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第一話/悩める優希

 最近、優希は授業に集中できずに、いつも空ばかり見つめている。というのも、優希の親友、一之瀬 優斗にある噂話を聞かされた為である。

 その噂話とは、この高等学校に転校するであろう、おおかみ少女というあだ名を持つ女子生徒の話だった。

 その少女には沢山の噂があった。教員闇討ち、恐喝、喧嘩………。どれも、噂話を着色したような話で、信じる人なんていないと思えてしまう。

 もちろん優希はそんな話を信じてはいないし信じる気もない。しかし、今日も授業に身が入らない。

 噂が気になっているというわけではない。優希はその、少女が持つ“おおかみ少女”という名の事がずっと気になっているのだ。

 あだ名、通り名などはその物の性質をイメージさせる。

 優斗に聞いた話だと、嘘をつき続けたからついたあだ名らしいのだが、本当にそうなのだろうか。

 無論、優希もおかみ少女という名を聞かされた時、嘘をイメージした。と同時に、ある違和を覚えていた。

 ただ、嘘を言ったから付いた名だとは思えなかったのだ。もっと違う何かがそこにあるはずあるはずなのだ。

 その名には何かがある。その名には何かが隠されている。だけど、その何かが分からない。

 知りたい。その何かを知りたい。

 優希はその名に感じた違和感が気になり、ずっと考え込んでいるのだ。

 

 

 ……キーンコーンカーンコーン……

 

 

 6時限目の授業が終わり、騒がしくなる教室。生徒たちは他愛の無い話をして盛り上がっている。

 優希はそんな中、教科書をロッカーに片付け、帰りの身支度を始めていた。使った文房具をペンケースにしまい、鞄に詰める。

 あとは、帰りを待つだけ、と椅子に座り、静かに目を閉じた。そして、また、無意識のうちにおおかみ少女の事を考えていた。

 そんな優希にトテトテと近づく一人の生徒がいた。

「おーい!ゆーうーきー?」

 無邪気な声で話しかけたのは優希の親友の優斗だった。

「……」

「無視しないでぇー」

 顔の前で手を振ったり、変な顔で見つめたり、優希の意識を自分に向けようと優斗は試行錯誤していた。

「おーい!? ゆうきぃ!?」

「……」

 それでも、何も、反応がなく、優希は固まっていた。

 目が虚ろだよ!? 大丈夫なのぉ!? わーん? ゆうきー! ボロボロボロ…………。

 考え事を始めた優希の目は遠くを見つめていて、虚ろだった。声をかけても耳元で叫んでも返事はなく、背筋を伸ばしたまま動かない。それはまるで屍の如く。

 声をかけても返事がない事がよほどショックだったのか、ビルが崩れるかのようにしゃがみ込み、優斗は大声で泣き出してしまった。

 その泣き声は教室いっぱいに鳴り響き、教室にいた全員が大声の主に視線をはこんだ。

 目の前で泣き叫ばれてしまっては、虚ろな瞳で遠くを見つめていた優希も流石に一人で考え込んでもいられなくなったので、

「元気出せ、いい年して泣くなよ……高校生だろ?」

 泣き崩れる優斗を慰めることにした。わんわんと泣きわめく優斗の肩をかるく、ポンポンっと叩いた。…………本当に、大丈夫なのだろうか? いろんな意味で。

 しばらくの間、そんなやり取りが続き、クラスの生徒たちも「なんだなんだ」と集い出した矢先、

「あ、優希が遠くの世界から帰ってきた~」

 勢いよく顔をあげ、優斗が遠くの世界から戻っている事を確認した途端に立ち上がり、優斗は爽やかスマイル満開で笑いだし、ポーズをとった。……立ち直りが早い!? 泣きまね?

「えぇーーーっ!?」優斗の切り替えの早さと、意外性には、集まった生徒たちも驚きを隠せなかった。

「んー? どうしたの? ハイエナみたいに群がって…………ぼくたちは見世物じゃないんだぁ! 解散!! ほら、散った散ったぁ~っ!!!」

 大きく腕を振って集まった生徒を追い返す。追い返された生徒たちは皆状況が飲み込めていないようだ。

 しっしと手を振りながら優斗はとても楽しそうに笑っている。

「どうしたんだろ? みんな集まって? 何か事件でもおきたのかなぁ?」

 のん気に首を傾げて、皆が散り散りなるのを眺めて笑ってる優斗に、ただ、唖然と優希はつっこみを入れてやるべきか否か分からずにいた。

 いかんいかんと首を振り、優希はこのよく分からん茶番から話を戻そうと次の手を打つことにした。

「……えーと、何か用事があるからここにきたんだろう?」

 突然、優斗は振り返り、机に体重をかけて身を乗り出し、心配そうに尋ねてきた。

「なんかさぁ、最近ぼぉーっとしてない? なんかあったの? 何か悩み事ぉ?相談にのるよ?」

「……そんなに、悩んでいるように見えるか?」

「うん、最近ずっ~と、事あるごとにぼぉ~と、考え込んでるよ。……もしかして、気づいてなかった?」

「……そうなのか? あまり意識はしてなかったんだけどな……」

 そう言うと、照れを隠すように顔を背け、遠くの空を見つめ、優希は乾いた唇を噛む。

「それって、ぼくが話した“おおかみ少女”のことかね?」

「……そうだよ。お前から聞かされた話の事を考えてた」

 相変わらず勘がいい奴だ……いや、誰が見てもわかってしまうくらいに考え込んでいたのかもしれないな。

「それにしても、優希をここまで悩ますなんて……すごい奴だぜおおかみ少女ぉ! 謎多し少女の素顔はいったい……」

 何か押してはいけないスイッチが入ってしまったようで、妙なテンションで踊りだす優斗。

 右手はグッと握りこぶしを作りガッツポーズ、左手はなにやらクネクネと……踊っている? のだろうか、不規則な動きをひたすら繰り返している。

 足は不自然なステップをふみ、微妙なリズムを作り出していた。

 おそらく踊っているつもりなのだろう。それとも、語りと踊りを組み合わせた新しい表現方法なのだろうか?

 お世辞にも、踊っているといえない不思議な儀式を続ける優斗を優希は今までで感じたことのない恐怖を感じていた。

 踊りを続けることで雨でも降ってしまいそうな、本当に降らせてしまいそうな迫力が優斗から溢れ出ていたのだ。

 そして、優希はその背後に数人の男子生徒が踊っているのを発見してしまった。この迫力に取り付かれてしまったようだ……。

 優希は声が出なかった。

 雨を絶対に降らし洪水を起こそうと雨乞いしている優斗の迫力に圧倒されたからではなく、迫力に取り付かれた男子生徒がきらきらと輝いていたということでもなくて、優斗のにいまいち読めない意外性に呆れて声がでなかったのだ。

 気付けば優斗の雨乞いも終わり、きらきらと輝く汗をタオルで拭っていた。

 一緒に雨乞いしていた男子生徒たちとハイタッチ、腕を組んで仲間との絆をさ確認しあっていた。そんな優斗の顔は爽やかスマイル満開で達成感に満ち溢れていた。

 そして、仲間たちと別れ、優希と話の続きをするべく戻っていった。

「というわけで……悩める優希にグッドニュースだぁ!」

 どういうわけなのか教えてほしいのだが……まぁ、いいか。優希は考え、話を聞くことにした。

「よし、そのグッドニュースとやらを教えてもらえるか?」

 このままだと、優斗に焦らされてしまいかねないので、優希は半ば強引に話を聞きだそうとした。

「まぁまぁ、あせらないあせら――」

「教えてもらえるか?」

 優希を焦らそうと作戦を企んでいた優斗だったが、優希の押しには負けてしまい、白状した。

「わかったよ~教えるよ~、え~と……優希が気にしている、おおかみちゃんはもう、この町に着いてる頃だと思うよぉ」

 少々不満げな素振りを見せる優斗だったが、それを語る優斗はスマイル満開だった。

「……なんで、知ってんだよそんなこと」

「気にしない気にしない。そういうわけだから、もうすぐ会えるんじゃない? 良かったねぇ、愛しのおおかみちゃんに会えるよ~」

「お前のそういうとこ、どうにか、なりませんかね?」

「いいじゃなのさ、あんだけおおかみちゃんのことで悩んでたんだから~」

 嬉しそうに優斗はくねくねと身を捩れさせ、その微妙な空気を満喫していた。

「……別にそういう感情を抱いてはいないし、気にいていたのは別のことだから!」

 結局からかわれてしまった優希は照れて赤くなった顔を隠すように顔を背ける。

「そう? ならいいんだけど~……おっと、かおるちゃんが来たみたいだから席に戻るねぇ~、あでぃおす?」

 そう言うと、この席に来た時と同じようにトテトテと自分の席に戻っていった。

 アディオスでいいんだよな?たしか意味は……“さようなら”だった気がする。

『あでぃおす?』なんて、疑問で言われても、パッとでてきた意味があっているのかちょっと自信が持てない。

 優斗が席に着いたと同時に教室の扉が開き、このクラスの担任が入ってきた。

「おーい! はよ座れー! ホームルームを始めるぞー!」

 透き通る声で生徒たちを座席に座るよう促しているその人こそ、このクラスの担任、手代木(てしろぎ) (かおる)先生である。

 栗色の髪を低めの位置で結んだポニーテールに右目にかかる少し長めの前髪がトレードマークの手代木先生は性格も明るめで、年齢も生徒に近いためか、多くの生徒から慕われている。

 そんな手代木先生の手には、いつも、何やらとてつもなく大きな、そして用途不明の物質が乗っている。

 この物質を使っている所を優希を含めこの学校の生徒は見たことがない。

 優希はこれを見るたび思うことがある。そして、恐らく他の生徒たちも一度はこう思ったはず。

『日に日に大きくなているような……たまに、動いているような……』

 優希はそんな物質をいつも持ち歩いているこの人はよくわからなかった。

 そしてもう一つこの人にはわからない所があった。

 それは、「もちつきー! この後ちょっと、せんせいの所まできてもらえるー?」

 毎度のごとく労働力として雑用をさせられてしまうということだった。それなのに、未だに名前を覚えてくれていないということ。

「またですか? 勘弁してくださいよ先生。……あと、名前くらい覚えてくれませんか? わざとですか? わざとやっているんですよ――」

「はーい! みんな集まってるよねー?」「ね?」

 完全なるスルーをくらった優希は目が点になっていた。まるで、鳩が豆鉄砲をくらったような……顔はしてはいなかった。

 ザリガニのようなカニのような甲殻類のように、クリクリした丸い目になっていた。

 そんな、優希を誰一人として気にする人はいなかった。もっと大きな事件を起こしている奴がいたのだ。

 今さっき、トテトテと自分の机に戻ったはずの優斗が教室から行方を暗ましていたのだ。

 男子生徒A「一之瀬君がどこかに消えました!」男子生徒B「さっき階段に向かって歩いてました!」女子生徒A「かばんもありませーん!」

「んー? いちのせー? また、あいつかー!」

 ……なにやってんだお前は、自由すぎるだろって、猫ですかお前は。

 自由すぎる親友に改めて、ため息をついてみた。

 優斗曰く、「一に人を掌握できる情報、二に自由! 三、四がなくて、五もないよ?」だそうだ。

 三と四と五いらなくね? は禁句だそうで言わないようにしている。大きな意味はないのだろう、理由は恐らく、面白いから。

 そして、一の人を掌握できる情報って所には触れないようにしている。親友とはいえ優希もその言葉を聞いて恐怖を感じていたからだ。

 この学校の人間は優斗の意外性、掴みどころのない性格、並外れた行動力など、 いろんな要素を集合させてみた結果、一之瀬 優斗と言う存在は、よくわからないくて自由な奴ということになっていた。

 優希も一度はそういう結論に至っていた。しかし、そこは親友。だてに、この関係を続けているわけではなかった。

 もちろんそんな簡単に結論づけられるような奴ではないことを優希は知っている。だからこそ、こうして、今も親友を続けているのだが、それでもやっぱり、優斗の行動を見ているとため息を着きたくなる。優希は席を立ち後ろを振返り、歩きだした。

 教室中の視線が優希に注目する中、優希は掃除道具入れの前にたった。そして、ゆっくりと手を伸ばす。

 取っ手に指を引っ掛けて、掃除道具入れの扉を恐る恐る慎重に開ける。

 優希に注がれていた視線は扉の向こうに注がれた。扉の先には、鞄を持った優斗が驚きを隠せない様子で隠れていた。

「ハ、ハロー……マイネーミーズ……ジョン?」

 優斗は顔を真っ赤にして混乱していた。見つかってしまったことに驚いているのかいつもの調子が崩れているように見えた。

「……疑問で名乗るなよ。先生! 早くホームルームしちゃいましょう」

「お~? そんなところに~? 良くやった! もちつき! 二階級特進だ~! これで君は正式にわたしの労働力……もとい、お手伝いさんとして思う存分に使うことができる!」

「……勘弁してください」

 ため息混じりに声をだす。そして、優斗を両手でしっかり掴み、逃げられないよう力をいれ、机に引っ張ってゆく。

 そんな様子を眺める手代木先生は、何かを思いついたようで、悪そうな笑みを浮かべている。

「くっそ~まさか見つかるなんて~」

 観念したのか優斗はおとなしく引きずられている。

「いちのせ~? あんたこの後せんせいの所にきなさい。わかった~?」

 にやにやと悪戯をする子供のような微笑を隠しながら、手代木先生は優斗にプレッシャーを与えていた。

「……あの顔はやばい!!」

 その時、優斗はすごく小さな声でこう言ったのだ。その一言を優希ちゃんと聞き取っていた。

 優希はあれだけ自由気ままで、恐れるものがないと思っていた優斗が本気で怖がっているのを珍しく思っていた。

 そして、優斗を怖がらせたものを見てみたいと、興味がわいた。

 勇気を振り絞り、優斗が恐れた手代木先生の顔を確認するため、チラッと顔を動かさないよう目だけを動かして、そして、見てしまった。

 とてつもなく、とてつもなく凶悪な先生の顔を。……問題とか起こさないよな?

 優斗は自分の席に座ったものの、いまだに、落ち着きがない。

「いや~だぁ!! ぼくは忙しいのだぁ~、超多忙なスケジュールをさばかないといけないんだよ~!!」

「だいじょうぶだいじょうぶ、君なら全部出来るからーこのあとせんせいの所まできてねー?」

「い~や~だ~!!!」

 優希はこの時、心から心配していた。親友の事ではなく、いつになったら帰れることができるのだろうか? ということを。

 そして、スーパーの特売に間には合うのだろうか? ということも。……こっちはたぶん、間に合わないな。

 早く帰ることが難しいと悟った優希は目を閉じ、どこか遠くに意識を飛ばした。そして、切に願った。

『早く帰れますように』と。あと『特売終わりませんように』も。

こんにちは、宮永 美月です。 

がんばって、次のお話を投稿できました^^

ちょっと、書き方と言いますか意識して書いたので違和感があるかもしれないです。

感想とかアドバイスしてくれると嬉しいです。

日々精進していきます! がんばります^^

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