準備中よっつめ 来訪と家族と伝える思い
大変遅くなりました。
《2015年2月27日16:00 日本・東京》
『ピンポーン』
冬の寒さがまだ明けきらない冬空の下、呼び鈴のカン高い音が簡素な住宅街に響き渡る。自分の手により鳴らされたベルに反応し目当ての住宅の中から軽い足音が聞こえてきた。 その音を聞きながら待つこときっかり五秒、「はーい。どちら様?」という女性の声と共に玄関のドアが開く。
「こんにちわ。こちら蒼月さんの御宅でしょうか?」
「はいそうですが、どちら様ですか?」
「初めまして。私、鈴木一郎と申します」
「伊藤麗子と申します」
俺と伊藤さんは同時に頭を下げながらドアを開けて出てきた四十代前後と思われる女性に対し名前を告げると共に挨拶を交わす。
挨拶が済んだ所で、俺達は女性に訪問の目的を語った。
女性は、それを聞くと「まあ!あなた方が鈴木さんと伊藤さんですか!ようこそお待ちしておりました!」と言いながら俺達を家の中へ招き入れてくれる事に。
まさか待っていたなど露程も思ってもいなかった俺は、唖然とした顔を晒すのだが…伊藤さんの呼び声に我を取り戻し女性の後に続いて玄関を潜った。
女性に案内されて畳の客間に通された俺達は、女性の「ちょっとお待ちくださいね。主人達を呼んで来ますので」と声をかけられ座って待つように言われたのでその言葉に従い座る。
座って待つ事3分弱。あれからすぐに戻ってきた女性が入れてくれたお茶をいただいていたが、足音が三つほど聞こえ奥の方から40代後半の男性と20代前後の男女が姿を現したので、俺達はすぐさま立ち上がり挨拶をすると「座って下さい」と促されたので、その場にいた全員共ども畳の上に座りなおした。
まず40代男性が自己紹介を始める。
「蒼月総夜です」
40代男性改め蒼月さんは、最初に出迎えてくれた女性を指さして「そっちが妻の真弓」と紹介。名指しで紹介された女性(真弓さん)は軽く頭を下げて挨拶をしてくれ、続いて20代の男女をまとめて指し「そして、息子の順夜と真理です」と言って紹介を終わらせた。
順夜と呼ばれた青年は少しぶっきらぼうに頭を下げ挨拶をし、その後に真理と呼ばれた若い女性も同様に軽く頭を下げて挨拶を返す。
「それで、あなた方は?」
「申し遅れました。私は、警視庁 警部補の鈴木一郎と申します。こちらの女性は、日本航空スチュワーデスの「伊藤 麗子です」。
俺達は、自分達の役職と氏名を名乗りながら二人揃って頭を下げた。
「それで、御用件は?」
俺は、その問いかけに一瞬息を飲み吐き出した後、覚悟を決めて話し始める。
「貴方の御子息の蒼月真夜さんの件でお話ししなければならない事があり、お邪魔させていただきました」
俺はそう始めに告げると、ハイジャックされたあの日なにがあったのかを自分の主観を主軸に伊藤さんの話しを織り交ぜつつ全てを語った。
全てを語り終え少しの間、場を静寂が支配していたが、蒼月さんがこう話し始めた。
「息子以外の当事者から話を聞くと…やはり本当に息子は死んだのだと実感がようやく持てました」
俺は、その言葉の中に違和感を感じこう問いかけた。
「息子さん以外ですか?」
「ええ」
「聞いた感じだと、まるで直接本人に聞かれた様な言い方ですが……」
俺の疑問に驚きの答えが返ってきた。
「その通りです。既に話は息子の真夜から聞いていました」
その言葉に俺と伊藤さんが、まさか!と言う表情をするのを見て、蒼月さんは何があったのかを静かに語り始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
夢を見ていた。たぶん15年くらい前の…。目の前に妻と一緒に12歳くらいの息子の真夜と5歳ほどの順夜と真理が海水浴場の砂浜で元気に遊び回っていたからだ。
懐かしい光景だった。
真夜が成人してからは家族であまり旅行にも行かなくなっていたし行っても妻と二人で…と言うのが多くなっていたのでより懐かしく感じる。
その懐かしい光景に目を細めていると、真夜が私にむかって駆け寄ってきた。
「父さん一緒に泳がないの?」
「ん〜ちょっと眠くてなぁ…ははは……歳かな?」
息子は呆れた様に「それって爺くさいよ?」と言ってきて私のガラスの心臓を直撃した。
あんまりなんで抗議の視線を向けると、肩をすくめて「仕方ないな〜」なんて息子の呆れたセリフを右から左に聞き流し「お前にもいつか分かる」とグチに近い言い訳をしていたが、真夜は「やれやれ」と首を振って呆れていた。
しばらく一緒になって妻と順夜達を眺めていたが、不意に真夜が、こう話し始めた。
「父さん…この光景懐かしいね……」
基本、夢の一部である真夜のセリフに違和感を感じた私は「何故懐かしいんだい?」と聞いてみた。
すると「…この夢15年くらい前の光景だろ?」と答えが返ってきて驚いた。たとえ夢でも私の夢の真夜がこんな事を言うとは思ってもみなかったからだ。
「俺もよく覚えているからとっても懐かしいよ……」
息子のそのセリフにますます違和感を感じた私は、こう問いかけた。
「今の真夜は、私の夢なんだろう?」……と。
「あぁ…確かに夢なんだけど夢じゃ無いんだ……」
そう言った瞬間目の前にいた12歳の真夜は27歳の真夜に姿が変わった。
驚く私の様子に真夜は、肩を竦めながら話し始める。
「父さん。…実はさ、俺…さっき死んだんだ」
そのセリフに私は絶句した。まさか夢の中で息子自身の口から“死んだ”などと聞くとは夢にも思っていなかったからだ。
絶句する私に、真夜は「まあ、普通驚くよな……」と言いながら後ろ頭を掻きながら困った様な顔をして苦笑いを浮かべる。
「……夢の話か?」
おそるおそる聞くと、真夜は首を振ってこう答えた。
「いや。現実の話だよ。信じられ無いのは分かるけど…本当の事だ」
真剣な目で私を見る真夜の目に嘘は一切感じられず、普通なら信じようもない内容が真実味を帯びる。まさかそんな馬鹿な…と思いはするが、いま私の目の前にいる息子が自身の記憶が作り出した虚像とは…どうしても思えなかった。
「……本当なのか……」
「間違いなく本当だよ……」
私の呟きに真夜は、そう答えた。
「……全て話せ」
私のその言葉に真夜は頷き最後に空港で別れてからの事を順序立てて語る。
全てを聞き終えた私は、真夜から顔を隠す様に片手で覆い項垂れた。
「父さん……」
「……お前をアメリカに行かせたのは、間違いだったのか?」
そう吐露する私に対し真夜は首を振りつつこう答えた。
「それは無いよ父さん…。行ったのは自分の意思だし事件に首を突っ込んだのもそう。何より、あのままなにもしなくても多分旅客機ごともっと大勢の人達と一緒に死んでいたはずだ。 よしんば後悔するとすれば、テロリストを捕縛した後油断なく対処しておけば何の問題も無かった自身の詰めの甘さだよ。それ以外の後悔は一切ない。それにあんな時なにもしない様な人間に育てられた覚えも無いしね。父さん達に!!」
真夜の目に強い意思を感じ取り私は、深いため息を吐き出した。
「…お前、最後だけ責任転嫁してないか?」
「あはは…なんの事かな?…一切記憶にございません」
息子のひょうひょうとした態度に再度ため息をついた。
「まったく。……死んでも変わらんなお前のそんな所は。育て方間違ったかな?」
「あぁ~?何言ってんの?!自分だって似たような性格のくせに。それに爺ちゃん婆ちゃん叔母ちゃん連中に聞いたよ父さんの若い頃のむか~し話の武勇伝(笑)の数々を!!」
「……ぉぃ。何処まで聞いた?父さん怒らないから言ってみ?なぁ言ってみ?」
「えぇぇと…父さんの初恋話や母さんと出会う前の父さんの女性遍歴…とか?」
…頬と胃がひきつるのを感じた。
「まさか!……かっ!かっ!母さんに言ってないよな?!そんな訳あるわけないよな?!な?!な?!」
真夜は、明後日の方向を向きながらこう言った。
「……俺……この後母さんに会う予定なんだ………チラッ」
おいーーッ息子ーーーッおまッ何言ってんのーーーッ私を殺す気か?!!しかもチラッて。
ハッ!まさかコイツ最後の最後に母さんに暴露する気か!?
「……要求はなんだ」
「なに言ってんの?父さん?」
いけしゃあしゃあと、すました顔で言いやがって目が笑ってんだよ!
「……父さんに言ってみろ。今なら父さん頑張っちゃうから。なんでも言ってみろ?な!」
「えぇいいの?マジで!いゃ〜悪いよ父さん…本当に?」
「もちろんだとも! 可愛い(笑)息子のためだ。ハハハッ……。だから母さんに会う時くれぐれも“よろしく”言っといてくれよ?」
「もちろんだよ!」
くッ!最後の最後にやってくれる! 一体誰に似たんだか。ハァ……。
私が、ため息をついていると、真剣な顔をした真夜が話しかけてきた。
「なら……先立つ親不孝を許して欲しい……」
…先程のフリは、この為だったか…まったく素直じゃない……。
「……わかった」
私が頷くと真夜は「ありがとう。父さん」と微笑んでいた。
その後、色々と話し合った。驚いた事に来世が本当にあると言うのも聞いた。そして真夜は、ある言葉を残し去っていった。
夢から覚めたら隣で寝ていた妻もおきた所で、更に部屋のドアを開けて順夜と真理が飛び込んできた。
「お父さん!お母さん!お兄ちゃんが!!」
その真理の言葉に全てを悟った私達は、お互いに夢であった事を話し合い、全て本当だと確信した後、抱きしめ合って涙した………………。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「以上が息子から聞いた話しです」(むろん私に不都合な事は省いてだが……)
話しを終えた私に、鈴木君はこう切り出してきた。
「信じ難い話しですが、……実は私も同じような夢を見ました」
それに続く様に、伊藤と名乗った女性も自分も見たと、証言した。
それを聞いた鈴木君は、驚いていたが。
まぁ息子の事だから、わざわざ誰れ誰れに教えた、など言わないだろうから不思議ではない。
まったくイイ性格している。そう言うのは、死んでも変わらんな…。
「鈴木君。私達は、君の事を恨んではいない。むしろ感謝している。わざわざ息子の最後を聴かせに来てくれたのだから」
「ですが!私が!!」
私は、目に悲痛な感情を宿した鈴木君にこう言った。
「君の言い分は解る。だが、息子は自分の意思で君に協力した。…多分息子は、君に私と同じ事を言ったと思う。……違うかね?」
私の言葉に、考え込む鈴木君だったが、やがて諦めた様に苦笑して「そのとおりです……参りました。さすが親子ですね言い方までそっくりですよ……」
私もそれには、苦笑を返した。
「鈴木君。君達は、息子から伝言を預かっているだろう?答え合わせをしないか?」
私は、そう言うと、この場にいる全員の顔を確認して、こう言葉をつむぎだした。
「地に還らず」
「「「「「空に還った」」」」」
「「「「「「蒼き月の真なる夜より」」」」」」
最後は、全員で読み上げその後は、息子の“らしい”セリフに誰となく笑いがおこり爆笑した。
その後、鈴木君と伊藤さんは、来た時よりも目に生気を宿し帰っていった。
見送る中、私は家族全員に微笑みながら「真夜ならどこに行っても大丈夫だな」、と言ったら真弓も「あの子ならね」、順夜も「兄貴だからな」、真理も「お兄ちゃんだしね~」と異口同音に賛同の声を上げながら笑っていた。
真夜……私達は大丈夫だ。……死人に言うセリフじゃないが……、お前はお前らしくいままで通り元気に過ごせ……。
……ただもう少し、そのイイ性格何とかしろ!と、父さんは思うけどな!!
すいません。
家族視点をどうするか?で悩みました。
色々試しましたが、父さん視点がシックリきたのでこうなりました。
今後も遅いと思いますがよろしくお願いします。




