王の苦悩
「ほう、それで?」
「はい。大変驚かれておりました。
とても大きな声を出されて」
「叫べたのか?
力が戻ってきた証拠だな。
毎日食べるようになったおかげだ」
「左様にございますね。
わたくしとしては、マリナ様とアディス様が
お食事を共にされるお姿を拝見しとうございます」
「そんなものこれからいくらでも見れるだろ。
今日も頑固なお姫様の相手ご苦労だったな。
少し休む。下がれ」
「かしこまりました」
従者が下がったことを確認し、
俺は大きく息を吐き横になった。
頭の中は考え事で埋め尽くされたままだ。
王という立場上、気が休まる時など一瞬もない。
暴君、冷酷、砂漠の氷、などと評されるのは当然だ。
人間味など出した瞬間に寝首をかかれ、
襲われる。
砂漠では昨日の味方が今日は敵になることが普通だ。
俺はこのシュメシュを治める男。
心を殺し、血の気が多くなければ務まらない。
しかし、あの女。
いつまで強情を張るつもりなのか。
俺の予定では、
今ごろとっくに俺のものになっているはずだった。
ところがだ。
全く口を利かないし愛想のかけらもない。
確かに俺はあいつの義弟を処刑した。
あいつにとって俺は憎むべき男であるに決まっている。
それでも俺はあいつを手に入れる自信があった。
シュメシュの女たちは俺に「抱いてくれ」とせがむ。
あいつは俺になんの興味ももたない。
最近は俺への憎しみすら感じていないようだ。
俺に対する感情がないのだ。
毎日毎日、
ハビエルからマリナの様子を聞くことは屈辱でしかない。
王である俺の言う事には耳を貸さず、話もせず。
しかし従者のハビエルには心を開きしゃべり、
時には笑顔をみせるらしい。
今日は大声で叫んだというではないか。
腹立たしい。
なぜ俺の前で感情を表現しないんだ。
この世のすべてを手に入れる権力をもつこのアディスが、
たった一人異国の女を手にできないなど
そんな馬鹿げた話があるとはな。
お笑い種だ。
考えれば考えるほど、いらだってくる。
落ち着け。アディス。
深く息を吐いて俺は目を閉じた。
「アディス様、お休みのところ失礼いたします」
ハビエルか。
少し眠っていたようだ。
「入れ。」
ハビエルが従者を二人連れて入ってくる。
「アディス様。
お疲れのようでしたので、
もう少しお休みいただきたいのは山々ですが
今宵は晩餐会が設けられております。
そろそろお仕度を始めていただかなければ」
「ああ、そうだったな。
気遣いはいらん。
湯浴みをしよう」
「かしこまりました。」
ハビエルの言葉に従者がそれぞれ作業を始める。
「ハビエル。マリナだが……」
「はい。すでにお仕度を始められております」
「そうか……」
さて、どうすれば
マリナの心をわが手中に収めることができようか。




