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砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


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神の泉

婚儀の舞台となるオアシスは、

メーレから砂漠を南東へ向かった先に位置する。

 

オアシスにはシュメシュ王家が代々受け継いできた神殿があり、

冠婚葬祭の儀式はすべてそこで執り行われる。

 

儀式に同行、参加ができるのは

原則王と妃、近親者、近しい従者のみだ。


護衛には、選び抜かれた少数精鋭の兵士が務める。

 

できる限り、少ない人数で聖域に入ることがマナーらしい。

 

王が神殿から都に戻ってくるまでの間、

民は静かに家で祈りをささげる。


王が砂漠へ向かう姿を彼らが見る事、見送る事は許されない。

 

民家の窓や扉は、慣例通り固く閉ざされていた。


民へ、王と妃をお披露目するのは

儀式が無事に完了してからだ。


ラクダが引く砂漠用の輿に私を乗り込ませると

アディスも別の輿に乗り込んだ。

 

兵士は私たちの輿を囲むように、

各々配置につく。

 

馬に乗っているのが上級兵士、

徒歩で護衛するのが下級兵士だ。

 

私は、ライリカとナダを連れていく事を許された。


二人がいてくれるだけで、緊張感も和らぐ。


ライリカはオアシスに到着するころには

陽も高くなっているだろうと言った。


陽が昇るにつれてどんどん暑くなる。


日射しを遮るものがない兵士たちが

倒れないだろうかと気がかりだ。

 

(シャフィ、お母さん。

無事に儀式を終えられるよう見守っていてね)


私は黄金の朝陽に向かって祈りをささげた。


 ――

暑い。


うだるような暑さだ。

 

「マリナ様、お水を」


「マリナ様、暑さは大丈夫ですか?」


ライリカとナダは私の体調を観察し、しつこいぐらいに

水を飲ませてくる。


「私の事はいいから。二人こそ、水飲んでよ」


「わたくしどもは大丈夫です」


「マリナ様はいつもよりも装飾が華やかな、重たい衣装をお召しです。

ご自身が思っているより、体力を消耗しています。

それに何といってもこの暑さです。

疲れを感じる前に、水分をお取りください」


過保護が過ぎる。


しかしナダの言うとおりだ。


砂漠の暑さは尋常ではない。


侍女の言葉をおとなしく聞いておく方がいいだろう。


私はぐいっと一気に水を飲んだ。


砂漠を越えることは、

乾きとの闘いなのだと改めて思い知らされる。

 

輿の進みがゆっくりとなった。


「ライリカ、何かあったのかな?」


「オアシスに到着したようです」


ライリカが安心した声で告げた。


いよいよ私とアディスの婚儀が始まる。


輿が静かに止まった。


「マリナ様、素晴らしい景色ですよ。ご覧になってください」


ライリカに促され、私はオアシスと対面する。


眼前に飛び込んできたのは、

透き通ったコバルトブルーの湖。


湖を挟んだ向かいには、

神殿が厳かに佇んでいる。


決して華美ではないが、

均整の取れた石造りの建物がそこにはあった。

 

入り口には、シュメシュ王国の紋章と

シュメシュを守る神を模したリーフが刻まれている。


俗物的な気配がない神秘的な場所だ。


神殿の中にも、芸術的な彫刻物があるだろう。

 

(彫刻はシュメシュの得意技よね)

 

後ろからやってきたアディスが私の腰を抱く。


「陛下、神殿の中へお進みください。

くれぐれもお足元にご注意を」


ハビエルの誘導に従い、

私達はゆっくりと歩みを進めた。


後ろにはライリカとナダ、護衛が続く。


私はアディスの腕を固く握ったままだ。


外観からは気がつかなかったが、

神殿の内部には長い回廊があり

私たちはひたすら真っ直ぐ歩く事となった。


構造上なのか、涼しささえ感じる。


汗もいくらか引いてきた。

 

ハビエルは静かに祈りの言葉を唱え続けている。


意味は全く分からないけど

なぜか懐かしい気持ちになる言葉だ。


すでに儀式は始まっている。

 

ハビエルは王の側近でありながら、

神官としての地位をもつ。

 

国内最高位の神官でもある彼が、

今日の儀式を務める。


回廊の最奥には、湧き水が流れ込み

大きな水瓶を満たしていた。


湖から水路を引き込んでいるのだろうと予想がつく。

 

「シュメシュの泉へ到着いたしました。

これより、アディス王とマリナ妃の

誓いの儀式を始めさせていただきます」


私とアディスは互いの手を取り、

水瓶のそばに立つ。


アディスがうなづいたのを合図に

ハビエルが口上を述べた。


「聖なる水を湛えるシュメシュの泉よ。

シュメシュの神のご加護の下、

今ここにアディス王とマリナ妃の誓いを捧ぐ。

真心は揺るがず、歩みは共に。

神よ証人たれ、祝福を与えたまえ」


ハビエルはアディスに黄金の杯を渡した。


アディスは水瓶の水で杯を満たし、天に掲げる。


「シュメシュの神が見守るこの泉にて、

我が誓い、揺るぎなし。

我シュメシュ国王アディス、マリナを妃とする。

シュメシュの神の加護と共に、

この水を我が妃と分かち合う」


一息でアディスは杯の水を煽った。


ハビエルは満足そうに口角を上げ

 「では、マリナ様」

とアディスから杯を受けとるよう促した。


アディスに続いて、私も杯を満たし

こう言った。


「私もまた、王と共にシュメシュのために歩みましょう。

誓いの水を分かち合いし今、

私の心もアディス王と一つです」


一気に水を飲み干す。


おいしい。


なんておいしい水なの。


体の中から熱いものがこみあげてくるような

不思議な感覚まである。


「これにて、アディス王とマリナ妃の誓いの儀は、

シュメシュの泉の御前にて、滞りなく完了いたしました。

この契りが、王国にもたらす安寧と繁栄の礎とならんことを。

シュメシュの加護が、常にお二人と共にありますよう」


ハビエルの結びの言葉を聞くと

後ろに控えていた従者たちはすすり泣きを始めた。


ライリカとナダは嗚咽をこらえて、お互いに抱き合いながら

涙を流している。


「行くぞ。マリナ」


「え!?アディス喋った!」 


「もう儀式は終わったのだ、我が妃よ。

口を利いて構わん。王宮へ戻るぞ。

皆我らの帰りを今か今かと待ち構えているだろう」

 

「我が妃……なんか照れるね」


呆れたような顔をして、アディスが歩き始めた。


その時だった。


「おい!しっかりしないか!情けない!」


「婚儀だぞ!この無礼者が!」


「も……申し訳……ご……ざいません!

申し…………わけございません」


護衛兵が揉めている。


一人の兵士はひたすら謝罪しているようだ。


アディスが怪訝な顔をした。

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