ラストプロローグ 青空を見上げて
悩みました。
《2015年2月26日》
___ この日あった出来事は、どんなに月日が流れようとも色あせずこの命が尽き人生が終わるまで忘れる事は無いでしょう ___
私の名前は【伊藤麗子】国際線航空旅客機の客室乗務員をしています。
私は今日まで生きてきた中で心の底から激しい感情を抱きました。
__ 死に恐怖し __
__ 理不尽に怒り __
__ 生に感謝を __
“過去の私は怖れていました死の恐怖に”
“現在の私は怒っています理不尽な思いに”
“未来の私は感謝している事でしょうこれからも続く生に”
…ですが、たとえ仕方の無い事だったとは言え“あれ”は無いと思います。
…ええ絶対に駄目です。確かに未来に感謝するとは言いましたが現在は怒っているのですから。
理不尽なのは分かっています。ですが、このまま感情を押さえる事が今の私には、どうしても出来ないのですから諦めて下さい。
妥協は…いけませんよねぇ鈴木さん?……何事も…ね。 そうは思いませんか?ねぇ鈴木さん?……女性の微笑みに引きつった様な顔は失礼だと思いますよ? そうでしょう?………ねぇ鈴木さん?
だ、誰か助けてくれ…。
確かに俺が悪かったのは認める。非は俺に有る。 だが仕方なかった!本当に仕方なかったんだ!!あのとき俺に取れる手段は“あれ”以外になく他に方法が無かったんだよっ!!
だから伊藤さん…その“微笑”は、ほんと勘弁してください……。
ハッ!? いる!いるじゃないか!俺を助けられる唯一の人物が!!
藁にも縋る思いで目を向けて見ると、彼の人物は首を左右に振りながらとても憐れみの籠った目で俺を見ていた……絶望した…。
なんか鈴木さんが縋る様な目でコッチを見てきたので、一応礼儀だと思い首を振りつつ生暖かい目で挨拶をしておきました。
それを見た鈴木さんは絶望したような顔をしていた様な気がしましたが……多分気のせいですな!
“触らぬ神に祟り無し”“君子危うきに近寄らず”と言う素晴らしい格言が在ります。今後の人生に於ける座右の銘にでもしておきますか? …今更ですかね?
テロリストは気絶させたあと腕を後ろ手にヨーヨー付き靴紐で縛って仰向けに転がしておいたので、しばらくは起きないはず。 なので鈴木さん達の様子をかんしょ…コホン!見守りながら今後の事を考えていたのが……いけなかった。 何故なら足元でこんな音がしたからだ。
『ピィン!』
反射的に足元のテロリストを見たら目が覚めていて口元にはすんごく見覚えの有る別名“パイナップル”と呼ばれる手榴弾の安全装置…安全ピンがくわえられていましたとさ。…本当にありがたくありません。
直ぐにテロリストの胸ベストにある手榴弾を確認。左胸にある一番頭に近い手榴弾の安全ピンが無いのが見て取れた。
『プッ!』
テロリストは、安全ピンを吹き飛ばしながら自分を見て、笑いやがった。
「くそッ!」
やばいと思い急いで安全ピンが抜かれた手榴弾を取り上げようとしたが、タッチの差で安全レバーを顎で押しやがった!
『カチッ!』
「ちぃッ!!」
『ゴッ!』
「ガァッッ!!」
先を越された瞬間、目標を瞬時に切り替え取り上げようとした右手で顔面を殴り反対の左手で即座に手榴弾を奪い取るや直感的に直ぐそばの給湯室に放り込んでドアを閉めた。
瞬間。
『ドゴォォォォォンッッ!!!』
閉めた直後に手榴弾が爆発してドアごと壁に吹っ飛ぶ羽目に。
「ぐぅぅぅッ!!」
壁に叩きつけられた痛みからうめき声と血が唇から漏れた。
衝撃で体が痛み辛かったが、我慢して立ち上がり周りを見渡すと、鈴木さんと伊藤さんが顔をしかめながら同じように立ち上がる姿が見えた。そして、テロリストが立ち上がる姿も………。
『ピィン!』
テロリストが、再び口で手榴弾のピンを引き抜く音が響き渡った。
テロリストは、またさっきの様に笑い前のめりに倒れようとする。
すると何故だか知らないが瞬間…世界が色あせ全てがスローモーションの様に見えた。
その中で考える。
爆発の衝撃と壁にぶつかった時の衝撃で身体がろくに動かない。さっきと違い距離も少し離れている。今倒れられたら今度は俯せになりさっきの様な処理では間に合わない。
結論、爆発は確定。引き剥がす事も無理。つまり通常の方法では完全に手詰まり。 では、それ以外では?
…参った。たったひとつだけ方法を思い付いてしまった……。
正直やりたくは無い。…だが他に方法が無い。
今の現状は自分のミスだ。 手榴弾を取り上げ忘れた挙句に目を離してしまった自分の……。
脳裡にお父さんに会いに行くと言った舞ちゃんとお母さんの嬉しそうな笑顔が思い浮かぶ。
__死なせたくないなと思った__
視界に鈴木さんと伊藤さんの恐怖に凍る顔が写る。
__助けたいと思う__
目の前にテロリスト野郎の愉悦に歪んだ笑顔がある。
__ムカついた__
そしてこう思う、お前のその忌々しい笑顔を消してやる!…と。
__覚悟が決まった__
そして色あせた世界が元の色彩を取り戻し動き出す。
なんとか動く手は既にドアのロックレバーを操作。
鈴木さんは、自分が何をするか解ったらしい。此方に手を伸ばしている。
微笑みが自然と浮かんだ。
______ドアのロックを解除した______
遠ざかる旅客機を視界に写しながら、走馬灯って本当に見るんだなぁと落ちながら思ったがなんか他人ごとの様に思えた。
満足している……。
(間違いなく)
テロリストの糞ったれな笑顔を消してやった。
後悔はある……。
(もちろん)
叶えたい夢があった。
無念がある……。
(いつまでも)
生きていたかった。
…だが…それでも…青空を見ていると自然と微笑みこう想う…。
……綺麗だな……と。
その日ワシントンの郊外上空で爆発が起こり、それによる轟音が辺り一帯に鳴り響き渡り消えていった…。
一人の男の命と共に……。
なんとかプロローグ終わりました。
次はから転生の準備編です。
多分……ネ。