惑星転生:生まれて数十億年
よろしくお願いします。
早朝五時、いつものように目を覚ました筈だった。
だが、その日。私の体は星になっていた。周りにはきらめく星々の情景が存在し、私の脳内に映し出されていく。
は?どういうことだ?意味が分からない。星?星か。落ち着け、どうなっているんだ?
足も手もない。声も出せない。耳…耳はあるのだろうか?何かがたまに砕ける音が聞こえてくる。
目…目もない。だが、感じはする。どこに、なにがあるのかを。なんだ?どうにも、熱い水のようなものがあちこちに付いている気がする。
あと、体全体がずっと回っている…けど、不快感はない。むしろ、心地がいい。
さきほど、脳内がと言ったが、脳はどこにあるのだろうか?
心臓…体の中心から鼓動によく似たものを感じはするが…これは核とかいうものなのだろうか?
というか、さっきから体全体の感覚が気持ち悪い。川辺の岩のような肌触りであると自信を持って言えてしまう。
しかし、本当にどうなっているんだ?
このときまでは、妙にリアルな夢だと思った。
だが、おかしい。確かにこの世界で私は眠ることができない。だが、覚める気配は一切ない。むしろ頭は冴えている。
しかも、たまに小さな隕石のようなものが激突してくるのだが、これが異様に重くて、痛い。
人の体だった間違いなく、野太い声を上げていただろう。だが、心で叫ぶだけで、周りには響かない。
認めたくはない。だが、認めざるを得ない。
私が、星に転生したということに。
長い長い時が経った。光景は大して変わらないが、近くに月によく似た惑星が二つと、太陽のような星があり、私を照らしてくれていた。だが、太陽とは違って、その星は青い炎が包み込んでいた。疑似太陽とでも呼んでおこう。
また、私の体にも変化があった。少し前から隕石のようなものが激突しなくなったからだろうか?熱かった水が少しずつ冷めていき、最初は無くなったり現れたりを繰り返していたが、今はいつでも存在しているものとなった。
また、長い時が経った。
体がなんだかムズ痒くなってきていた。それもそのはずだ。私の体ではいくつかの噴火が起こり、島や大陸に近いものができつつあった。また、体の大半を覆う水の中には、小さな生命体が生まれていたのである。
不思議だ。目が見えないはずなのに鮮明に映像が浮かぶ。そろそろ、植物も生まれないだろうか。
すると、そんな俺の願いが叶い、体中のあちこちで小さな植物たちが突如として育っていき、いくつかの場所で大きな大森林を作り上げた。
海の中でも、新しい動きがあった。私がよく知っている魚のような生物や、水生の生命体が出始めたのである。
巨大化したダンゴムシのような生物、ミミズとカツオを合体させたかのような気味の悪い生物、サソリを魔改造したかのような黒い怪物、青いタニシを巨大化させただけの生物。だんだんとその大きさと種類は、時が経つにつれて増加していった。
また、悠久の時が流れた。
私の体は透明な空気の層で覆われていた。これのせいで、疑似太陽の光の一部が体に当たらなくなってしまった。まあ、しかたがない。なんか猛烈に熱かったし…
あと、私の体にできた島等の陸地に、新しい生命体たちが上ってきた。
その生命体、もとい生き物はトカゲに近い体だった。ゴツゴツとした鱗があり、目は黄色く、身体全体の色としては緑色、灰色、肌色…うむ、多様だ。爬虫類と言うのだろうか、そんな生き物たちが続々と上陸してきた。
また、少し時が経つと、突然体上が凍えるように寒くなった。
ジャケットを被っても無抵抗同様になるほどで、私の体にいた生物たちの大半はこれが原因でバタバタと死んでいった。最悪なのはこれが三度ほど後のと合わせて起こることだった。
だがしかし、それでもしぶとく生き残るものはいるようで。
しばらく経つと、凍えの収まった場所には、恐竜のような大型の生物たちが住み、中には大型のトンボのような生物や、ネズミのような矮小な生物も存在していた。
その光景は、私が昔、博物館で見た数々の展示物と背景によく似ていた。
ただ、その歴史と違ったのは、またあの凍えるような寒さが体を巡っても、なぜか恐竜らしき生物が生き残り、トンボのような大きな生物も、小さな個体は穴などに逃げて生き残ったことだった。
また、気の遠くなる月日が過ぎた。
私の体にできた生態系、いや、文明は発展していた。
ネズミのような生き物は恐竜のような生物たちがいない場所へと移動し、そこで数々の生物に分離し、人に限りなく近い個体が現れた。人と違う点を挙げるとすれば、目が赤く、あごの部分が以上に伸びているところだろうか。この人に近い生き物を、ヒトモドキとでも言おう。
恐竜のような生物たちは、かろうじて生き延びた者たちが絶対的な支配者となり、やがて、人型の怪物にへと変貌しだした。やつらはトカゲ人間とでも言おう。
トンボのような生物たちは、空を支配し、各地で一定の繁栄を遂げ、やがて、トンボの顔が人の頭につき、羽が生えたような生物に進化した。こいつらはトンボ星人とでも言おう。なんだか、昔の大好きな特撮を思い出す。
ほんの少し時が経った。いや、私の体上に住んでいる生物たちから見れば、数百から数千年単位の時間なのだろうが、何十億と生きてきた私からすれば、わずかな時間でしかない。
彼らの中から、頭の良い者や力の強い者が台頭し、それぞれでトップの地位に着き、正式に身分差が発生した。トップの者の指示に従って、各地で大きな村が生まれた。
すると、食料や水源、あるいには脅威の除去が目的だろうか?理由は分からないが、彼らは同じ種族や他種族と争いを始めだした。
石や槍に似た武器を用いて、地上、空、海上と、あちらこちらで戦いが巻き起こった。
私の体上がどんどん痒くなり、少しの痛みと騒音をもたらした。
そんな中、制空権をトンボ星人に握られ、力では絶対にトカゲ人間には勝てないヒトモドキは、最も数と住処を減らしていった。
トンボ星人とトカゲ人間の戦いは熾烈を極め、次第に文明は発達していった。
広い農場ができ、小麦のようなものや紫色のニンジンを育て、水車が作られ、倉庫ができ、柵や堀が生まれ、強固なものになっていった。町が起こり、金貨銀貨といった効果が製造され、巨大な大都市がいくつも現れ始めた。剣が生まれ、盾が生まれ、戦術が生まれ、戦争は研ぎ澄まされていった。種族間で統一戦を数百年間引き起こし、そして、王を名乗るものが生まれ、トンボ王国とトカゲ王国が誕生した。
ヒトモドキも一番少ない領土ではあったが、小さな王国を建てた。
ヒトモドキの王国は、トンボ王国と一時的に同盟し、トカゲ王国と戦い続けた。
ここまで来ると、領土の奪い合いや金の利権、積年の恨みなどが理由で戦いが起こるようになった。
ほんの数十分だけ時が経つと、各地で都市化が進み、コンクリートやレンガでできた建物が現れ始めた。争いの武器も、銃がだんだんと主流になっていった。残念なことに、切り倒される森が増加していった。
しかし最近、やたらと体中が汚れている。心なしか息苦しさを感じる。これは…そうか、工場だ。工場ができ始めたのか。産業革命が起こったのか。
そこから数十秒後、私の体はさらに汚れていき、常に息苦しさと鈍痛に襲われていた。
ついにあの三種族は爆弾をつくり、私の体に容赦なく打ち込むようになった。
毒ガスも作られ、あらゆるところに撒かれた。自然は減る一方で、争いは激しくなっていくだけだった。
戦車や戦闘機、ビーム砲のようなものを使った戦いが起こるようになった。
そこそこの人口と科学力で、制空権を奪取せんと戦闘機で戦うトカゲ人間、その利を消されまいと、圧倒的な人口と対応力で、銃を使って応戦するトンボ人間、技術力と忍耐力といった力達と、船や改良されたビーム砲で応戦するヒトモドキ。地獄のような戦場が体上には広がっていた。
辛い。痛い。苦しい。暴れている。俺の体上で奴らが暴れていやがる。
早く、早く収まってくれ。いい加減にしろ。
俺は初めて自分の意志で、好き勝手、やりたい放題の奴らに天誅を願った。
すると、巨大な地震と噴火が次々と起こり、奴らにも多大なる犠牲が出た。徐々に争いは縮小していき、やがて、和解によって落ち着きを取り戻した。
だが、過ちは繰り返された。
再び激しい争いが始まり、今まで以上の痛みが私の体を抉り始めたのだ。
ついに、奴らは各々でミサイルや核兵器を作り、以前よりも多くの武器や戦車、戦闘機を投入した。
体中が幾度となく攻撃され、耐え難い痛みが何度も襲ってくる。まるで全身を太い針でズブズブと刺されているようだ。
ああ!なんて痛みだ!各地でいくつの命が散っているんだ!?どれだけ私を汚す気なんだ!?
もうやめてくれ!!
そんな祈りが通じたのだろうか。
気が付けば、奴らは核兵器の投入をしまくったせいで自滅し、文明は滅んでいた。その間に、私の意識は朦朧としていたが、本能で奴らが死んだことだけは分かった。
建物はことごとく破壊され、自然は風前の灯火となり、奴ら以外の生物も数えきれないほど絶滅した。
私はというと、ようやく長い長い病から解放され、幸福感を得ていた。
生き物がほぼ死に絶えた体上では、蛙に近い生物たちがちょっとずつ進化を始めていた。やがて、手が成長し、足が成長し、身体全体が発達し、知能を得て、蛙人間と言える生物ができるかもしれない。
私はそれを見ながら、もう同じ歴史は繰り返すなと願うしかなかった。
私は今も、この宇宙のある場所に留まり続けている。
次はどんな変化が起こるだろうか。
あと何年、こうして正気を保てるのだろうか。