プロローグ3 飛行機と女の子と苦笑
家族と別れ機上の人となった蒼月真夜です。
飛行機は無事に離陸し今ちょうど水平飛行に移行したところで、ようやく窮屈なシートベルトから解放された。
久しぶりに乗る飛行機の緊張感に全身の筋肉が妙に強ばったので、それを解すため頭上へと両腕を突き上げ軽く背伸びをしていたら隣席に座る6歳くらいのセミロングの黒髪に赤いカチューシャをした女の子と首のコリをほぐす為にひねった瞬間目があってしまいお互いに凝視し合う事に。女の子はバツが悪かったのかすぐさま目をそらしたんだが気分が悪いのか少し俯き気味に顔をしかめていた。
確か飛行機が離陸した前後は飛行機に乗るのが初めてだったらしく物凄くはしゃいでいたはずなのだが…。 見た感じと状態から察するに、おそらく飛行機の上昇する浮遊感による乗り物酔いだろうと予測がついたため急ぎ自分の手持ちバックの中から酔い止めの薬を出し丁度目の前を通りかかったスチュワーデスさんをこれ幸いと呼び止めて水を持ってきてもらい女の子のお母さんに差し出しつつ話しかけた。
「あの…もし良かったらこの酔い止めの薬をどうぞ使ってください」
初めはいきなり話し掛けてきた自分に対しちょっと躊躇う素振りを見せたんだが、娘の苦しむ姿に踏ん切りが着いたらしく「ありがとうございます。ご厚意に甘えさせていただきます」と言って薬を受け取ってくれた。
女の子は薬を飲んで少し経つとだいぶ気分が良くなったらしく顔色も良くなりその分周りを見る余裕ができた様で飛行機の窓の外を母親と一緒に楽しそうに笑いながら見ていた。
笑顔が戻って来てなによりだ。その後、酔い止めが完全に効いて復調し元気になった女の子から、
「お兄ちゃん。お薬どうもありがとう!」
と笑顔でお礼を言われたので、こちらも「どういたしまして」と笑顔で返事を返す事に。
うむうむ、やはり備えあれば憂い無しだな。良きかな良きかな。と心の中で自画自賛していたのだが、女の子が周りを見るのに飽きて暇そうにしていたので少し話しかけてみる事にした。
とりあえず定番通りに「お母さんと旅行に行くのかな?」と聴くと女の子は首を振りながら嬉しそうにこう語ったんだが…その内容により表情筋が痙攣をおこす羽目になろうとは思いもしなかったな。
「えっとね~たんしんふにん?っていうお仕事で、いまからマイたちがいくアメリカってとこにいっちゃったパパが、ママやマイに会えなくてパパさびしくてしんじゃう病?にかかったってお電話あったからマイ!ママといっしょにいそいで会いにいくの!!」
マイちゃんのその本当に嬉しそうな回答に内心、
『パパぇぇぇぇぇ………』
と、心の中で突っ込んだのは…仕方がないと思う。
隣でニコニコ聞いていたお母さんの方も恥ずかしそうに苦笑いしていたからなおさら気にし無いでおこう。
うん、そうしよう。これぐらいの年頃の娘をもつパパさんには…あるよね?そんな事!と己れの心の民事裁判所で熱い弁護をしつつ無罪を主張していたのだが………不意につい自分の父がマイちゃんのお父さんのセリフを言う姿を想像してしまった為に「ブホォッ!!」と吹いてしまった自分は…悪くないと思いたい。
それからしばらくはそのままマイちゃんとたわいない話しをしていたんだが、時差調整の為の睡眠時間が来たと機内アナウンスでの放送があったので、隣のマイちゃんとお母さんに「お先に眠りますね。マイちゃん、おやすみなさい」と挨拶するとマイちゃんも「お兄ちゃん、おやすみなさ~い」と返事を返してくれたので、笑顔と頷きでもってそれに返答すると座席シートのレバーを操作して背もたれを少し後ろに傾けると目をつむりそのまま眠りについたのであった。
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