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砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


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突然の独占宣言

「ねぇ。アディス。どうしたの!?」


おかしい。


アディスが肩で息をして

部屋に乗り込んできた。


何事かと思った瞬間、

無言で私を力の限り抱きしめた。


「痛いってば!なに!?」 


「……明日、私の許嫁とよばれる娘が王宮にやってくる。

しばし滞在していくだろう」


「は?許嫁?」


ナダが驚きの表情を見せる。


ライリカがたずねた。


「まあ。アディス様、ハビエル様。

……ファトウマ様がいらっしゃるのですか?

しかしそれは……上皇様の宴席での歓談といいますか……

アディス様ご自身は関与されていないと。

アディス様はファトウマ様と、

お会いになったことも無いとうかがっておりましたが」


「ああ。その通りだ。

私はファトウマを見たことも無い。知らぬ娘だ。

老人どもには酒の席での冗談というものが通じないらしい」


私は固く締め付けるアディスの腕から脱出しながら言う。


「でもさ、アディスは王様じゃん。

お嫁さんが何人かいても不思議じゃないよね。

で、私は何番目なの?」


「は!?」


アディスは黙ってしまった。


「え?なんか私変な事言った?」


ハビエルが苦虫を嚙み潰したような顔で切り出した。

 

「マリナ様……確かに、おっしゃる通りでございます。

各国の王は世継ぎを残す事も責務です。

血を絶やさぬことは王の重要な義務でもあります。

その為一夫多妻制の国は多数存在します。

シュメシュにおきましては、

側妃をもつことも認められてはおりますが……

王ご自身の意志によりますゆえ……」

 

「そうなの?

ってか前に、アディスはプレイボーイだから~とか

なんとか言ってたじゃん。

ハビエルが私に教えてくれたんだよ。

だから、アディスはお嫁さん候補がいっぱいいるのかなって思ってた」


「マ!……マリナ様!?」


ハビエルが珍しく動揺して

アディスがますます不機嫌になった。


「と……当然ですわ!

アディス様に憧れる乙女は数知れず。

しかし、彼女たちとは正式な婚姻関係とはなりませんでした。

やはり王妃となるお方は、

マリナ様のように整った容姿をお持ちであることに限らず聡明であり、

国のために貢献できる方ではないといけませんから!」


「え?じゃあ、何?

身体目的でその女の子たちと付き合ってただけ?

そうなの?アディス?」


ライリカが頭を抱えた。 

 

アディスの眉間のしわがより深く刻まれる。


なによ。怖い顔して。

 

「マリナ様?少しお静かに願えますか?」


ハビエルが震える声で言う。


「え?なにが?」


「ええい!貴様ら!うるさいぞ!

とにかく私がいいたいことはだ!

マリナ!お前は私が心に決めた妃!

それだけは覚えておけ!

明日よりどんな娘が来ようが、私の心はお前だけだ!

分かったら返事をするんだ!」

 

アディスは私の両肩をつかみ、大声で言った。

 

全員が呆気にとられる。

 

まさか、こんな形でプロポーズ(?)されると思わなかった。


「分かったのか!どうなんだ!?」


突っ立っている私をハビエルが促す。


「マリナ様、お返事です」

 

「え。あー……はい」


「分かればいいんだ。行くぞ、ハビエル!

お前にも聞きたい事がある」


「御意」


ハビエルはつらそうな表情だ。

 

二人がいなくなるとナダとライリカが興奮して話し出す。


「初めて見たよ。あのアディス様が真っ赤な顔」


「私もあんな素直なアディス様を拝見したのいつぶりかしら。

侍女をやっていて本当に良かった」


「アディス様ったら、相当マリナ様に惚れてんだ。

メロメロじゃん。

マリナ様やるね。

シュメシュの暴君を虜にしちゃってる。

私も王族のボーイフレンドが欲しいな。

お願い。そのテクニック教えて」

 

ナダは以前より言葉が流暢になったが、

語彙が増えてやりにくくなった。


「そんなんじゃないから」


「でも心配ですわ。

明日から、ファトウマ様が来られるというのは。

この時期に突然いったい何をお考えなのか」


「上皇様がアディス様とマリナ様の結婚に賛成じゃないのかな」


「充分ありえるわね」


「マリナ様。心配する事はなにもございませんよ。

アディス様がおっしゃったように

アディス様の御気持ちはマリナ様にあります。

マリナ様だけのもの。それはゆるぎないことですから」


「ファトウマ様だっけ?

そんなパッと出のお姫様は相手じゃない。

きっとマリナ様の美しさにビビるよ。

自分なんて勝ち目ない~ってすぐ故郷に帰っちゃうって」


「まためちゃくちゃ言うね」


「分かってないの?マリナ様、最近ますます綺麗だよ?」


「さぁ!忙しくなりますよ。

マリナ様は湯浴みをされます!

最高級のミルク風呂にしてちょうだい!

先日仕立てたばかりのお衣装をもってきなさい!」

 

「承知いたしました!」という返事とともに、

侍女たちがせわしなく動き始めた。

 

あ~あ。また着せ替え人形にされちゃうよ。

 

私はファトウマという異国のお姫様に嫉妬心など抱いていない。

 

異国の見たことも無い国に送られて、

会った事さえない

顔も知らない王のもとへ嫁ぐことはどれだけ不安だろうか。

 

たった数人の供だけを連れて頼れる人もいない中、

他国の王宮で永遠に暮らす。

 

そんな重圧に私は耐えられるだろうか。

 

とはいえ、私も似たような境遇にいるけどさ。


だからかも。


ファトウマに対して親近感を感じてしまうのは。

 

こんなの、嫉妬する以前に同情しちゃうって。

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