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第13話 北欧から

 カナクからノードに到着したビリーを隊長とする電気技師チームは、ノスロ族代表のマテウスをはじめとするノードの人々から大歓迎を受けた。電気技師チームはノードの人々により多くの電力を提供するため、小型の水力発電機や風力発電機をできるだけ多く作る事を提案した。

 カナクの電気技師チームは早速、ノスロ族やオルゴ族の電気技師達と共に仕事を始め、その制作に取り掛かった。発電機の材料をサイバー都市の廃墟から集め、部品を作る作業が始まった。風力発電機が一週間で試作され、その試作機に倣って、ノードの人々が作業に参加し各地に風力発電機が設置されることになった。ドラ山の滝付近にも、これまでの水力発電機に加えて、新しく小型の水力発電機が幾つも造られ、電力の増産を実現した。さらに空調装置・酸素発生装置の制作など、いろいろな作業がつぎつぎと開始された。


 これらの作業に励むカナクから来た電気技師チームはノードの人達に大人気で、仕事場には見物人や自発的に手伝おうとする人々で賑わった。子供や女性たちもビリー達に声援を送り、まるで芸能人のような扱いだった。

 ノスロ族の代表者マテウスは度々ビリー達の仕事場を訪れ、ノスロ族やオルゴ族にビリー達に全面協力する事を指示した。

「ノード政府を代表して、カナクの電気技師の皆さんの仕事に感謝する。不足する物が有ったら言ってもらいたい。すぐに改善する。」

「ノードの皆さんは協力的で何の問題もありません。こちらこそノードの皆さんに感謝します」


 ノスロ族の代表者マテウスは、ビリー達を夕食会に招き、遠くカナクから来た電気技師チームをねぎらった。

「カナクの人々は昔、カナダのオスロという都市からこの島に移動し、偉大なサイバー都市で人類の科学技術を復興したと聞いている。我々ノスロ族は、東の大陸、北欧と呼ばれた地域からこの島に辿り着いた。このノードの地を巡ってオルゴ族と不幸な争いがあったが、オルゴ族には何の敵意もない。ただ仲良く共存できればと考えてきた。」

「ノスロ族は、この島の東にあるスカンジナビア半島のノスロというヨーロッパの最北の地で暮らしていた。ヨーロッパが核ミサイルで破壊され、多くの人々が犠牲になった後、生き残った人々は、核ミサイルの被害を免れた最北の地ノスロに集まり、暮らし始めた。その地でも疫病が蔓延し多くの人が亡くなった。それでも生き残った3万人を超える人々がその地でノスロ族として、互いに助け合い暮らしていた。


 そこに問題が起こった。ある時、体長が一メートル以上もある見た事もない毛のない猿が現れ、集団で人間を襲い始めた。

その猿は、頭に角があり、背中に小さな羽のようなものを付けた猿だった。その姿はヨーロッパで昔から言い伝えられていた悪魔(サタン)に似ていたので、人々は恐れおののいた。その猿を「サタン」と呼ぶのは忌み避けられ、人々はその猿を「(つの)猿」と呼んだ。ノスロの人々は、自分達の街を守るため、銃や弓を総動員して戦った。遠征して、つの猿の集団を包囲し殲滅する作戦を立て、大きな戦闘を起こしたこともある。しかし、つの猿には悪知恵があり、逃げ足が速く、銃や弓矢の攻撃をかわし、人間達の隙を狙って石や棒で襲撃してきた。つの猿はその後も増え続け、ノスロの人々は、武器を持った集団でなければ外出できないようになった。つの猿の来襲で普通の生活が困難になり、ノスロ族は船に乗り込み、海を越えた西の島に移住する事を決断した。その島が昔グリーンランドと呼ばれたこの島だった。


 ビリーは以前、西の海の洞窟で見たあの老人の話を思い出した。

「その猿については、二十年ほど前、この島の西の海岸の洞窟にいた老人から同じ事を聞きました。その老人は西の大陸からこの島に来たそうです。アジアと呼ばれていた西の大陸でもツノと羽のある大型のサルが現れた。人々はその猿を「サラル」と呼んだそうです。サラルは群れをつくって人間を取り囲み、石を投げて人間を襲いはじめた。サラルの襲撃から逃れ生き残った人々は、集団で東に向かい、舟で海を渡り、東の大陸に到着した。そこからさらに北の海を渡り、この島に辿り着いたのはその老人ひとりだったという事です。老人は絶滅したと言われる黄色人種の様でした」


 ノスロ族のマテウスはこう言った。

「その話を聞いてなるほどと思う。そのサラルは、我々のいうつの猿と同じだろう。サラルはアジア・ヨーロッパの北ユーラシアで増殖している事になる。サラルを追い払う事は、今の人類には難しい。この島にそのサラルが来ないことを神に祈るが、サラルが来た時の対策を考えるのも生き残った人類としての役割だろう。

だから、ノスロ族だオルゴ族だと争っている場合ではない。とにかく、人口を増やして、昔のような科学技術を再建して、サラル対策に有効な武器をつくる事が何より大切だ。カナクの人も力を貸してほしい。」


 ノスロ族のマテウスの言葉に、ビリー達は深くうなづいた。ビリーから、カナクが人口減少の危機にあると聞いたマテウスは、今後カナクとノードの人的交流を盛んにして、双方の都市の人口を増やす方向に努力する事を提案した。

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