守りたい笑顔
「アディス様たち、いつになったら出てくるんだろ~」
「ナダ!言葉を慎みなさい!」
「ライリカだって気になってるくせに~。マリナ様とアディス様ったら、初夜を迎えてから
お二人でず~っと寝所にこもりっきりじゃん」
「晴れてご夫婦になられたのだから。求めあって当然です」
「限度あるでしょ!何日目なの!?」
「奔放な主人に、お互い苦労させられるな」
「あ、ハビエル様!ごきげんよう!」
「まぁ。ハビエル様。いらっしゃいませ」
「ナダ、案ずる必要はない。
アディス様たちは、飽きれば出てくる」
「……飽きる?……ハビエル様、
ナダはまだ殿方とそのような経験はありません。
だから男女の営みについてよく分かっていませんが……。
夫婦とは、そういうものですか?」
「ああ、ナダにもいずれ分かる時がくるだろう」
「まぁハビエル様、聞こえていたのですね。
ナダの軽口には申し訳ございません。
後ほどわたくしから厳しく……」
「ライリカ、よい。率直に意見を述べるところは
ナダの良さといえる。そして……アディス様たちは変化なしということだな」
「ええ。お二人ともお食事は取られていますので」
「幸い今、差し迫った問題はない。些末なことは私が対処する。
お二人の好きにしていただければいい。
有事の場合は、アディス様を無理やり寝所から引っ張り出すまでのこと」
「ハビエル様。また……怖い事が起きるかもしれないのですか?」
「いや、もしもの時の話だ。
我らの王には、できるだけ長く、優しい時間を過ごしていただきたい。
これまで走り続けてこられたお方なのだから」
――
「へっくしょん!」
アディスが大きなくしゃみをした。
「ほら!ずっと裸でいるから風邪ひいてるじゃん!
そろそろ普通の生活に戻ろうよ!
公務も溜まりまくってるってば!」
「シュメシュの王が風邪などひくわけがないだろう。
なんだ?俺に抱かれているのが気に入らないのか?」
風邪ひかないって、お前は人外の存在か。
「くだらない屁理屈はやめて。部屋から出てこないって、
みんなきっと心配してるよ」
「マリナ。俺の父がレニを側妃に迎えた時
どれだけレニの寝所にいたか当ててみろ」
「……え? 上皇様が?」
アディスは意地悪そうな顔をして、頷いた。
気まずいクイズだが、答えないと不機嫌になるだろう。
「そうだね……5日、とか?」
「半年だ」
「……国が滅亡しなくてよかったね」
「あぁ。まだガキだった俺が、ハビエルに援助されながら
公務を行った。つまり、王が半年程度、妃に心身を捧げても
国一つぐらい問題なく回るということだ」
「……絶対違うよ!!!!」
アディスは屈託なく笑った。
気づいた事がある。
アディスは私の前ではよく笑うようになった。
鷹のような目で獲物を射る、氷の刃の様な冷たい視線で
アディスはシュメシュを守ってきた。
誰にも本心を明かさない残酷な砂漠の王。
でも、私の前では年相応な表情を見せて
くだらない冗談を飛ばし、声を上げて笑うのだ。
愛おしいと思う。
私しか知る事のないアディスの姿。
優越感すら覚える。
この笑顔をずっと守りたいと思うほどに、
私はかつて憎悪の炎を燃やしたこの男を
愛するようになった。
私はアディスの胸元へ顔を寄せた。
思い出さない日はない。
アディスのお母さんから託された言葉。
博物館で見た白骨カップル。
大地震のビジョン。
あれが現実になってしまうかもしれない。
その時私はアディスを
守る事ができるのだろうか。
いや、守りきるのだ。
アディスの笑顔を私が必ず守ってみせる。
久々の投稿になります。
いつもご覧くださっている方々、お待たせしてしまい申し訳ございません
もう未完でこのままなのだろうと思われた方もいらっしゃると思いますが、完結までもがいていく所存です。亀の歩みではありますが、執筆を続けてまいります。
引き続きよろしくお願いいたします。




