MP10の魔道士、戦力外と判断され追放される
「ライト、申し訳ないが、お前とはここで終わりだ。」
「え?」
耳を疑った。
目の前にいるのは、駆け出しの頃から共に戦ってきた仲間たちだ。
「どういうことだよ、ダイ……?」
オレはパーティーリーダーのダイに詰め寄る。
ダイは腕を組み、ため息をついた。
「ライト。いままで世話になった。だがな……お前はもう、ついてこれていない。」
「ごめんねぇ、ライト。」
女魔道士のエティが肩をすくめて、どこか楽しそうに笑う。
「みんなで話し合って決めたの。ずっと思ってたんだけどね。」
「悪いな。」
剣士のヨウジは、エティをちらりと見てから視線を逸らした。 胸の奥が、ひどく冷たくなる。 「なにが……だよ。オレ、なにかしたか?」
沈黙。 エティがくすりと笑った。
「そこまで言うなら、はっきり言ってあげたら?ダイ。」
「……そうだな。」
ダイは真っ直ぐにオレを見る。
「ライト。お前、戦力になってないんだよ。」
その言葉が、刃のように突き刺さる。
「どこがだよ!」
思わず声を荒げた。
「たしかにオレは攻撃魔法は得意じゃない!でも回復も補助もやってきただろ!ダンジョンだって何度も――」
「基礎魔法だけ、でしょ?」
エティが遮る。
「回復も初級。補助も初級。攻撃魔法なんて、まともに撃ったところ見たことないわ。先月のゴブリン戦だって、結局私が全部片付けたじゃない。」
「あれはオレが回復で立て直したから――」
「立て直した?」
エティは鼻で笑った。
「初級回復魔法をちょこちょこ撃っただけでしょ。私が攻撃しなかったら全滅してたわよ。」
ちがう。
あの時ヨウジが瀕死だったのを立て直したのはオレだ。
だが、言い返す前にダイが続けた。
「お前のMP、いくつだ?先日も鑑定士にみてもらっただろう。」
「……10。」
「そうだ。10だ。同じ時期に魔法を始めたエティのMPは、もう200を超えてる。」
「それは……才能の差で……!」
「才能の差?……そうかもしれない。だからこそ、だ。」
ダイは一拍置いた。
「ライト。うちのパーティー、Aランクを目指すことにした。」
「……それは、すごいな。」
「そのために、新しい魔道士を迎えることにした。MPが300を超える本職だ。回復も攻撃も上位魔法が使える。だからお前の席は……ない。」
「あんた、強い魔法を一度も撃ったことないでしょ?」
エティが畳み掛ける。
「それは……っ」
思わず口から出ていた。
「そんな強い魔法は、オレじゃ……無理だから……。」
「ほらね。」 エティは肩をすくめる。
「魔道士なのに初歩魔法しか使わない。MP10のまま成長もしない。」
「それと、ライト。」
ダイが静かに言った。
「お前のポーション代、ずっとパーティー資金から出てたの、わかってるか?」
「……それは、みんなのために使ってたんだろ。」
「みんなのため?」
エティが声を上げて笑う。
「あれ、私たちが稼いだお金なんだけど。あんたが魔法をまともに使えれば、最初から必要なかったお金よ?」
胃の底が、重くなる。 そういう話か。 ずっと一緒に稼いできたはずの金が、いつの間にかオレの「負債」になっていた。
「お前、魔道士……いや、冒険者に向いてないよ。」
ダイの言葉が、とどめを刺す。
「ああ、それと。」
エティが思い出したように手を叩く。
「共有アイテム、ちゃんと返してね?もうパーティーメンバーじゃないんだから。」
にやりと笑う。 返す言葉が見つからないまま、オレはアイテム袋を黙って置いた。
それだけだった。
外に出ると、夜風が頬を刺した。 ――オレのMPは10。強い魔法なんて、使えるわけがない。
ずっとそう思っていた。 (……だから、一度も撃たなかったんだ。)
握りしめた手が、かすかに震えていた。 先月のゴブリン戦。あの時ヨウジを救ったのは、確かにオレだった。 ――でも、もうそれを言える場所は、どこにもない。
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新しいパーティーに加わるため、オレは冒険者ギルドに登録した。
しかしMP10のオレに、すぐにオファーはこなかった。 やむを得ずオレは、街の近くで弱い魔物を狩りながら修行をすることにした。
『火銃!』
オレがそれを唱えると、指先から小型の魔力を帯びた弾が発射され、眼の前のスライムに命中する。
スライムは一瞬で蒸発した。
今のオレの最強魔法。 全力で打てば、ゴブリンだってただでは済まない。
オレはこれで前のダンジョンではヨウジを助けたのに。 ……クソ。
苦い記憶を振り払って、修行に戻ろうとした、その時。
ガサガサ。
「そこのあんたああああ!」
「い!?」
思わず声が出る。
「どいてえええええ!」
草むらを突き破って、若い女冒険者がこちらに向かって駆けてくる。
全身に引っかき傷。鎧もあちこち破れている。
ドカ! まともにぶつかる。
「ぐおおおおお……っ」
女冒険者がうずくまる。
オレも衝撃で後退しながら、とっさに自分に回復魔法をかけた。
「ジャイアントバットの群れが来るわ!逃げないと!」
「ジャイアントバット!?」
声をあげた瞬間、向こうの木々の間から黒い影が10匹ほど飛び出してきた。
大きい。犬ほどはある。
「あいつらの弱点は炎よ!あんた魔道士っぽいけど、なんとかならないの!?」
「わかった!」
『火銃!』
ピギャアアアア!
ジャイアントバットが一匹、火を噴いて落ちる。
『火銃!』
『火銃!』
『火銃!』
オレが魔法を放つたびに、バットが落ちていく。 数撃ちゃあたるだろ。
夢中で打っていたら、指先から休みなく魔弾が連続で放たれていた。
こんなに連続で攻撃魔法を撃ったのは初めてだ。
「ちょっと待って……あんた、MPがもうゼロよ?なのになんで魔法が打てるの?」
女冒険者が何かを言っているが、それどころではない。
『火銃!』
『火銃!』
数分後、最後の一匹が地面に落ちた。
オレは息を整えて、女冒険者に向き直る。
全身の傷は、逃げてくる途中でやられたものだろう。
かなりひどい。
オレは無言で回復魔法をかけ始めた。
一回では足りないので、何度も続ける。 こうやってパーティーの体力をずっと回復してきたなあ、と思いながら。
「……ねえ、ちょっと聞いてる?あんたのMP、今ゼロなんだけど。」
「いや、オレのMPは10あるはずだぞ。先日も鑑定士に確認してもらったから間違いない。」
MPというのは魔法の威力のことだ。 オレのそれは10しかない。
だから強い魔法は撃てない。
ずっとそう思ってきた。
だから女冒険者の言っている「MPがゼロ」という言葉が、オレにはいまいち意味がわからなかった。
「私も鑑定スキル持ってるんだけど……あんたのMP、今ゼロよ。で、あんたのスキルに【尽きぬ泉】ってあって、『MPがゼロになると消費MPがゼロになる』って書いてある。つまり……MPが切れてから、逆に無限に魔法が撃てるってこと。意味わかんないけど 」
「……それ、どういう意味だ?」
「私が聞きたいわよ。」
女冒険者は眉をひそめながら、それでも傷の回復が進んでいるのを確かめるように自分の腕を見た。
「まあ……助かったけど。」
小声だった。
「それより、オレの名前はライト。君は?」
「私はマチ。鑑定スキル持ちの一流冒険者よ!」
女冒険者は胸を張って言った。
ジャイアントバットから逃げてきたのは何だったのか。
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「なあ、なんか……いつもより疲れないか。」
ダンジョンの通路で、ダイが立ち止まって仲間を見回した。
「そうね。」
エティが肩で息をしながら頷く。
「なんでこんなにきついのかしら。このくらいのダンジョン、余裕だったはずなのに。」
「シルバ、回復魔法を頼む。みんなにかけてくれ。」
ダイが新しい魔道士、シルバに声をかける。
「……は?」
シルバは息を切らしながら、信じられないという顔をした。
「大した怪我もしていないのに、全員分の回復魔法ですか?今ですか?」
「何が問題だ。お前は魔道士だろう。」
「問題だらけですよ!」
シルバは声を荒げた。
「私のMP、もう半分を切ってるんです。これから何がおこるかわからないのに、ここで使い切ったら終わりじゃないですか。」
「半分?」
ダイが眉をひそめる。
「まだそこまでしか来てないのに、なんでそんなに消費してるんだ。」
「なんでって……ずっと戦闘のたびに補助魔法かけて、エティさんのMP回復もサポートして……普通そうなりますよ!」
エティが口を挟む。
「ちょっと、前の魔道士はそんなこと言わなかったけど?」
「前の……?」
シルバは一瞬黙って、それから低い声で言った。
「前の魔道士の方、MP10だったんですよね。」
「ああ、そうだ。だから戦力にならなくて外したんだが。」
「……MP10で、今の私がやってる仕事を全部やってたんですか?」
沈黙。
「それって……どうやって。」
「……でも、あいつMP10だぞ?」
ヨウジが、どこか縋るように言った。
「そんなことできるわけ、ないだろ。」
「そうよ。」エティが即座に頷く。
「たまたまよ。あいつがいた頃は、ダンジョンがそこまで難しくなかっただけじゃないの。」 「……そうだな。」
ダイも頷いた。
でも。
その言葉が、胸の奥に小さく引っかかったまま、消えなかった。
その後、パーティー一行は命からがらダンジョンから逃げ出すことになる。
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翌日、オレはマチとギルドに寄った。
情報交換と自己紹介をするためだ。
「ライト、あそこのひとすごいボロボロになってるけど、アンタ回復してあげなさいよ。」
マチが小声で言った。
ギルドの隅に、見覚えのある三人組が座っていた。
ダイ、エティ、ヨウジ。 全員、傷だらけだった。
エティの自慢の外套は破れ、ダイは腕に包帯を巻いている。
ヨウジは椅子に深くもたれて、天井を見ていた。
「やらない。」
「なんで?アンタなら簡単に治せるじゃない。」
「やらない。それよりあっちでご飯でも食べながらお互いの話をしよう。」
オレはマチを遠い席に誘った。
旧パーティーの三人は、最後まで気づかなかった。 オレたちが、すぐそこにいたことに。
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