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つまり私は戦闘要員。


扉を開けてくれたのはメイド服姿の女性だった。

思わず怪訝な表情をしてしまったけれど、仕方ないだろう。何のプレイ中なんだ、この人は。


「ご用件は何で御座いましょう?」


そんな私の表情にも構わず、にっこりと可愛いらしい笑みを浮かべてくれた。


「ご用件って言うか…、えっと」


口ごもりながらも紡いでいた時、再び不協和音もといギターの音が鳴り響く。私は音楽に疎い方だけれど、これは一般向きの音楽じゃないことくらい分かる。ビジュアル系とかそういう人達の音楽みたいな。

それを追うように2人の男が文句を罵詈雑言の様に吐き出す。

よくもパソコンに向かっている彼は顔色一つ変えずに黙っていられるものだ。

目の前のメイドさんも困った様に笑っていた。


「あの、」


眉を寄せて再び口を開くも、直ぐに騒音にかき消される。

ああ、もう、


「うるっせえな、お前ら黙れっての!」


女の子っぽい可愛いらしい、ソプラノめいた声じゃない分、良い意味でも悪い意味でもその場に映えたみたいだ。視線の先には私、ぽかんと間の抜けた表情が目につく。

言わなくても分かる、誰だあんた、と言いたいのだろう。


「…近所迷惑、なんですけど。」


どうせもう会うことも無いだろう。無表情というより棘の付いた表情で言ってやった。


「…近所迷惑?だってもう此処出るし。」


は?


思わず言いたくなった。

だから何なんだ、じゃあ余計に黙れよと喉まででかかる。

口に出したのは両脇にメイドをはべらせた男。扉を開けてくれた彼女もコイツの何かなんだろう。

何処か幼い様な雰囲気、絵に描いた様なワガママ坊ちゃまって感じ。


「…確かにね、此処にいる価値なんて無いようだしね。」


一番に席を立ったのはテレビ電話男だ。一見爽やかな感じだが、今は正に絶対零度の様な。電話してるときは満面の笑みだったのに。

私のいる玄関を通り越して姿を消した。


「此処にはオレの求めるheavenは無いようだな。」


次に立ち上がったのは髪をツンツンに尖らせ、メッシュも入れ…ピアスはジャラジャラとチェーンの擦れる音が煩い。紫色の唇に悪魔みたいな化粧を施し、服も一昔前のバンドマンみたいに何だか禍々しい。


「お前らとのsession、少しばかり悲しいmetronomeだったぜ。」


もはや何が言いたいんだアイツは。

しかも真面目な表情でそう言ってから出て行った。


「じゃあボクも帰ろーっと。」


妙な空気を打破したのは坊ちゃまだった。腕についていたバングルの様なものを外すと、足にも巻かれていた様で何かの機械を取り外して皆が囲んでいたテーブルに乱雑に置いて出て行った。


ぽかんとしていると、ただ一人残っていたパソコン男が目に入った。

キーボードを叩く音だけが部屋に広がる。


「…何の集まりだったの?」


恐る恐ると言った具合に聞くと、彼はちらりと私を一瞥した。

眼鏡をかけていて、目元の隈が色濃くある。黒髪は肩につかない程度。顔は悪くないけど暗い雰囲気だ。


「…ヒーローの集まりです。」


前言撤回。

暗いって言うか色んな意味でコワい。


「……あ、そう。」


うん、深く聞くのは止そう。


「えっと、きみは帰らないの?」


「…大家さんですか。」


小さくぼそぼそとした声で聞きにくい。苦笑混じりに答えた。


「違う違う、別に無関係だって。ただ、みんなどっか行っちゃったみたいだから。」


いくつぐらいだろうか、どちらかと言うと若そうだ、20くらい?

そんな事を考えていると、彼のパソコンからニュースか何かの音が流れてきた。アナウンサーが何かを話している。


「…彼らと僕は別個ですから。」


「友達じゃないの?」


「…そう言う、舐めた関係じゃないです。」


別に友達イコール舐めた関係じゃないだろ、と言ってやりたかったがまあ良い。不思議な感性してやがる。


「先導者が居なくなると、途端に集団は崩れます。…先導者が変われば、集団の質も変わる。そう言う事です。」


「いや、どういう事だよ。」


思わず突っ込んでしまった。

だってコイツ、いきなり哲学みたいな事言い始めたんだもん。意味分からんわ。


「…レッド、いわゆるリーダーが居なくなったので。」


レッド?リーダー?

頭に疑問符が出て来たが、さっきの話を繋げるとアレか。

戦隊ヒーローのレッド、あの真ん中にいる奴が居なくなった、と。


「演劇か何かやってんの?」


「…ヒーローです。」


何でそこだけ主張してくるんだろう、怖。

私は空いた席に腰掛け、ふと彼を見やった。


「じゃあ、その、レッドがいなくなってどうなったの?」


「糸が切れた様に彼らのやる気が消えていきました。それが目的だったんでしょう。」


「…ごめん、やっぱり話がよく…」


眉を寄せて首を傾げる。

良い年して何やってるわけ?さっぱり分からん。


「…簡単に説明しますと、警察いわゆる人間相手では歯が立たない犯罪組織に立ち向かうのが我々であり、先日我々の先導者だったリーダー、レッドが犯罪組織の幹部だった事が分かり、道標を失った彼らはやる気を削がれ、たった今解散しました。」


機械の様に単調に、かつもの凄い早さで言われた。内容よりもまずそれに驚いてしまった。


「……あ、えと、つまりレッドが裏切ってたと…斬新な展開だね。何か主人公っぽいのに。」


「…主人公でした、でも過去形です。」


すると、彼がパソコンの画面を私に見せてきた。何だろうと思い顔を近付けると、やはりニュースが映っていた。


『…銀行を襲った犯人は、中にいた従業員に殺傷し、総額○万円のー』


そういえば、最近こんな事件が続いている気がする。自分には関係の無い事だと思っていたからあまり気にも留めていなかった。


「…最近多いよね、そう言うの。」


「でも警察では捕まえられません。」


彼の言葉に思わず画面から目を離した。変わらぬ無表情、少し言葉を待ってみる。


「……相手が、只の人間じゃないので。」


「うーん…映画か何かの話?」


分かっていたけど、この子ちょっとずれてる。私に何て言って欲しいんだろうか。流石の23歳、あんまり良い反応はしてあげられそうにない。


「…現実です。」


しかし彼は至って真面目な表情でそう言う。…とても困る。

何を言えば良いか分からないが、とりあえず帰りたいな、私。うん。


「…あなたは、ピンク希望かと思いましたが、無関係なんですね。」


沈黙を破ったのは意外にも彼だった。

ピンク、…そう言えばそんなチラシが電柱に張ってあった気がする。


「あのチラシ、やっぱり此処だったの?」


「…はい、もう何年か前に張ったものですが。…初めて希望者が来たかと。」


「そりゃあんな所張ってあっても来ないでしょ…。」


しかもコイツが張ったのかよ、センスの欠片もない…。

思わずため息を吐くと、彼がテーブルの上に何かを置いた。ちらりと見やるとそれはさっきの奴らが置いていったものの色違いだった。

小さな画面?腕時計の様なものが一つと丁度その画面が嵌まる様な形になっているバングルみたいなのが一つ。


「何それ。」


「変身出来ます。この腕輪にある画面を脚輪の凹みの部分に嵌めると変身出来ます。」


「……真顔で何言ってんの。」


「ちなみに変身する時はクラウジングスタートのそれと似ています。走り出す様な格好で、と言う事なので。」


一応は突っ込みを入れたつもりだが駄目だった。普通に無視されたんだが。

ため息を吐いてテーブルに置かれたそれを見る。これをどうしろと。


「…あげます。解散はしましたが、記念に。」


何の記念だよ、…まあ確かにカラーはピンクだ。おもちゃコーナーにでも売ってそう。


「…そりゃどうも。」


2つを纏めて手にしてみた。

ガシャ、と無機物の音がなる。

少しの間眺めていたが、ふと彼が立ち上がり思わず視線をやった。


「帰るの?」


「はい、そろそろこの街には見切りを付けた方が良いですよ。…壊れてしまうから。」


思わずきょとんとしていると、付けっぱなしのパソコンから何やら音が流れる。

彼が閉じてしまう前に、と画面を見ると、目を見開いてしまった。


いつものニュースだ。

いつものニュースなのに、初めて見た。銀行が滅茶苦茶にされている中、優雅にソファに座っている男。周りには「イーッ」とでも言いそうな何かの構成員もどきが銀行員を押しのけ、金を強奪している。


「…何これ、」


「ニュースと言うよりは通信ですね、また銀行ですか。」


銀行員のお兄さんが蹴っ飛ばされている。こんなの、ニュースで見たことなんか無い。


「…な、何なのこれ?近くの銀行じゃん、警察は?!」


「呼んでも来ませんよ、この惨状を目で確認出来るのはそれを持っている人物、…来たとしても警察は人間、敵いません。」


淡々とした口調に、無意識に口元が歪む。それ、と指差したのはさっきのバングル2つ。

…じゃあさっきの話ってマジだったわけ?


「それじゃあ、失礼します。」


「ま、待ちなってば!…え、帰んの…?」


「ええ、僕達は解散したんですから、そりゃ帰りますよ。」


パタンと画面を閉じ、パソコンを鞄にしまう彼。

ただただ動揺する23歳、私。

お、落ち着け自分!

だが笑みが引きつるぜオイ。


「い、いやいやいや!だってあんた達戦えるんでしょ?何で帰るの?」


「解散しましたから。」


「か、関係ねえよ!…え、ちょ…本当に無視すんの?」


彼がため息を吐くのが聞こえた。

ちらりと私を一瞥すると、あからさまに鬱陶しい様な表情。


「僕だって一時は正義だとかを信じていましたよ、…でも気付きました。そんなもの守ったって、誰も喜んではくれません。」


そこまで言うと、話は終わりだと言わんばかりに扉に向かって行く。

何だろうか、この納得出来ない感じ。私だって、合コン以外はやる気ないし、ましてや誰かを助けるだとか考えた事もない。


「私は最初っから、今でも正義とかどうでも良いよ。そんな格好良い事考えた事もない。」


「…じゃあ、それで良いじゃないですか。」


「でも途中で投げ出してんだよあんた達。正義以前にさ、やれって言われたなら最後までやれよ。…ぐずってるガキじゃないんだからさ。」


そうだ、大体こんな事が言いたかったんだ。正義とか、言葉にすんのもこっぱずかしいわ。


「……誰にも、喜ばれませんよ。」


「自己満で良いんじゃない?」


適当に答えると、彼が真顔で私を見据えた。な、何なの。


「…後で、あなたの事をネットで誹謗中傷させて頂きます。」


…いまどきの脅迫って怖い。



「邪魔な人間は手荒く退いて貰いなさい。」


がっしゃんがっしゃんと物が壊れる音、悲鳴…こんな現場初めて過ぎてどうしたものか。

とりあえず彼を引っ張り、襲われている銀行に来たものの、シャッターは閉じられていて入れない。

窓ガラスから様子を見ているも、どうしたら良いんだろうか、怖い。


「あ、そう言えば名前なんだっけ?」


青柳信司(あおやぎしんじ)です。」


「青柳ね、…ちなみに私は桃乃三春。…さてと、どうやって入るか…。」


「変身すれば良いじゃないですか。窓ガラスなんて、一発ですよ。」

変身。

未だに疑っている私は対応力が低いんだろうか。

すると青柳がクラウジングスタートのポーズを取り出した。


「え、このタイミングで走りたいの?」


「違いますよ、…さっきポーズの説明はしたでしょう。」


カチ、と何かが嵌まる様な音がしたと思えば、青柳がいつの間にかコスプレをし終えていた。


「え、うわ、ええっ?!」


青色を基調としたそれは、何というか彼に似合っていた。

私が昔テレビで見たような戦隊ヒーローのスーツとは違うけれど、何というか……。


「騎士…?」


「…聖騎士戦隊、なので。」


「名前はちょっとアレだけど、うん…凄いねそれ。」


はえー、と間の抜けた声で頷いていると、青柳が「どうぞ」なんて言ってきた。パソコン手放せば凄くそれっぽいのに残念だ。


「ああ、うん…私か。」


本当に変身なんて出来んのかな、なんて未だに考えながらもしゃがんで足に巻かれているそれに嵌め込んだ。

すると、それっぽい音楽まで流れてきて目を見開く。魔法とかそんなのは信じないけれど、この不思議な感覚。するりと光が巻きついてはいつの間にか服が変わっているのだ。


「す、すごっ!!何これどんな技術よ?!」


女騎士、とでも言えば良いのだろうか。ピンクを基調とした服に身を包み、可愛いらしいベルトまである。一応はスカート…大丈夫かな、スカート。あ、ブーツがかわい…。


「って剣持ってんだけど私?!」


腰にはこれまた西洋風の剣が差してあった。私、銃刀法違反…?!


「それで戦って下さい。」


「さ、刺したら死んじゃうじゃん…?」


「言葉を変えましょうか、それで倒して下さい。」


「大して変わってないでしょうよ…。」


再び剣を見やる。恐る恐る引き抜いてみると、やっぱり本物だ。何だか顔が引きつる。


「技とか出す時に使ったら如何です?大爆発位しか起きませんし。」


「それこそ死ぬだろオイ。」


「人間よりは死なないと思いますよ、さあ、窓ガラス割って下さい。」


淡々とし過ぎだろ、コイツ。

眉を寄せながらも拳を作って窓ガラスにパンチを決めてみた。

がっしゃん、と窓ガラスが割れ思わずぽかんとしてしまった。


「…うわ、本当に割れんのかい。」


「本当はもっと豪快にやって頂くと、良い画になるんですが。」


そんな事言いながら中に入っていく青柳。じゃあお前がやれよ、と思いつつ続いて中に入って行く。


「…何だ貴様等は。」


画面越しに見た姿だ。

ソファに座ったまま此方を見てくるのは目つきの鋭い男だ。スーツに眼鏡、そして七三分け。

典型的な嫌みっぽい上司だ。そうに違いない。


「とっくに解散したのではなかったのか?聖騎士様は。」


嫌みっぽく笑っている。ほらな、やっぱりそう言うキャラでー


「お前は何座ってんだよ!」


青柳がぺたんと地面に座り、パソコンを開いていた。思わずそう叫ぶ。


「聞けよアイツの話…!どちらかと言うとお前が言われてんだからな?」


「一つ言い忘れていましたが、僕は戦闘に参加しません。」


…………。


「すいません、今なんて…」


「僕はバックアップ担当です。戦闘には出ません。」


待て。待つんだ私。

冷静に考えろ、大丈夫だ桃乃三春。

…まさか二人しかいないのにそれは無いだろう。あっちゃいけない。


「お前さ、臨機応変って言葉知ってる?」


「桃乃さん、固定概念を捨てて下さい。…あなたが、戦うんです。」


キーボードを叩きながらそう言われた。え、何これ。

私が悪いみたいな、お前が非協力なだけだよね?


「…茶化しに来たのか?」


はあ、とわざとらしいため息が聞こえたと思った瞬間、私の髪が数本宙を舞った。

全く動けなかった。目を瞬かせながら後ろを振り向くと、氷柱が壁に突き刺さっていた。


まさかとは思うけれど、アレが掠ったわけ?


「…うそでしょ、」


「どうやら新しい人員の様だ。…私の名前はアダム、以後お見知りおきを。」


にこりと笑みを貼り付け、いつの間にか私の前にいた。

思わず後ずさると、何だか愉快そうに口元を歪めている。


「…わ、私は桃乃三春です。あは、は…」


「桃乃さんですか。…今なら命までは取りませんよ?」


顔を近付けられ、嫌なドキドキが止まらない。

に、逃げよう。やっぱり逃げよう。


「お客様の、お金なのに…」


微かな声だった。

か細くて、頼りない声。

消え入りそうなそれは、責任から来ている言葉だろう。

そんな事言われたら、逃げられなくなる。私も、彼奴等とおんなじになる。


「……さっさと出て行って貰えますか。」


「はい?」


「お金置いて、さっさとでてけって言ってんだよ!」


もはややけくそ。

キッと睨みつけ、思い切り突き飛ばした。

思いのほか吹っ飛んだが、眼鏡のブリッジを上げて起き上がる。

に、睨んでる。絶対睨んでる…!


「…体たらくな貴様等でも、骨のあるのがいるじゃないか。」


アダムが手のひらを私に向けてきた。まさかまたあの氷柱じゃあ…。

反射的に身を翻すと、私のいた場所にはざっくりと鋭い氷柱が突き刺さっていた。


「…こ、怖っ!」


「どこにこんな女隠していた?…赤羽根の時は居なかった様に見えるが。」


そう青柳に問いながらも視線は私。何それ怖い。

そしてずっとシカトしてる青柳も怖い。何か返せよ。


「…貴様は何時でもそうだったな、会話すら出来ない様に調教されたか青柳信司。」


その言葉に、微かだが青柳の表情が変わった。


「青柳…?」


「僕は、会話出来ないんじゃない。…お前としないだけだ。」


「…ふ、…負け犬の遠吠えだな。」


パキパキと、あっという間に氷の剣が出来ていく。その刃先はもちろん私。


「桃乃さん、こんな奴と一緒に居てやる義理など無い。」


「あんた達だって、やってる事まるで悪役なんだけど。」


「悪では有りません。力の無い者から搾取してあげているだけですよ。…負け犬が、少しの希望も見ない様に。」


慣れない手つきで剣を引き抜いた。今なら分かる、こんな剣でコイツをぶっ倒すなんてそれこそ奇跡。

その前にこっちが殺されるわ。


「おやおや、立派な剣だ。」


「うっさい!」


見え見えの虚勢を張った。

その瞬間、アダムの頭上がぐらりと揺れた。


「え、」


ーがっしゃん、と大きな音を立てて鉄パイプやらが落ちたのだ。

埃が舞う中、目を凝らしていると、腕輪から声が聞こえた。


「そのまま真っ直ぐ、そうしたら左に回って。3歩半進んだら腰を少し落とす、アイツの腹部に到着です。」


青柳だ。

少し驚きながらも指示通りに歩いていく。前は良く見えないけれど、軽く腰を落として剣の鞘を突き刺してみた。


「っぐ、…?!」


感触。多分目の前にいる。

すぐさましゃがむと、頭上には氷柱が通っていった。

あ、青柳すごくね?!


目の前に見えた高そうな靴。

勢い良く両手で掴むと、バランスを崩したのか「ひっ?!」と言う言葉と共にずっこけた様だ。


何て地味な倒し方。

そう思いながらも膝を立てて四つん這いの様な格好で前にずるずると進む。

煙が晴れて来れば視界も戻ってきた。


「…せ、背中が…」


「背中?」


ばちりと視線が合う。

何というか、私がアダムとやらを押し倒した様な図だ。

アダムくん、ガン見。


「……こ、こんな小娘に…」


近くに転がっていた氷の剣に手を伸ばすのが見えた。

さすがにやばいと思い、私も持っていた鞘を放り投げて腕を掴んだ。


「は、離せ!」


「嫌だ死にたくない!まだ結婚も何もしてないんだから!」


叫ぶ様に言えば、アダムが動きをぴたりと止めた。気になって顔を見やると、だんだんと肌が朱を帯びていた。心なしかピキピキという音が聞こえてくる。なに?


「…な、何だそれは…私の事を殺す気など無いという遠まわしの表現か…?何だ、敵にも情けをかけると……」


ぼそぼそと何かを呟いている。けれどよく聞こえない。

すると片手で私を思い切り押し、立ち上がって叫んだ。


「ロミジュリかあああぁぁ…!!」


パリーンと勢い良く彼の眼鏡が割れた。

ぽかんと見つめていると、アダムが私を見やる。眼鏡のフレームしか残ってない。


「桃乃三春…、あなたは初対面ながら罪深い事をした!…敵ながらに私に刃先を向けず手を取った…、死別などはさせませんよ!」


するとアダムが構成員を連れて帰って行った。間の抜けた表で見ていると、青柳が近くに立っていた。


「…そう言う風に戦うんですね。」


「は?」


「派手でも無いし、大して強くも無い。でも、…嫌いじゃないです。」


差し伸べられた手を見つめ、青柳を見上げた。


「あんたのバックアップも、凄まじかったよ。」


手を取り、立ち上がる。

何だこの茶番。ああでも、悪い気分じゃない。


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