社会勉強にもなるだろうし」

 夏穂はそう言うが、あくまでこれは彼女の脳内の世界だ。実際は彼女の知識の中でしかない。つまり、彼女の知識にない事はその想像された人間たちにも反映はされないのだ。

「なるほど……。でも、それだと話が見えてこないな。間宮とあの深山詩乃と、二人に一体どんな関係があるんだよ?」

 誠はそんなところに気付くこともなく、夏穂に質問を続ける。

「やっぱり朝日君、詩乃のことも知ってたんだね?」

 その名前が出た直後、夏穂はやっぱりといった様子で誠に逆に質問する。

「ああ。何かいつもの間宮とは雰囲気違うな、くらいにしか思ってなかったけど」

 誠はそう答える。実際まだ深山詩乃については分からないことが多い。忍者食が好きでクナイを使う忍者、そして得体のしれない強さを持っている……。せいぜい誠の知りうる情報はこのくらいである。

「そっか、詩乃の存在を分かってくれてるのなら話が早いかな。あの深山詩乃は私の想像した人格の一つだよ。それが、ちょっとした事情があって、私と入れ替わるようになっちゃったの」

「何だって⁉」

 誠は驚いたような声を上げる。

「じゃあ、あいつは……」

「うん、あの子は私の一部。私の想像が生み出した存在ってことになるのかな」

 そして、夏穂はそう誠に告げた。

「それ、本当なのか?」

 誠の第一声はそれだった。さすがに性格があそこまで変わってしまったのを見た後では本人であるとは思っていなかったが、夏穂の想像人格であると言われるとそれはそれで信用するにも情報が足りないように思えたのだ。すると夏穂も腕組みをした。

「……実を言うと、実際はこれも正しいかどうかってところなんだよね。あくまで今のところ一番しっくりくる仮説がこれ、って言うだけの話で」

「その仮説が立った理由っていうのももちろんあるんだよな?」

 誠は根拠を求めた。

「うん。さっき想像実現装置の説明はしたよね?」

「ああ。確かある人が思い描いた理想の世界を再現する機械だったな」

 誠は先ほどの説明を思い出しながら答える。

「うん。その機械が脳内の特殊な物質を読み取ってその世界を再現するのはさっきも話した通りなんだけど、その脳内物質を読み取る機械が精密なものだったらしいの。人の脳内に直接干渉するようなものだから当たり前だったんだけどね。ただ、その機械が稼働してる最中にどうも突然落雷が起きたらしくて」

「……落雷?」

 誠は首をかしげる。なぜ雷が関係してくるのだろう。

「その機械の体験時間が2時間だったんだけど、その間中に入った私は外部干渉を受けられない状態だった。でも、その間に落雷が起きて停電、そのままその機械はブレーカー落ちで動作不良を起こしたみたいなの」

「それってまさか……」

 誠は嫌な予感を覚えながらその先を促す。

「うん、どうもその動作不良に巻き込まれたみたい。本来私の脳を読み取って変換した電気信号を送るだけだったはずのその機械はその電気信号を過剰に私の脳内に送り込んじゃったらしいの。これがさっきの仮説が立てられた理由なんだって」

「それで、その後間宮は……?」

 誠は恐怖を覚えながらその続きを聞く。

「私は結局2時間経つまではその機械の中から出られなかったからずっと放置されてたんだけど、そのせいかそのまま3日くらい目を覚まさなかったみたい。私自身は現実に近い夢を見てると思い込んでその子たちとのんびり遊んでたんだけどね」

 夏穂はスラスラと自分に起きた出来事を語ってゆく。

「でもそれは思った以上に危険な状態だったの。一種の植物状態に近かったみたい。目を覚ました私は真っ赤に目を腫らしたお母さんに抱きつかれてわんわん泣かれたわ。後で聞いたら毎日寝ないで看病してくれてたって言ってたから、相当心配かけたんだと思う」

 夏穂は申し訳なさそうに言う。自分のせいではないとはいえ、母親に心配をかけてしまったことを後悔しているのだろう。

「で、それから私はしばらくの間その発明家の家で療養してたんだけど、その時にたまたまくしゃみしちゃった時があって。そしたらその瞬間私は体を乗っ取られて、その間自分じゃ動けなくなってたの。それが私と詩乃の最初の入れ替わりだったんだ」

「それじゃあ、あの煙は……」

 誠は納得が言ったように聞く。夏穂は頷く。

「あの煙は人格が入れ替わる合図みたいなものかな。仕組みは分からないけど、私と詩乃が入れ替わるタイミング、つまりくしゃみをするときに出てくるみたい。この入れ替わりを一般的には交代人格って言うんだって。ただ私が他の人とちょっと違うのは、その交代人格があることを知ってるってことかな。まあ、事故でこうなったとはいえ、自分で作り出した存在な訳だし、知ってて当然なんだけどね」

 夏穂は全て話し終わった様子で誠の方を向く。

「これで私の秘密は終わりなんだけど……。さっき言ってたこと覚えてる?」

「あ、ああ。あれか。いったいどんなお願いなんだ?」

 誠は身構える。夏穂はこの秘密を話す前に、もし良ければお願いを聞いてほしい、と前置きしていた。いったいどんなお願いが飛んでくるのだろう。

「実は……」

 誠はその続きを待つ。だが、その続きが5秒経っても話されない。おかしいと思った誠が夏穂の顔を見たその瞬間だった。

「クシュン!」

 誠の目の前で、夏穂は再び入れ替わりのトリガーを引いてしまったのだった。

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