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砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


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救いの天使

絶望に立たされていた

私たちの元へ

救いが現れた。


「兄上!」


「ナイル様!?」


全員、驚きを隠せない。


彼と会うのはいつぶりだろうか。


私たちの結婚式には

療養地から戻ることが叶わなかった

ナイルだが、

私たちへの祝福と

婚儀欠席への謝罪をしたためた

長文の手紙と共に

ラクダ30頭分のお祝いの品を

宮殿に送ってくれた。


相変わらず逸脱した

美しさだ。


白馬に乗って颯爽と現れた

アディスの兄ナイルは

本当に天使のようだった。


「今しがた療養地から戻った。

もう少し早く戻る予定だったのに。

すまなかったね。」

 

わざと明るく

振る舞っているのがわかる。

 

肩で息をして

冷や汗を垂らしているから。

彼の病状は芳しくないと

アディスから聞いている。


「兄上に心配させてしまうなど、

恥ずかしい限りです。

ご加減が、あまり良くないのでしょう。

今すぐ安全なところへ

お戻りください」


「弟と我が国の一大事だ。

寝込んでなどいられないさ。

それに治療は効いているんだ。

すこぶる、気分がいいよ」


ナイルの言葉に

アディスは何も言い返せない。

    

父の行いには目も当てられないと

ナイルは嘆いた。


「アディス、西へ向かうんだね」


アディスが静かに頷く。

「母上の離宮を目指し、

しばらくはそこに皆と身を置きます」


西には王宮の比ではないが、

離宮がある。


アディスが幼い頃に

母のために建てられた宮。


今では住む者はいないが

アディスは人を遣って

宮が朽ちることないように

建物を維持管理していたのだ。


「……しつこい追手が

ついてきてる、

ということだね」


「はい、追いつかれるのは時間の問題です」

ハビエルが抑揚のない声で伝えた。


ナイルは「なるほど」とつぶやく。


話が早い。

端的な情報だけで

今の状況を瞬時に理解した。


「問題ないよ。

僕がおさえる。

アディス、君は皆を従えて

西へ行くんだ」


「な、何をおっしゃるのですか!?

兄上!」


ハビエルも兵士も沈黙を保ち

王と王兄を見つめる。


「一刻も早く国に平和を

取り戻さなければいけない。

そのために……

アディス、

お前に死なれては

皆が困るんだよ」


「兄上こそ!

王家の血を引く

お方です!」


「僕には、

王位を継承する資格がなかった。

こんな体では国を支えられない。

……それに」

 

ちらりと私の方を見つめて、

ナイルはウインクした。


「素敵なお妃を娶ったんだろ。

大切にしないと、

シュメシュの神が

怒り狂うよ」

 

アディスの手を硬く握り

ナイルは告げた。


「最後ぐらい、

兄らしいこと

させてくれないか?」


そう言って、

ナイルは白馬に勢いよくまたがった。


「お供します」と

群れる兵士をなだめ言った。


「マリナ、

僕の大切な弟を

よろしく頼んだよ」


遠くから咆哮が聞こえる。


追手だ。


美しい天使は、

剣を引き抜いて

勇敢に走り出した。


「馬引けー!」

ナイルが駆け出す瞬間、

アディスが号令をかける。


全員が馬に飛び乗り、

アディスに続いた。


アディスの声は震えていた。


私はアディスを力の限り

馬上で抱きしめた。


この人が生き急いで、

命を落とさないように

私が守るんだ。


アディスを大切に思う

お母さんとお兄さんに

頼まれている。


託されている。


死なせない。

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