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砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


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宴のひととき

晩餐会があるから支度をしましょうと

侍女たちに誘われ

かれこれ2時間が経過した。


ドレスの試着に始まり、

頭に巻くケープの色合わせ、メイク…


侍女たちが私を着せ替え人形のように

「ああでもない」

「こうでもない」と言いながら

フィッティングさせる。

 

私の意見などフル無視だ。

 

「ちょっと…派手過ぎない?」


「なにをおっしゃいますか。

マリナ様。まだ身につけていただく装飾品がございますよ」


「マリナ様、こちらの髪飾りをお付けください」


「いや。髪飾りってどうせ頭に布まくんだから

見えないし意味ないでしょ」


「とんでもない!

ハビエル様より今宵はマリナ様に最高の装いをお召しいただくよう

きつく言いつけられているのです!」


「大丈夫です。

アディス様がマリナ様のケープを解かれた時、

髪飾りに気づいてくださいますわ」


「なんでアディスが私のケープを外すのよ?」


「……本当にマリナ様は無垢でかわいらしい方ですこと」


「私たちが、はしたなかったようですわね」


「何言ってんの??」


侍女たちがやけにニヤニヤして私を見つめる。


何がうれしいのか分からないが、

みんなが楽しいならそれでいい。


――

真っ赤な夕陽が宮殿内に降り注ぐ中、

晩餐会の準備が着々と進められた。


吹き抜けの会場には乳香の香りがほのかに香り、

乾いた風がほほをなぞる。


豪華な食事に美酒。


楽器隊も集められ

ここちよい音楽が流れるこの空間は

まるで楽園だ。


圧倒されて言葉が出ない。


さすがは砂漠の富をその手中に収めるシュメシュ。


何もかもが派手で高尚なのだ。


出席者の王族たちも美しく凛としている。


私は空気にのまれてしまい緊張した。


侍女に誘導されるまま、

着席したが落ち着かない。


私に対して少なからずみんなが興味を抱いている。


盗み見る者もいれば、

好奇に満ちたあからさまな視線をぶつけてくる者もいる。


侍女たちは私の着席を見届けると、下がってしまった。


仕方ない。


ここは王族しか参加できない場なのだから。


すぐ後ろに控えていてはくれるだろうが

横についていてもらうことはできない。


早く自分の部屋に帰りたい。


弱気になっていると、

高らかな音楽が鳴り響いた。


「アディス様のお成り!」


みな一斉に頭を下げひれ伏す。


私もそれに倣う。


「よい、面を挙げよ。

よく集まってくれた。

今宵は晩餐会。

大いに食べ、語らい飲もうではないか。

遠慮はいらぬ。杯をもて。」


アディスの冷たい声が広間内に響いた。


みな順々に顔を上げ、酒がなみなみと注がれた杯をかかげ

「シュメシュ王国のために」と声をそろえて乾杯した。


燃えるような夕陽が沈み、

空が群青色に変わるとともに晩餐会が始まった。


最悪な事に、

私の席はアディスの横だった。


アディスには入れ替わり立ち代わり出席者が挨拶に来る。


隣で気まずそうに座る私を

出席者たちはちらりと見るが、

アディスが鷹の様に彼らをにらむので

あわててみんな下がっていく。


アディスは私に

ぶどうを取って自分に食べさせろとか、

酒を注げだのずっとくだらない雑用を言いつける。


自分でしろよとイライラしたが、私に拒否権はない。


私は王付きの侍女、メリト・ネスウトなのだ。


無言でぶどうを房から引きちぎった。


「アディス、調子はどうだい」


「兄上。いらしてくれたのか。兄上こそ加減はどうなんだ」


アディスに兄上と呼ばれた青年は、

はかなく今にも散って消えてしまいそうな美男子だった。


「マリナだ」

私を顎で指し、アディスはぶっきらぼうに紹介した。


目で「挨拶しろ」と訴えている。


「初めてお目にかかります。

王付きの侍女マリナにございます」


「ナイル。アディスの兄だよ」

そう言うと美男子はニコッと笑顔をみせた。

 

ナイルはアディスと同じ黒髪だが巻き毛だった。

 

色白で細身の長身だ。


漆黒の瞳で見つめられれば心を持っていかれそうになる。


そして彼にはアディスのような猛々しさは全く感じられない。

 

慈悲と愛が彼の中からあふれ出てくるようだ。

 

こんな天使みたいな人がアディスのお兄さんなわけがない。

 

ただこの二人、並んでいると

本当にこの世の美を凝縮したような美男子たちなのだ。

 

アディスの性格は置いといて、黙っていれば相当にかっこいい。

 

侍女たちが大騒ぎするのも無理ない。

 

「そうか…君が、メリト・ネスウトの…」


感慨深げに私とアディスを交互に見つめる。


慈愛に満ちたまなざしでナイルは話し始めた。


「マリナ。僕はね、子どもの頃から病気がちで寝ている事の方が多いくらいだったんだよ。

アディスにはこんな頼りない兄で申し訳ないが、

アディスは生まれながらに王の素質がある。

もっとアディスの手助けができればいいのだけど

あまり身体が言う事をきいてくれなくて。

今日は調子がよかったから出てこれたんだ」


そう言うとナイルはまた天使のほほえみを見せた。


そうだ。


本来であれば兄であるナイルに王位継承権があるはず。


しかし実際には弟のアディスが王位を継いでいる。


ナイルは出席者と挨拶をしてくると言って、私達から離れた。


アディスはナイルの言葉に対し返事もせず、黙って酒をあおった。


なんとなくだけど、

アディスはナイルのことを「頼りない」とか思っていない。


そう感じた。


アディスも優しいところあるんじゃん。


少し人間らしい部分があってほっとした。


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