客人の意図
侍女たちが
これまでにないほどのやる気を見せ、
私を着飾る事に余念がなかった。
しかし、
彼女たちの不安は杞憂に終わる。
ファトウマが、
アディスよりも私にぞっこんで
毎日通ってくるようになったのだ。
アディスの誘いも袖にして、
私とお茶を飲んで過ごしたり宮殿を散歩したりと
ファトウマは楽しく過ごしている。
私も断る理由がないし、
客人であるファトウマを無下にはできない。
彼女の誘いには乗って欲しいと
ハビエルから乞われたのもあり、
私は毎日お姫様の遊び相手をしている。
ファトウマはおしゃべりが上手で、
聞いていて飽きなかった。
私はシュメシュのことしか知らない。
祖国ティファン国には、海があると彼女は語った。
私も行ってみたいと素直に思う。
この世界はきっと広い。
シュメシュを囲む砂漠のその先には
素晴らしい世界が広がっているのだろう。
旅をしてみたいなと感じた。
「ねぇ。マリナ様。
記憶を失っているなんて、
さぞ心細かったことでしょう」
「そうだね。不安はあったけど、
親切な人たちに助けてもらったから乗り越えられたよ」
「マリナ様の故郷のご家族も心配しているはずよ。
何も手掛かりはないのかしら。
アディス様にお調べいただいているの?」
「私は明らかによその国の人間だし、
私のことも赤毛の女って国民に知られちゃってる。
それでも誰も名乗り出てこないし、
有益情報もない。
ハビエルはシュメシュに私の身元を
知っている人間はいないって言ってる。
私もそう思う」
「だからって、ほったらかしていい問題ではないわ」
「うん。シュメシュは貿易が盛んだし、
他国の商人に聞き込みもしてくれてるみたい。
大丈夫だよ。
ファトウマ様、気にしてくれてありがとう」
「わたくし、国のお父様に手紙を出したの。
ティファンは大海に通ずる国。
マリナ様の情報を何か知っている者がいるかもしれない。
あなたがご家族に会える日は必ず来ますわ」
そう言って、ファトウマは私の手を強く握りしめた。
彼女の瞳は涙で潤んでいるように見えた。
黄昏時になり、
ファトウマを見送ったあと
私は湯浴みの用意を侍女たちに頼んだ。
ライリカが不安げな様子だ。
「ライリカ何かあった?」
「……いえ、大したことではないのですが」
口ごもるライリカは珍しい。
「……ファトウマ様は、一体何をお考えなのでしょうか?」
「ただ話し相手がいないから、
毎日暇つぶしに来るんじゃない?」
「ファトウマ様はアディス様と親交を深めるため、
滞在されているんですよ」
「宮殿内でも、
アディス様の御誘いは全て断られてるって噂になってる」
ナダは、離れからやってきて
たった1週間で宮殿内の情報通になってしまった。
「アディス様と交流をされず、
マリナ様のもとにお通いだってみんな不審がってる」
「お言葉ですが、上皇様とレニ様も快くお思いではないかと存じます。
マリナ様、恐れながら提案です。
しばしファトウマ様のご訪問をお控えいただくよう
ハビエル様にお伝えしたほうがよいのではないでしょうか。
ナダが申しておりますように、噂には尾ひれがつきまといます。
マリナ様の御身のためにも……」
「そうだね。本来の目的とズレてるし。
外交問題になりかねないね。
分かった。
私からハビエルに言うよ」
言いにくいことをはっきりと言ってくれる
私の侍女たちは本当に頼りになる。
ありがたい。




