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加奈―3

西尾維新先生と成田良悟先生の文体に影響されています。

お薦めの文庫は『クローズド・ノート』です。確か、映画にもなったと思います。読んでみてください。

 お昼を過ぎて学校では午後の授業に差し掛かる時間になった。

 俺と加奈は今だに靴飛ばしをやっていて、俺としては最初の五回で飽きていた。

 加奈の実力は本物で、ローファーを履いている加奈はスニーカーを履いている俺よりも一メートルだけ遠くに飛ばしてあたかも接戦状態を維持させるという超能力めいた特技を発揮して俺と競いあっていた。――否、所詮遊ばれていたのだ。

 それに気づいたことによって俺は靴飛ばしという熱く盛り上がれたかもしれない遊びに嫌気が差したのだ。

「そろそろ終わりだな」

 俺はブランコの勢いを借りたことによって飛ばした靴を取りにきたときに呟いた。

 昔からそうだった。

 俺は気持ちの浮き沈みが激しく、夢中になってきたやったことと、その場で放り投げることを繰り返してきたため、親友と呼べる友達も出来ずに自堕落な生活を学生でありながら、過ごしてきた。

 それなのに加奈は俺に話しかけてくれた。最初は嬉しかった。共通の話題で盛り上がり、別の話題で加奈の趣味や特技を知って俺は加奈を日が経つにつれて好きになっていった――。

「竜一、行くよ!」

 ブランコの方から加奈の声が聞こえてきた。十分に漕いだのだろう。俺が返事をすれば、加奈の靴が俺より一メートルだけ遠くに落ちるはずだ。

 意図的に飛ばしているのだから加奈にとっての気遣いのつもりか? 

「おう、いいぜ」

 気のない返事で答えると加奈の靴が綺麗な弧を描いて俺の側に落ちる。

 説明するまでもない。

「竜一、どう?」

 片足で跳ねながら靴を取りにきた。

「また加奈の勝ちだよ」

「やったー! 十対零で加奈の勝ちだね」

 全身で喜びを表現する加奈を見ていると何故か微笑ましい。

 先程の会話で何かが吹っ切れたのかも知れない。

 俺はそんな加奈の手をいきなり掴んだ。意図的ではなく、無意識化での行動だったので俺も少し慌てた。

 それに加奈も面を喰らって顔を紅潮させ、掴んだ手と俺の顔を交互に視線を移し、口を細かく震わせている。

「り、竜一!?」

「え? あ、その、ゴメン」

 瞬時に手をふりほどくも加奈の柔らかい肌の感触と温かみが掌に残り、偽者といえど、加奈であり、少女であることを認識する。

 昨日までの疲れきった疲労が吹き飛んでいってしまったように感じて俺の心に新鮮な風が舞い込んだみたいだった。

「加奈、学校どうする?」


 何言ってんだ! 俺! このままの生活を楽しめばいいのに。学校なんて将来の就職にしかプラスにならない。俺はそんな長生き出来ると思ってんのか? 『加奈』を追い詰めて、小学生で引きこもり、中学生で疎まれて、高校生で変わると思っていた俺の何かが変わったっていうのか?

 言ったのは心の中で自分を抑え込む、今の生活に満足している自分。つまり悪魔だ。


 何言ってんだ! 俺は今、分岐点に達してんだよ! 『加奈』のことを重く受け取りすぎて、今にも崩れそうだったタワーを必死に偽者の加奈が支えてくれているんだろうがっ! 偽者の加奈と歩んで行けば、小さな希望を掴めるってもんよ。

 此方は加奈が接してくれた数時間で自分が少しだけ前向きになったことを実感してポジティブに歩もうとする天使。


 どちらの自分の言葉さえ、見当がつかない。

 加奈は「竜一と一緒なら何処へでも着いていく」と気持ち悪いくらいのデレデレ状態なので竜一が決断するほかない。

 一度加奈に視線を送ってみた。加奈は握られた手を胸の前に持っていき、反対の手でそれを覆っている。仄かに幸せを振り撒いているのは何故だろう。俺の汚ない手が触れただけなのに……。

「決断は苦手だ」

 決断は最後まで責任を取らなきゃいけない。俺みたいな青二才が『加奈』の責任が取れなかったように。いや、『加奈』は責任を取っても許さないはず。誰かの後ろを金魚のフンのように付いてまわり、後ろ指を指されながら生きていく方が余程俺らしい。

 学校には事実を知る仮の友達が五万といる。本当にそんなにいたら、ある意味俺の生きていける場所はないが、現在の友達は隣にいる加奈一人だけで唯一無二だ。今も昔も名乗る女の子は違えど、加奈と名乗っている。

 でも思うことがある。

 俺は加奈に対して、またも同じ失敗を繰り返すのではないか、という悪夢に際悩まされていることだ。

 つい数時間前に夢見た加奈と連呼される夢だって例え、免罪符に駆られたって『加奈』は許すまい。偽者の加奈はどうにも思っていないみたいだが。いずれ第二第三の加奈が俺の元にやって来るに違いない。

 さて、話を戻して昨日まで普通に重い足取りだったが、行けたのだ。多分明日も休むだろう。言い訳を加奈に押し付けて、加奈も俺の側にいると言い訳して。

 負のスパイラルが心底で蟻地獄のように一生出られずに力尽きてしまうのだろう。――そして尽きてしまう、その時こそが、運命なのだ。

 自分の中にいる悪魔と天使の両方に言えることは唯一、加奈が側にいるということだけだ。

 学校に行けば、加奈まで揶揄され、先程思った過ちが繰り返されるに決まっている。

「ぅうわぁぁぁあああぁあああぁあ!」

 絶叫。

 腹から声を出せと言われた音楽祭の比でもないくらいに、はち切れんばかりに喉を震わせ、失語症にでもなってしまうのでは、と思うほど息苦しく、切なく、哀れな自分が体現しているはずである。

 しかし涙は出ない。渇れている。雨が降る以前に渇れている。腐った植物に水を上げる人はいない。寧ろ栄養分を取ってしまうから引き抜いてしまう。昔『加奈』と楽しく遊んでいたときに習っていた国語では腐った大木は土に返るという授業をしたが、俺は残念ながら人間で、被害を出す最低な人間だ。それの最初の被害者が『加奈』なのだから悔いても悔やみきれない。

 だから隣の加奈が発狂した俺を心配しても出来る限り、飛び火を移したくない。

 言っていることが矛盾しているからこそ俺であって竜一なのだから、間違えてはない。

 グルグル脳裏で再生されるありふれた日常の中で『加奈』に美しく惹かれる故に残酷に轢かれた。

 赤い血が道路に点々と『加奈』を追っていき、辿り着く頃には辺りは騒然とし、受け入れられない現実だけが残った。

「――竜一、大丈夫?」

 頭を必死に抑えて肩で粗く息をする自分はどうして生きているんだろうと、妬ましく思う。

 可笑しい。狂っている。捻れている。愚かだ。愛だ。恨みだ。地獄だ。そして後悔。

「竜一、どうしたの? 可笑しいよ。『加奈』が悪いの?」

 俺はピタッと動きを止めて狂っていた頭は隅々まで加奈のおかげで冴え渡った。

「りゅ、う……いち?」

 今にも泣きそうな潤んだ瞳をしている。

 哀れだった。愚かだった。

「泣いてるのか? 加奈」

 目じりに大きなしずくを蓄えている加奈を俺は見ていられない。加奈の涙をハンカチで優しく拭いてやり、自分がしてはいけない行為をした。

 ――抱き寄せたのだ。

「竜一、泣いてるの?」

「それは加奈だろう!」

 耳許で囁いた加奈の言葉を俺は否定した。

 グズグズと鼻声の俺を差し置いて加奈は俺よりも大きく抱いた。加奈の左手は背中に持っていかれ、右手は優しく後頭部を撫でている。

「竜一は頑張ったんだよ」

 聖人君子のように加奈は天使以上の存在だ。これは誰が否定しようと俺は加奈を…………たい。

「俺は逃げてんだよ。『加奈』からも現実からも」

 もう懺悔に近かった。今なら受け止めてくれそうな気がした。家族も学校も俺の見る眼を変えて、態度を変えた。

『加奈』はかっこ良かったし、綺麗だったし、美しかったし、可愛かったし、爽やかだったし、皆が好きだったし、何より、バカだった。運命だった。

「竜一が辛いと思って加奈が来たんだから、竜一はもう自分を責めなくても大丈夫」

「俺は『加奈』を……駄目だ。俺は『加奈』から逃げちゃ駄目なんだよ! 加奈が居ても、皆が加奈でも空想でも。俺がいる限りは、俺が原因なんだから――」

 バチン、と乾いた音が公園内に響いた。続いて俺の頬が熱を帯び、ヒリヒリと痛覚が増してくる。

 加奈が俺を引っ張ったいたのだ。

 加奈は今度こそ大量に大粒の涙を流して俺のかわりに泣いた。

 大きな声で喚いて、綺麗な顔を歪めて、鼻を赤くしている。

 刹那、俺の頭は空白が大半を支配した。幾ら俺が否定的な言葉を並べようと、お弁当を不味いと行動で表現しても加奈は微笑んで俺の側にいたのに。

 何でも言うことを訊くと思っていた。エッチでも万引きでも殺人でも俺の変わりをやれって言っても、やりそうな加奈が俺を拒否した。

「加奈?」

 やはり俺は加奈の手を掴みたかったのに俺は自分で掴まなかった。

 後悔が後に残り、後悔しか残らなかった。

 俺が加奈を捨てたのだ。加奈はそれを受け入れただけ。だから泣いた。

「……加奈」

「竜一、お弁当美味しかった?」

 え?

「早く答えて」

「…………」

「竜一、『私』じゃ駄目なの?」

「『私』ってなんだよ。加奈だろ?」

「竜一、自分を責めないで」

「それは……」

「竜一、大好きだよ」

「加奈はそれは俺もだよ」

「言ってみて。大好きって」

「『加奈』が大好き」

「……そうだよね。竜一は『加奈』……だよね。解ってる。偽者はさよならだね」

「何言ってんだよ。加奈でもいい。偽者でも。俺の側にいてくれよ」

「誰も本物の変わりなんて出来ないんだよ」

「なんだよそれ」

「竜一が教えてくれたんじゃない。加奈は『私』に戻るよ」

「加奈が戻ったら俺はどうなるんだ?」

「加奈は加奈の、『私』は『私』の道を歩いていく。だから竜一は竜一のずっと先が見えない迷路を進んで」

「俺は加奈じゃなくてもいい君でも一緒に居てくれれば、それで幸せ……だから」

「なら迷路を抜ければ、いいだけだね」

「加奈、大好きだよ」

 友達として。

「嘘つき」

「嘘つき?」

「竜一は嘘つき」

「止めてくれよ、加奈」

「止めるよ。『加奈』に成りきるなんて」

「そこに戻るんだ」

「じゃあ終わらせよう。竜一のためだもんね。『私』に戻る最後の加奈として動いてあげる」

 来てと言って俺の手を公園の入り口まで引っ張って行く。

「加奈、何するの?」

 大して大きくない公園はすぐに入り口まで着いてしまう。そして加奈は止まり、手を振りほどいた。

 焦燥感に狩られるが加奈は俺の意思とは真逆に行動して、いても立ってもいられない。

 加奈はどうする気なんだ? 最後の加奈としてとは? 偽者が本物になるとでも言うのか? 『加奈』は『加奈』だと自分でつい先程言ったばかりではないか。俺に対して興味を注いでいるが、加奈はそんなに束縛がしたいのだろうか、と思ったその時――、

 時間が止まった。

 背景が真っ白に塗られて、建物や空、地面さえも真っ白で宇宙空間を白くしたみたいだ。自分がまっすぐ立っているのも不思議と思える世界だ。

 その中に俺――竜一は居た。

 他には朧気に人影が一つだけ見えるだけ。

「『加奈』! 俺だよ! 竜一」

 何故かボヤけているのに『加奈』だと確信して走った。

 距離はかなり遠いようで幾ら走っても辿り着かない。

 汗だくになってきて、学校と家を往復するばかりの生活を送っていた俺はすぐ膝に手を置いて、立ち止まり、肩で息をする。

 それでも『加奈』を見失って閉まったら、加奈のいう迷路に永遠と閉じ込められそうだ。

「『加奈』ぁぁぁあああぁあああ!」

『加奈』の側に居たくて、必死に腕を伸ばした。どうしてこんなに『加奈』のことになると俺は全力なんだろう。やっぱり好きだからだろうか? 恋愛に関して不慣れな俺でもこんなに思うことが出来るんだ。それは『加奈』にだから出来る行為。

 すると『加奈』に想いが届いたのか、振り返った。

 弧を描いた黒髪が乱れ、表情の確認が一瞬遅れたが、そこにいるのは『加奈』にほかならない。

 しかし『加奈』は俺に微笑み、何処か遠くへ行ってしまう。

 俺は全力よりも必死で、高速よりも速く脚を動かすが、それでも『加奈』に追い付かない。

 次第に『加奈』は姿を薄く消していく。

「『加奈』! 待って!」

 俺の前から消えてしまう。俺が俺で無くなってしまう。俺は誰を想って腐った世界を生きていけばいいんだ?

 そして消えた。

 真っ白な世界も終わりを告げて、もと居た公園の入り口に脚をついた。


「竜一、観てて」

「え? 加奈」

 項垂れていたのを必死に上げて、加奈の声が聞こえた方へ意識を向ける。

 ちょうど目の前で立ち竦んでいる。

 そして聞こえてくるトラックのエンジン音。俺にとっての悪夢が繰り返されようとしている。

「加奈!! 早く此方来い!! 死ぬぞ、馬鹿!」

 車道の真ん中に立っている加奈をトラックは法定速度を越えて運転している。

「加奈!! 止めてくれ!! 繰り返そうって言うのか!? 頼むから止めてくれ!! 俺を苦しめないでくれ! 加奈ぁあああ!」

 加奈は動こうとしない。

 本当に死ぬ気なのか? あの事件で俺はどれだけ苦しんでいると思っている。絶望しか抱いてないんだぞ!

 俺の脚は何で立たない。加奈が動けないなら、俺が加奈を迎えに行けばいい話じゃないか? それを待っているかも知れない。加奈は俺が一歩を踏み出すのを待っているかも……。

「どれだけクソ野郎なんだ俺は! 動けよ。加奈のところに行けよ! 目の前じゃないか。三メートルもないんだぞ? トラックに引かれちまう」

 そこで加奈からトラックに視線を移した。フロントガラスから覗ける運転手はやはり『加奈』を轢いた本人で前回と同様居眠り運転をしている。

 俺は公園の入り口から脚がすくんで一歩も動けない。立ってすらいられない。現に手すりに捕まってようやく立っているのだから。

「加奈! 俺には無理だよ、ゴメン」

 涙が視界を歪めて加奈の姿を曖昧にさせる。加奈とトラックはあと二秒で事故を起こす距離にまで迫って、結局俺は動けない――否、動かなかった。

 最後に加奈は俺の方に顔を向けて言った。

「竜一は『私』を助けないこと、知っていたよ。だって…………りゅういち、だもん」


 ブォオオオオオオオ。


 綺麗な女の子がトラックに跳ねられて、儚い命を投げ出した。その時散った鮮血は美しかった。


 俺は公園の安全な特別席で偽者の加奈の死に様を見せつけられた。

 皮肉にも『加奈』と同様の死を演出して俺を殺した。抹消した。


「加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ。加奈が死んだ」



                終わり。



取り敢えず、終了させます。

作者としては実力が足りなくて行っては行けない方向に行ってしまったことに反省しております。

最初の設定では子供の頃に道路に飛び出した主人公(竜一)がトラックに轢かれそうになったところを『加奈』が助けて逆に轢かれてしまう。という悲劇を過去話に置いて、高校生になった主人公(竜一)が加奈の病院に見舞いにいくというストーリーでした。

全然違っていて、文才もなくて、やる気もあまり……。とは言え、無理矢理続けようと思えば続けられます。予定ではあと三人の加奈を登場させる予定でしたから。

それとタグが違いましたスミマセン。


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