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砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


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38/58

祝福

 長い一日が始まる。


 今日が私の人生のハイライトとなるだろう。


 夜明け前から私は侍女にうながされ、婚礼の準備を始めた。


 シュメシュにおいて、結婚は神聖なものとされている。


 それが王族の結婚となれば、シュメシュの神へ最高の供物とされ

 婚礼の日、民は神へ感謝の祈りをささげる。


 侍女たちが私に化粧を施し、

 漆黒の衣装を纏わせる。


 ナダが厳かな手つきでベールを被せてくれた。

 

 ミアと縁があるものを身につけたいという私の願いは、

 彼女の故郷に伝わる刺繍をベールの裾にあしらってもらうことで

 叶えられた。


 南部の民が愛する、砂漠に咲く幻の花のモチーフを

 真紅の刺繍糸で刺してもらった。


 漆黒のベールに真紅の糸が非常に映える。

 

 侍女たちは息をのんだ。


「マリナ様……なんてお美しいのでしょう」


「最後に、こちらを。失礼いたします」


 ライリカがそう言って、慎重な手つきで

 私の首元に装飾品を付けた。


 黄金を基調としたネックレスのトップには、

 鈍い玉虫色で輝く宝石が存在感を放つ。


 角度によって玉虫色がオーロラの様に見えて

 表情が変わる。

 

「素敵……」

 

「アディス様の母君の形見にございます。

 アディス様より、マリナ様につけていて欲しいとうかがっております」


「そんな、大切なものを……」


「大切な日ですからこそ、国母となるお方に身にまとっていただくべきお品です」


「マリナ様!本当にお似合いです!」

 

 ナダが言うと、侍女たちもそれに倣い大きくうなづく。


 私はおもむろに立ち上がり、みんなの顔を見回す。


 私の大好きな自慢の侍女たち。

 

「みんなありがとう。

 私が今日を迎えられたのはみんなのおかげだよ。

 破天荒な私に幻滅せず、

 毎日心から仕えてくれて感謝しかないです。

 これからもたくさん迷惑や心配をかけるかもしれない。

 でも、ずっと一緒にいてくれるとうれしいです。

 これからもよろしくお願いします」


 そう言って私は頭を下げた。

 

 最初王宮にやってきたとき、

 私は自分が世界で一番かわいそうで

 みじめな人間だと思っていた。

 

 気遣ってくれる侍女たちの気持ちなど何も考えず

 ただ卑屈になっていた。


 脱走を試みて心配させたこともある。


 死にかけた時も彼女たちはずっと看病してくれた。

 

 こんなへっぽこ主人なのに、

 私のことを慕ってくれる。

 

 世界一の侍女たちだ。

 

 「マリナ様!おやめくださいませ!

  お顔をお上げください!!」

 

 侍女たちが血相を変えて慌てる。


「ううん。私がみんなにお礼を言いたいの。

 本当にありがとう。

 みんなが私の侍女で、本当によかったと思ってる」

 

「マ、マリナ様~~~~!!!!」

 

 彼女たちが涙をこぼす。

 

 (また、泣かせてしまったけれど

 なんて幸せな涙なんだろうか)

 

 私たちは互いにきつく抱きしめ合った。

 

 ハビエルから呼ばれるまで、

 私たちはそうしていた。

 

 ――

 

 「マリナ様、お迎えに上がりました」


 いつもの無機質なハビエルの声に安心する。

  

 ハビエルは深々とお辞儀をして、続ける。


 「さぁ、アディス様がお待ちですよ」


 私は従者を連れ、広間へと向かった。

 

 アディスが王座につき、

 その御前には重臣たちが整列している。


 まずアディスが宣言をするはずだ。

 

 私の登場に場が息をのむ。


「……なんて麗しい姫君であろうか」


「これでシュメシュも安泰でございましょう」


 アディスの瞳が私を捉える。


 しかし彼は沈黙したまま私の手を引き、

 玉座へと導く。

 

 (緊張するけど大丈夫。

 あれだけ婚儀の練習をしたんだから。

 先生にも言われた。

 胸を張るんだ。)

 

 口角を上げ、私に集まる視線へ目をやると

 アディスの兄ナイルの姿があった。

 

 彼と会うのは例の宴会以来だ。


 今日の体調は良いのだろうか。


 アディスが立ち上がり、朗々と述べる。


「シュメシュの神より祝福を受けた今日という日、

 シュメシュ王国第27代国王アディスは

 メリト・ネスウトであるマリナを正式に王妃として迎え入れることを

 ここに宣言する。

 天と地が交わるこの神聖な時、

 我ら二人の契りは永遠となり、

 その愛と叡智はシュメシュを

 未来永劫、導く光とならんことを」

 

 広間内に割れんばかりの拍手が起こった。

 

 ナイルは誰よりも笑顔で、

 最後まで拍手を止めなかった。

 

 ハビエルが応える。

 

「我ら臣下一同、忠誠と敬愛をもって

 シュメシュ王家にお仕えし続けます。

 シュメシュの神の加護のもと、

 両陛下の治世によって

 この国に末永き繁栄と安寧が訪れんことを、

 心より祈念いたします」

 

 ハビエルの返事に続き

 重臣たちが、深々と頭を下げた。

 

 朝日が広間に差し込んできて、まるで

 天からの祝福を受けているようだ。


 (なんて幻想的。)


 「マリナ様」


 ライリカに耳元でささやかれた。


「このまま儀式に向かいますのでご準備を」

 

 儀式は砂漠の中心にあるオアシスで行われるのだ。

  

 アディスは無言で私に腕をあずけるよう合図する。


 今、アディスと口を利く事は禁じられている。

 

 儀式が終わるまで、王と妃は会話をしてはいけないらしい。


 私はアディスにエスコートされ、王宮の外へと向かった。

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