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謎の声に導かれ

ほかの展示には目もくれず、私は競歩で進んだ。


少し開けた空間に出ると、先ほどのガラスケースが現れた。

 

私が額に脂汗を浮かせ、息をきらしているのとは対照的に

 

彼らは相変わらず無機質で互いに身を寄せ合い、ケースに収まっている。

 

私は呼吸を整えながら慎重に彼らの元へ近寄った。

 

彼らの肉体は滅びているが意志は生きている。

 

この世のものではない力が私にメッセージを伝えようとしている事が感じられる。

 

私は彼らの思いを受け取る事に集中した。


さっきは気にも留めなかったが、キャプションが目に入った。


『抱擁する白骨 年代:紀元前3000年(推定)、

男性と女性(推定)。火山噴火の犠牲者といわれる。詳細不明。

中東地域にて発見された。』

 

田所教授の説明とさして変わらない内容が添えられている。


つまり、彼らの事を現代人たちはなにも分からないのだ。

 

冷酷だと思う。 

 

この二人の人生に全く関与しない、知ろうともしない

他人事感を感じて寂しくなった。

 

一方で、彼らは骨になってもこちらへ語りかけてくる。

 

私は、男性のかつて彼の瞳だったであろう蓋骨のくぼみをじっと見つめた。

 

そこには大きな闇が広がり光はない。

 

私はまばたきを忘れ、くぼみを凝視した。

 

その瞬間、

 

かつて経験したことのない強烈な衝撃と

 

はじけるような痛みが私の頭を駆け抜けた。


「んっ!!!!!!!!」

 

痛すぎて声すら出ない。

 

衝撃は繰り返される。

 

大きなハンマーが何度も何度も頭に打ち降ろされているみたいだ。

 

私は耐え切れず、頭を抱えながらガラスケースに倒れかかる。

 

そのまま展示室の冷たい黒光りする床に座り込んだ。

 

額には大量の脂汗。

 

助けを求めようとして気が付いた。

 

不思議なことに、ほかの見学者や監視役の学芸員も

いなくなっている。

 

私はただ一人床でうなだれているんだ。

 

このフロアには私と白骨のカップルしかいないという事に気づき

ぞっとした。

 

何とかしてここから出よう。

 

頭痛は治まる様子を見せず、立ち上がる事もままならない。

 

私は這う様に出口を目指す事にした。

 

「――お待ちなさい」

 

落ち着いた女性の声だ。

 

「あ。誰か助けに来てくれたんだ。」と咄嗟に感じる。

 

自然に涙があふれた。

 

声の主に向かって返事をするべきだと分かっている。

 

でも話す余裕が私にはない。

 

痛みはガンガンという衝撃音が増し、耳まで破けそうな勢いになっている。

 

返事をしたつもりが口からは、言葉にならないうわごとのような音が出ただけだ。


「――お待ちなさい」

 

女性が繰り返した。

 

一度目よりも威圧さを感じる声色だ。

 

 

頭の中でハンマーの音が響いているのに、

この女性の声はハッキリと私の耳に届く。

 

私は観念して、床を這いずり回るのをやめた。

 

「時間がありません。わたくしの話をよく聞いて。

 こちらに来るのです。こちらに来るのです。」  

 

 訳が分からなかった。


 (誰なの?どこに連れていくつもり?

 怖い。助けてよ。

 あなたは私の事を知っているの?あなたは誰?)


 疑問はとどまることなく溢れてきたが

 女性は私の問いに答える気はなさそうだ。


「さぁ。こちらに来るのです」

 

 彼女の声が脳内をこだました。

 

気づけばあれほどうるさかったハンマーの音と

耐え切れないほどの頭痛が嘘のように消え去った。

 

と同時に、黄金の光線が広がり一帯を照らす。

 

私はあまりのまばゆさに反射的に目を閉じた。

 

恐る恐る片目を開くと、光線は二体の白骨から放たれている事が分かった。

 

(マジで何なの……。)

 

夢なら今すぐ醒めてくれ、と願う。

 

次の瞬間、展示室の床が割れた。


(え?)

 

そのまま私は白骨カップルのガラスケースとともに

割れた床の下、闇の中へと堕ちていった。 

 

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