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善人の皮をかぶった沈黙の加害者

あれ? 凛が泣いている。


「どうしたの?」


「七瀬……私振られた。」


「振られたって、この前付きあったばかっかりだよね?」


「七瀬……が好きになったって振られた。」

 


……気まず…えっと…どうしよう。


しばらく私は呆然と宙を見つめて、凛の視線から逃れようと……もがいた。けど、やっぱり視線が彼女を捉えてしまう。


彼女の目が私を…涙を含めて憎しむように黙って見ていた。


それが、恐ろしくて…喉が吐き気を訴えて、うっと声に出させ、一言も言えなくさせた。


お互いが、言葉を発するのを今かと待ってるように、重苦しい…息が詰まる。


私が重い口を開こうとすると、凛が先に声を発した。


「仕方ないよね? 私より七瀬のが魅力的だから…さ。」


「そんなことない! 凛…ええと…あれだよ…人として私よりずっと素敵。」


「いいよ、無理しなくて…むしろそんな庇うと、うそ臭いよ?」


…どうしよう? なんでこんなに責められなきゃいけないの? でも言い返せないよ。


凛に謝るしかない…嫌だけど。


「…ごめんなさい」


「……どうしたら良い?」


えっ? どうしたらってそんなの私だって分からないよ…でもこんな時話し合いだよね…やっぱ。


「うん…彼と…話し合いしたほうが良いと思う。」


「…それで? だって七瀬好きなのに…」


「…そうだけど、でも」


「ふざけ…ないで…よ。」


言葉が弱々しくなってる。怒ってるんだなと、私は寒気を誤魔化そうと視線を漂わせた。


彼女も同じことを考えてるのかな? やっぱり…親友なんだよ。私は泣きそうになった。

 

「もう良いよ――またね。」


彼女が私の横を通り過ぎて行く。


私は、振り返って凛の背中をただ…眺めるしかなかった。

少しだけ、背中が寂しそうにしていた。

 

…何も声をかけられたなかった…


彼女に対する申し訳なさより…もう責められなくてすむ。

…ほっと軽くため息を吐いた。


胸を手で押さえて、胸の高鳴りを沈めようとした。

罪悪感を沈めるためじゃない。自分の勇気のなさを見ない振りをするためだ。


しばらく頭が真っ白で何をしていたのか分からなかった。


凛の声がフッと聞こえて、私は振り返って彼女を見て口元が緩むのを感じた。


「ごめん……言い過ぎたよ。」


「凛、気にしないで。」


「お詫びにこれあげるね。」


凛が鞄からペットボトルを取り出して、それを手に持とうと手を伸ばした瞬間……私の顔に冷たいものがかかった。


「喉渇いてたよね? 美味しいかな? 」


凛……こんなことして満足なのかな? 幼稚だよ。でもこれで赦されるのなら…私は我慢する。でもきっと、何も言わない私にますます腹立てるんだ。


どうすればいいの? 私も答え分からないよ。


「余裕だね、怒りもしない。私なんてどうでも良いんでしょ?

自分が悪くないって、こいつ幼稚だなって、思ってるんでしょ!」


うん思ってるよ……それどころかビンタしてやりたいって。でも、私は良い子だから、そう思わないようにしてあげてるだけ。


廊下で足音が鳴り引いた。息を切らせた女子が先生こっちですと私たちを指さしていた。

 

「おい、二人ともなに喧嘩してるんだ?」


先生が面倒臭そうに言葉を発したのが、私にはすぐ分かった。


 

「喧嘩なんてしてないよね?」


私にも分かるぐらいだ。だからだろう、凛が上手くあしらうように私に相づちを求めてくる。

 

「うん、手が滑って私に飲み物かかっちゃったみたいです。」


私は作り笑いを作って言ったけど、心は泣きたくて必死にそれを抑えた。


「先生失礼します。」


凛がお辞儀をしていった。先生は無視して私を見ていた。


「七瀬、お前は優等生なんだから騒ぎ起こすなよ。期待してるんだから。」


最低だ…私はこの先生を軽蔑する。悪気があって言ってるんじゃない。むしろ先生は、1番評価してる。なのに怒りしかこの人に感じない。


「はい、先生の期待に添えるよう頑張ります!」


私は、腕を挙げて先生に微笑んだ。


「良い子だ、さすがだよ。七瀬しか分かってくれないんだよな…みんなお前みたいなら良いのにな。見習えって先生は言いたい。」


見習え……先生の言葉がまるでナイフのように私に突き刺さる。私に何があったのかすら聞かない。だから、誰も先生のいうこと聞かないんだよ。


心で大砲を先生にぶつけて少し…気が晴れた。


背後で七瀬はモテるからね〜と陰口が聞こえた。

 

私がモテる? それならなんで私はこんなに孤独なんだろ? 誰にも相談出来ない。


このやり場のない気持ちは、どこにぶつけたら良いんだろ?


私は、この場から立ち去りたくなり、先生に失礼しますと挨拶を交わして、教室に戻った。


何も考えたくない……私は鞄を持って早く家に帰って枕に顔を埋めたくなった。


ああ、今日最悪な1日。早く終わってほしい。


下駄箱から靴を取り出して地面に置くと、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「はぁはぁ……七瀬って泣いてる?」


えっ? 気が付かなかった。私は目の下を触ると濡れていた。


息を切らせて話し掛けてきたこの男子…確か同じクラスの神崎君。


やだな泣いてるの見られた。告白でもする気で来たのかな?

残念でした。最悪な日を選んだね。


「ごめん、神崎君何でもない。何か用?」


「女子と話すの苦手なんだよな。あのさ、鞄間違えてるよ。俺のそれ。」


……ええと、恥ずかしい! ちょっと待ってよ。自意識過剰じゃん私。告白でも何でもなかった。しかも鞄間違えてた。


はは、でもなんか…気が楽になったな。


「なんで泣きながら笑ってんだよ。確かに鞄…七瀬さんの持ってくるの忘れて来たが。」

 

彼、なんかいい人そう。ちょっと相談乗って貰おうかな……だってもう限界だもん。

 

「……実はね、聞いてくれる? 立ち話もアレだし、ベンチに座って話そう。」


神崎君が頭の後ろに手を置いて、舌打ちを軽くして頷いた。


 

校舎の端にある、誰も座らない木のベンチ。

風が仄かに冷たさと植物の匂いを運んで来た。まるで今の私みたいに、くたびれた感じの湿気臭さも……これは要らない匂いだ。


二人で座って、彼が気まずそうにしているのを、私は無視するように愚痴をこぼした。

 

「私悪くないよね? 」


事情を話した彼は、真面目な表情に変わっていた。

 

「悪くないよ…というか、誰も悪くないかな。ほら、そのパターン逆の可能性もあるだろ? 」


「逆?」


私は首をかしげて、彼の返事を待った。

 

「七瀬が振られてそっち好きになったとか。結局時間が解決してくれるよ。俺も嫌なこと起きたけど、だいぶ精神的に楽になれたし。」


優しいな…彼に甘えたくなって思わず口を塞いだ。

 

初対面で抱きつこうとしたとか、私なにやってんの?

時間が解決……減点しとこ。マイナス5点。うん、神崎君の優しさもありがちポイントで-3点。

……でも、ちょっとだけ、救われたかも。ちょっとだけね。

 

 

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