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砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


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懐かしき街並みに迫り来る影

半年間もこもって

愛し合うなど馬鹿げている。


私はふてくされるアディスを無理やり

寝所から連れ出し、日常生活を取り戻した。


侍女たちが顔を赤らめ何か言いたそうにニコニコする中、

ナダが単刀直入に

「で、毎日何回だったの?」と聞いてきた。

ナダの頭にはライリカの拳骨が飛んだ。


――

「王妃様」と呼ばれる事にも慣れてきた。

ある日、

アディスがメーレの都に出かけようと誘いに来た。


「しばらく街に行っていない。散策でもしよう」


 王が白昼堂々、都で遊んでいるなんて

 パニックになるのでは?


 私の疑問を察して、ハビエルが説明する。


「マリナ様、歴代の王は民と親交を深め、

 彼らの暮らしを気にかけてこられました。

 記録によると、古来の王は民の家に寝泊まりすることも

 あったとか。民を想うことはシュメシュの王の責務でございます。

 アディス様は都で人々と交流する事を楽しみにされています」


黄金で飾り立ててる王様なのに、

庶民的な面もあるのね。


「分かったら支度を急げ。グズグズするな」


「は~~い」


 私の生返事に侍女たちはクスクス笑った。


――

メーレの都は今日もにぎやかだ。


広場には、商人が集まり威勢よく客引きをしている。

「らっしゃい!焼きたてのパンだよ!」


 「そこのお兄さん!いい香油が手に入ったんだ!

 恋人への贈り物にぴったりだよ!」


 「まいどあり!!」


 シャフィと遊びに来たことを思い出す。


 彼の仕事が休みの日、よく広場へ連れ出してくれたのだ。


 お給料が出たときは、「マリナ、要る物はない?

 なんでも欲しいものを言って」といつもプレゼントをしてくれた。

 

 喉が渇けば、よく冷えたロータスシロップを買って二人で分け合った。

 

 人混みでは、はぐれないようにとギュッと手を握ってくれた。


 私を守ってくれていた彼は、もう隣にいないのだ。


 でも今、私の隣には……

 

「マリナ。欲しいものはあるか?」

 

「マリナ様!ロータスシロップ飲みません!?」


「こら!ナダ!庶民が口にするようものを

 王妃様に勧めるだなんて!」

 

「ライリカ。ナダを怒らないで。

 ナダ、ちょうど私もロータスシロップ

 飲みたいと思ってたところ。

 買ってきてくれる?」


「はい!かしこまりました!」


 太陽の様に明るい年下の侍女は、

 ハビエルにもらったコインを握り締め

 走っていく。


 ハビエルとライリカは苦笑いだ。

 

「マリナ様、ロータスシロップはお好きですか?」


「うん、思い出の味なの」


「おい、ハビエル。

 王宮内にロータスの花を植えろ。

 大至急だ」


 「は?……御意」


 現在、私の隣には

 かけがえのない従者たちと

 愛する人がいる。


「まさか、あ……アディス様!?」


「国王陛下!?」


「マリナ様までいらっしゃるわ!!!」


やばい。

街の人に気づかれちゃった。


私達の存在に気づいた人々が

慌てて頭を下げる。


「皆の者!面を挙げよ!

 本日はメーレの視察に来た。

我らの事は気にせず、いつも通り仕事に励め!」 


アディスの言葉に一同頭を深く下げてから

みんな自分の仕事に戻った。


意外に皆あっさりした反応で拍子抜けした。


「都の視察に王が来ることは、

 皆慣れているからな」


「マリナ様~!

 ロータスシロップお待たせしました~!」


 ナダは王宮に勤め出してから

 初めての外出なので

 とにかくテンションが高い。


 「マリナを楽しませてくれ」と

 アディス直々に命令されたことも、

 彼女を勢いづかせた要因だ。

 

「ねぇねぇ、マリナ様!

 このお菓子食べてみてください!」


 ナダは色鮮やかな

 シュメシュの伝統菓子まで見つけてきたようだ。


「わたしこれ大好きなんです!

 マリナ様も絶対好きになる!」


「ナダが言うなら間違いないわ。

 いただきま~す」


 メーレの街を

 ナダと腕を組んで歩きながら

 お菓子を買い食いする日が来るなんて。

 

 ナダの冗談で大笑いする私たちを

 あたたかいまなざしで見つめながら

 アディスたちがゆっくり後をついてくる。


「あ!かわいい~!!

 マリナ様、見て!猫!」


「ほんとだ。

 猫売りなんて初めて見た」

 

メーレの人に猫は可愛がられている。

野良猫を地域で育てていて、

情が移ってしまい

そのまま自分のペットとして飼う人も多い。


「王宮で猫飼うのも悪くないよね」


私のつぶやきを

ハビエルは聞き逃さず

「アディス様、猫は困ります」

 と王に念押しした。


「ハビエル、冗談だから」


談笑しながら、メーレの都を歩く。


懐かしく、愛おしいメーレ。


あてもなく歩いていると、

見知った通りに出た。


「……この路地を進めば……」


私の様子がおかしいことにアディスが気づき

肩に手を回す。


「マリナ、どうした?」


「ここ……

細い道を進むと、家なの」


にぎやかなメーレの中心部から少し離れた

落ち着いた場所。

隠れ家に続く、細長い道を私は指さして伝えた。


「そうか。ここが……

 ……訪ねるか?」


私は静かに首を振った。


私がシャフィとミアと暮らした家には

もう誰も住んでいないだろう。 


わざと明るい声で答えた。


「家を見たらきっとさびしくなっちゃうし、

 それに今はシャフィとお母さん、

 お父さんも一緒に

 しずかに王宮で眠ってるもの」


 後ろでライリカが鼻をすする。


 (ライリカ。もう私悲しくないよ)


 アディスが私の肩をぎゅっと握った。


「いらっしゃったぞ!!

 アディス様だ!!!!」


「陛下!!

 今すぐ王宮へお戻りください!」

 

憲兵が血相を変えて、

私達の元へ駆け寄ってきた。 

 

ハビエルが眉を吊り上げる。

 「一体なんだ。騒々しい。

 陛下は妃と散策されているところだ」


「申し訳ございません!

 恐れながら、

 シュメシュの一大事にございます」


「ハビエル、よい。戻ろう。

 何があったんだ」


 顔面蒼白になった憲兵は、アディスの言葉に

 力強くうなずく。


 私達は急いで王宮に戻る事にした。  

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