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砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


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いざ進軍

 アディスは

 「何も心配する必要はない」と念押しして

 私の元を去った。


 父と対峙する心境は

 いかほどか。


 王として

 アディスが鋼の精神力を携えてる事は

 承知だ。


 とはいえ、今回は

 最終決戦。

 

 やらねばやられる。


 砂漠の摂理だ。


 もちろんアディスが

 命を落とす事など

 考えたくもない。


 しかし、

 アディスが

 父を手にかけたあと

 彼の心は壊れてしまうのではないか。


 屈強な精神力をもつ

 アディスでさえ、

 自身の行いが

 許せなくなるのではないか。


 不安は募る。


 反乱軍の怒りも

 収めることができるのか。


 アディスの言葉を信じ、

 待つことも大切だ。


 妃として

 毅然としなければいけない。


 私が不安がれば

 みんなが不安になる。


 こんな時、

 シャフィがいてくれれば

 どれほど支えになっただろうか。


 彼は戦に出たがっていた。

 近衛隊長を務めた父の背中に憧れて。


 (シャフィ。見守っていてね)


 私は強く祈った。


 ――

 

 砂漠に夜風が吹きわたり

 人の気配がないメーレの都に

 砂塵が舞う。


 総勢1万の国王軍。

 

 皆、鍛え抜かれたシュメシュの兵。


 一糸乱れぬ動きで、歩みを進める。


 目指すは「沈黙の砂丘群」


 その先頭には、

 漆黒の馬に跨る国王アディス。

 

 父への怒りの青い炎を

 その瞳に宿し

 猛々しく叫ぶ。


「敵は我がシュメシュを裏切り、

 このメーレの都へ向かっている!

 シュメシュ王国の正義を

 見せつけるんだ!

 反逆者に慈悲など不要。

 反乱軍は一人残らずなぶり殺せ!」


兵士が雄叫びをあげる。


「全軍、進め!」

 

「待って!」


この人を戦場に一人で行かせられない。


「……マリナ様だ」

 

 兵士たちが私を見つめる。


 アディスの元へ駆け寄り、その手を掴んだ。

 

「私も、連れて行って」


 一瞬、呆気にとられた表情をしてから

 アディスは厳しい目つきで怒鳴った。


 「遊びじゃない!戦に向かうのだぞ!」


「だからだよ。

 シュメシュ王国の運命がかかってる。

 私はシュメシュの王妃。

 国の非常事態に、

 王宮に隠れて

 自分だけ安全な所にいるなんて

 そんな卑怯なこと私やりたくない!!」


「女が戦場に来て何ができる!?」


「できるよ!

 そりゃ馬にも乗れないし、

 弓も槍も使えないけど……

 でも、私は皆と一緒に戦う!

 アディスの帰りを黙って

 待ってる事なんてできない!」


「……マリナ様……」


「言った通りだ。なんて慈悲深い……」


「我らのお妃様は、

 いつだって民の事を最優先になさる」


 兵士たちが泣き出した。


「アディス!お願い!!」


 苦虫を嚙み潰したような顔をするアディスに、

 ハビエルがつぶやく。


「……シュメシュの古の王は女性を戦場に伴い、

 勝利の女神として敬った。

 女神の存在が、兵士の士気を高め

 数々の戦で勝利を収めた……。

 そのような言い伝えもございますね」


 アディスは、舌打ちをして

 私を引っ張り上げ馬に乗せた。


「戦場では絶対に私のそばから離れるな」


 そう、私の耳元で囁く。

 

「全軍、進め!」


 アディスの号令とともに

 1万の軍が夜の砂漠に向けて

 走り出した。

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