表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/58

託された使命

朦朧とする意識の中、

怒鳴り合う声が聞こえていた。


アディスが来たのは分かったけど

その後から頭がふわふわして

話が理解できなかった。

 

アディスが

ファトウマを追い出したのも聞こえた。

 

私は彼女に騙されていたのだろうか。


ファトウマと私の間に

友情は芽生えていなかったのか。


私達は互いに恋敵であると分かっていながら、

優しく接してくれた姿は見せかけだったのかな。


私だけが友人だと思っていたのかもしれないな。


なんかがっかり。


自分の単純さにも呆れてしまう。

    

ライリカとナダが私の手を握り締め、

泣いているのが分かる。

 

「大丈夫ですから!」を繰り返している。


私は死んでしまうのか。

 

息苦しい。


みんなが私の周りに集まってきたみたい。


うるさいな。

 

ちょっと寝かせてよ。


そのまま私は意識を失った。

 

――


「あれ?」


どれくらい眠っただろう。


苦しさは感じなくなっている。


頭上には満天の星空。


私は草地の上に寝ていたようだ。


王宮の自室のベッドで寝込んでいたはずなのに

どうなっているの?


誰かが私を連れてきたのだろうか?

 

不思議と恐怖はなく、

むしろ安心感を感じていた。


「誰かいないの?」


「アディス?

ライリカ?

ナダ!」


呼びかけても返答はない。


立ち上がろうとしたら足先になにか触れた。


「つめた!」


水だ。


私は大きな池のそばで

寝かされていたようだ。

 

星の光に水面が反射する。


なんだろう。


とてもなつかしい気持ちになる。


私は池から離れがたい衝動に駆られた。


ここから動いてはいけない。

 

私は水面を見つめた。


すると、池が一つのスクリーンのようになり

映像が浮かび上がってきたのだ。


「なにこれ……」


水面には、私とアディスが寄り添い

民衆の前で手を振る情景が映っている。


いつもは氷のように冷たいアディスが、

見た事がないような満面の笑顔を見せている。


私は恥ずかしそうに、でもとっても嬉しそうに

アディスと民衆へ笑いかけている。

 

シーンが切り替わる。


アディスと私が豪勢な衣装を身にまとい

臣下たちを前に王座についている様子。


中庭でアディスと踊りの練習をしている様子。 

 

これは、まさか

私がアディスと結婚した後の未来なのだろうか。


私のすこし膨らんだお腹に

アディスがキスをする情景が映しだされた。


またシーンが突然切り替わる。


王宮が崩れ落ちる映像。


メーレの人々が逃げ惑う。

 

砂埃と地割れ、

大きな揺れがシュメシュを襲う。


大地震だ。

 

アディスは皆に避難を呼びかける。


王宮の立派な柱が容赦なく

倒れていく。


倒れる柱に巻き込まれた私は転がる。

 

私はお腹を抱え、小さな命を守ろうとしている。


そんな私をアディスは後ろから抱きかかえる。


ちょうど、博物館で見た

白骨カップルと同じ体勢になって。


太い柱が私達の上に倒れかかる。

 

瓦礫と砂埃の粉塵で何も見えなくなる。


真っ白な映像だけが映り続け、

ほどなく水面は

星空を反射し始めた。


終わったみたい……


なんなの?


博物館で見た白骨の遺体は、

私達だったの!?

 

考えても説明がつかない。


途方に暮れる私の前に

まぶしい光が差し込んだ。


「今度はなに!?」


光線の先から、

誰かが歩み寄ってくる。


目を凝らした先には

一人の美しい女性が立っていた。

 

慈愛に満ちたその瞳は黒真珠のようだ。

 

純白のロングガウンが

彼女のはちみつ色の肌を映えさせる。

 

漆黒の豊かなロングヘア―は艶やかで、

まるで神話から出てきた女神のようだった。


「マリナさん」


微笑を浮かべて私の名を呼ぶ。


「あなたは……」


「アディスの母です」

 

アディスのお母さん……


やっぱりそうか。


はちみつ色の肌も

鷹の目も

漆黒の髪も、どれも

アディスにそっくりだもん。

 

「お願いがあります」

 

かつての皇后であった威厳さを感じさせる響きがした。


「マリナさん、アディスを……

我らのシュメシュを救ってください」


「皇后……私がアディスを守る?

シュメシュを救う?

いつも守られてばかりの私に

そんなこと、できるわけ……」


「それができるのはあなたしかいないのです。

あなたは自分が思っている以上に強く、凛々しい。

自信をもつのです。

シュメシュの未来を守る事は、あなたにしかできない」


「そんな……無茶言わないでください……」


アディスのお母さんは私の両手をつかみ、

こう言った。


「こんな責任が重い事を

あなたに頼むなんて申し訳なく思っています。

でも、これしか方法はないの。

お願い。

私はなにも救えないまま死んでしまった。

勝手なことだとは分かっている。

でもどうかあなたにこの意志を託させて。

お願いいたします」


泣いていた。


ミアとアディスの母がかぶる。

 

私だってシュメシュがなくなったり、

アディスがいない世界なんていやだ。


次こそ、守りたい。


失ったシャフィの顔が頭をよぎる。


私はみんなを守りたい。

 

その気持ちは沸いてくる。


できるか分からないけど

腹をくくるしかない。

 

私はアディスの母の手を強く握り返した。


「大丈夫。私やります。

必ずアディスもシュメシュも救うから。

だから。

…安心してください」


そう言うと、

アディスの母は大粒の涙を流しながら

「ありがとう」とくりかえし

光に包まれ消えていった。


私の意識もそこで薄れていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ