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砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


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父子の死闘

上皇だ。

 

苦虫を嚙み潰したような顔で、

私達を見下ろす。

 

「終わりだ。お前の様な無能に

この国を任せた事が

シュメシュの悲劇の始まりだったのだな。

歴代国王へなんとお詫びをすればいいのか……」

 

芝居がかった表情で、落胆する上皇。


「この寂れた宮に逃げ込むしか

策がないことは承知だった。

必ずお前はここに姿を現すと思っていた。

数えるほどの死にぞこないを抱えて

身を隠すとは、

王としての面子もあったもんじゃない」

 

アディスは無言で父をにらみつける。


「どこぞの者かも分からぬ小汚い娘を

国母とするなど、

国政は娯楽ではないぞ!!!!」


「マリナへの非礼!

シュメシュの神に対する冒涜だ!

一度は息子として、

恩情を与えた……

俺が甘すぎたのだ。

反乱を企てた挙句に多くの犠牲を払い……

この期に及んでまだマリナを愚弄するとは。

……生かしておけぬ」


アディスはゆっくりと立ち上がり、

剣を抜いた。


「そなたは、もはや父ではない。

お前は謀反を企てた重罪人アルフォス。

シュメシュ国王として、

そなたを今この場で処刑し

討ち捨てる」


上皇はアディスの言葉を笑い飛ばした。


「お前が私を処刑だと?

やれるものならやってみるがいい!

シュメシュ史上、最も愚かな国王よ!」


(アディス、

上皇の挑発に乗ってはダメ……)


アディスは素早い動きで、

アルフォスの懐に入る。


アルフォスもアディスが動き出した瞬間、

太刀を構えた。


二人の剣が交差する。


怒りに満ちたアディスの動きは俊敏で、

アルフォスの命を

刈り取ろうと必死だ。


アディスの攻撃を一手ごと受けては、

はじき返すアルフォスの動き。

彼がシュメシュの王として

いくつもの死闘を

くぐりぬけてきた経験を物語っている。


この父子を見ているといつも思う。

威風堂々とした寡黙な獅子と、

まだ若さと勢いにまみれた豹が

頂上決戦をしている様。

力のぶつかり合いを見せつけられるのだ。


岩壁の間で、父子が剣を交わし続ける。


鈍い金属音が響いた。


「アディス!危ない!」


アディスの剣が宙を舞う。


その隙をアルフォスは見逃さなかった。


アディスの左目を、

刃がとらえた。


血しぶきが舞う。


「アディス!!!!!!」


私は痛む足を引きずりながら、

アディスの側へ駆け寄る。


左目を抑えて膝をつくアディス。

 

「すごい出血。

止血しなきゃ…」


「……ただのかすり傷だ」

 

私は自分の衣を引き裂き、

彼の目にあて、きつく巻き付けた。

 

「シュメシュ国王はこの程度か。

このアルフォスを討つと言ったのは、

戯言だったようだ」

 

「……ふざけたことを……」 

 

「アディス、喋らないで!」


「お前が即位してから

国は乱れる一方!

毎夜宴席でバカ騒ぎを重ねるばかりのお前に、

王位を譲った事を悔いた。

宴で倒れるのが本望だっただろうに」


え?宴で倒れる?


「…………あの宴の時、

アディスに刺客を送ったのは

上皇、あなただったんだ」


「異端女、誰に向かって

そんな口を利いている?」


「うるさい!クソじじい!」


「な!……クソじじい!?」


「認めるんだね。

アディスを暗殺しようとしたことを」


「無能な王など、死んで当然だ!」

 

「息子を毒矢で殺そうとするなんて

あんた狂ってる!

アディスは、宴でバカ騒ぎなんてしてない

毎日公務で忙しいし

寝る暇だってないんだから!

宴でヘラヘラしてるなんて、

あんたの話じゃないの!?」


「この小娘……!

言わせておけば……」

 

「あんたは上皇の癖に、

なーんにもシュメシュのこと知らないんだね!

民は皆、アディスのことを誇りに思ってる。

王様として素晴らしい人だって言ってる!

確かに、怖くて、

厳しく罰する事もある。

でも、それを含めて

皆アディスに敬意をもってる。

皆アディスが大好き!

アディスは立派な……

シュメシュの王様だよ!」

 

「マリナ……」


「お前とアディスの国への想いはちがう。

あんたこそ、

シュメシュの上皇だなんて

聞いてあきれるよ。

都合悪くなったら

すぐ人を暗殺しようとするじゃん」


「この女……殺してやる」


「やってみなさいよ!!!」


「マリナ!下がるんだ!!」


 上皇が私を手にかけようと迫ってきた。


 その時。


 大きな地鳴りとともに

 大地が激しく揺れた。


「な、何事だ!?」


 立っていられないほどの

 大きな揺れ。

 地震だ。


 以前見たビジョンと現実が重なる。

 大地震と

 重なる白骨カップル。

 

 死ぬわけにはいかない。


 でも待って。

 

あのビジョンでは王宮が崩れていた。

あの時私たちはメーレにいた。

 

今私たちは西にいる。

 

現実が、ビジョン通りの結末にはならないはずだ。

 

岩壁が耐え切れず、雪崩の様に

崩れ落ちてくる。

 

「逃げるぞ!」


アディスは私を抱きかかえ、走り出す。


後方で、ぐちゃっと

柔らかい果実が潰れたような音がした。

 

「……た、助けてくれ……」


アルフォスが崩れた岩場に挟まれた。


揺れは激しさを増し、

岩がアルフォスの体を

圧迫する。


苦しみにもがき続けるアルフォスだが

彼の努力もむなしく

大きな岩はびくともしない。

 

大量に血を吐いて、アルフォスは

息絶えた。


「マリナ、見るんじゃない」


アディスが冷たい氷のような声で

告げた。

 

間一髪だった。

私たちは岩場の隙間から

安全な場所へ逃れられた。


すこし遅かったら

私たちもアルフォスと同じように

死んでいただろう。


激しい揺れが収まった。


「行けるか?

皆の元へ急ぐぞ」


私たちは互いに体を支え合いながら

一歩ずつみんなが待つ

西の離宮へと

砂漠を歩いた。


点々と

アディスの左目から血が滴る。


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