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砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


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迫り来る内乱

「何だって?」


 アディスの不機嫌な声が響く。


 メーレの街から王宮に戻ると、

 憲兵が事の次第を説明した。


 シュメシュ北部で、軍が蜂起。

 

 アディスに対する反乱が始まったということだ。


 反乱軍を指揮するのは、

 上皇アルフォス。

 

 アディスの父が、

 息子を討つため

 最北の地で隠密に

 軍を整備していたらしい。


 その準備が整ったのだ。

 

 上皇率いる反乱軍は、

 この王宮めがけて進軍している。


 都には数日で到着するだろう。


 反乱軍の勢いは収まらず、

 王への不満を抱える地方民を巻き込みながら

 巨大勢力に膨らんだ。


 都の国王軍を以てしても、

 暴動を抑えるのは

 無理だろう。

 

 メーレで大量の血が流れる事は予想がつく。


「……戦争になっちゃうの?」


 私の言葉に、家臣が黙り込む。


 みんな額に脂汗をかいている。

 唯一涼しげな顔は、

 アディスとハビエルだけだ。


「アディス、なにか策があるのよね!?」


「状況は把握した。

 案ずるな。

 迎え撃つしかないであろう」


 「しかし!アディス様!

 恐れながら、相手は……

 お父上である上皇様ですぞ!」


 大臣が今にも泣きそうな声を上げた。


 アディスは氷のように

 冷たい声で言い放った。


 「……それがどうした。

 父であろうが、

 シュメシュの王である私に

 刃を向け、

 我が王都を殲滅させようと企んでいる。

 ……生かしておくわけにはいかん」


「アディス様……」


「皆の者!

 軍を整備し、敵襲に備えろ!

 シュメシュに内乱が起きる!

 メーレの民に避難命令を出せ!」


 アディスの判断は一瞬だった。


 その命を受けるやいなや、

 ハビエルは音もなく姿を消した。


 民衆の避難を指揮するのだろう。


 私も何かできることを、

 王都を、シュメシュを

 アディスを守らなければ。


「ありがとう」

 

 アディスのお母さんの声が聞こえた気がした。

 

 ――


 アディスの迅速な判断と

 ハビエルの的確な指示により

 メーレの都の人々は

 避難を進めた。


 大規模な混乱を招くのではと

 心配したが、

 兵士の誘導に冷静な態度で従う

 民衆には驚かされた。


「みんな指示に協力的ね。

 もっとパニックになると思ってた。

 まるでこうなることを予想していたみたい。

 スムーズに避難してる」


宮殿の展望台から、街の様子をながめて

私はつぶやいた。

 

 ライリカは私の肩にケープをかけて答える。

「マリナ様、ご心配には及びません。

 メーレは砂漠に囲まれた土地。

 民は有事の際、心得もございます。

 どのように対処すべきか分かっておりますよ」


「マリナ様、アディス様が民も都も

 この宮殿も守ってくださります!

 不安な顔をなさらないで!

 大丈夫!」


 ナダも侍女たちも真剣な顔で頷く。


「さぁ、砂漠から冷たい風が吹いてくる頃合いです

 中に入りましょう」


 侍女に促され、宮殿内に戻る。

 

 オレンジ色の夕陽を背に、

 都の外へ外へと避難をする

 民衆の列を

 私は後ろ髪をひかれる思いで見送った。


(どうかみんな無事でいて)


 ――


 その夜の王宮は

 いつもよりざわついていた。


 物理的に騒音がするというわけではない。


 王宮内の雰囲気が

 ものものしい。


 ライリカには、しっかり

 休むようにと念押しされたが

 眠れそうにない。


 ふかふかのベッドの上で

 何度寝返りを打っただろうか。


 今夜は

 アディスは私の元に来ない。


 結婚してから

 初めての事だ。


 それも私を不安にさせる

 要因だった。


 戦争が始まろうとしているのだ。


 当然、王様が

 妃といちゃついている場合ではない。


 そうなのだけど、

 アディスが顔を見せないことが

 この国が一大事を

 迎えているという事を

 嫌でも感じさせる。


 夜の闇に紛れて

 上皇は都を襲ってくるかもしれない。


 もしくは

 朝陽が昇った瞬間に

 軍隊を従えて

 攻めてくるかもしれない。


 悪い妄想は止まらない。

 

 私はこれを「夜の魔法」だと思う。

 考え事をすると、夜は解決策が出てこない

 堂々巡り。

 むしろ嫌な結果ばかり浮かんでくる。


 夜は難しいことを思考するには

 不向きだ。

 分かっていても考える事を

 やめられなくなる。

 

 それが夜の魔法の厄介なところ。


 私はため息をついて目を閉じた。

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