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#4-2

「その勝負、受けて立つ」

「いいね。そうでなくては」


 突如として始まった負けられない戦い。変態から仕掛けられた罠にまんまとハマってしまったアリシアだったが、もはやそんなことはどうでもいい。

 売られた喧嘩を買ったのなら勝つ。そういう意気込みしか残っていない。


「先攻は俺から行こう」


 男はターゲットである案山子からおよそ五十メートルほど離れた位置に立つ。この距離は先に魔法を放っていた全ての生徒よりも遠い位置で、男が持つ自信の表れであった。


 男は呪文を唱えつつ、媒体である杖の先を目標に向ける。幾何学模様が現れ、それは薄く光を放ち始める。


「万物を焼き尽くす火の精霊よ、その力を顕したまえ! 『ファイアーボール』!」


 男が呪文を唱え終わると、杖の先から火の球が放出される。軽く回転するその球は目標である案山子まで曲がることなく真っ直ぐ進み、着弾と同時に爆発する。

 爆風が微かに頬をかすめる。


「きゃー! さすがルーカス王子様!」

「『魔法の貴公子』と言われるだけはあるな……」


 周辺のギャラリーがザワザワし始める。男――ルーカスは得意げな顔でアリシアを見る。その目はもう勝ちを確信しているようだった。


(ふーん……あの変態、王子なんだ)

「さぁ、次は君の番だ」


 ルーカスは譲るようにその場を離れる。周りの生徒がざわついているあたり、彼の魔法はかなりレベルが高いようだ。教師も口に出してはいないが、ルーカスの魔法を見て感嘆としている。

 

 ルーカスは挑発するように自分が立っていた場所に手を向ける。今授業内で最長の距離。魔法科に通うものでもそのほとんどが当てることができないであろう才能の暴力。

 ルーカスはそれをわかっていながらも先攻を選んだ。紳士的な考えなどではなく、ただ自分の力を見せつけたかっただけ。


 アリシアは少しの間動かなかった。じっとルーカスの放った魔法の跡を見るだけで、一言も喋らない。それを見たギャラリーはこう思うであろう。

 ルーカスの魔法を見て、勝負に怖気付いてしまったのかと。

 しかしアリシアは全く真逆なことを考えていた。


(自慢げに見せてつけた癖に……たったこれだけ?)


「……? どこへ行くんだい?」


 アリシアがその場から離れる。訓練場の端、ギリギリまで移動するアリシアは一瞬逃げ出すのかと思われたが、限界まで到達したところでピタッと停止する。

 案山子からの距離はルーカスが放った場所のおよそ二倍ほど、少しのブレでも標的に当たることは無い最高難度。


 アリシアは腕を上にあげ、人差し指をピンッと立てる。特に何かを唱えるわけでもなかったが、その指の先には中心が白く赤いモヤのようなものが纏う球体が現れた。

 アリシアはゆっくりと腕を地面と水平になるまで下ろす。


「パンッ!」


 アリシアの口から破裂音がすると同時に、その白い球は勢いよく飛び出す。螺旋状に回転するその球は弾丸のような速度で案山子に突っ込み、内部までめり込むようにその身をぶつける。

 直後、眩い閃光と共にルーカスの時とは比べ物にもならないほどの大爆発が発生する。轟音を奏で、爆風がアリシアの髪を激しく暴れさせた。


「きゃー!」

「なんだ!?」


 ルーカスと教師を除き、他の生徒たちはアリシアの指の先しか注目しておらず、放たれた魔法に気づいていなかった。

 彼らの後方から聞こえる爆音と暴風に耳を塞いでパニックに陥り、状況を把握しようと必死だ。


「……嘘だろ?」


 ルーカスは目線の先、案山子があった場所を見て信じられないような顔をする。一つにだけ命中したはずのその場所は、案山子のほとんどが無くなるかひしゃげてバラバラになっていた。


 ルーカスはあんな簡単な術式すら分からなかったアリシアが、王宮魔道士をも超える威力の魔法を放ったことに驚きを隠せない。

 ありえない、なにか小細工をしたのではないか、そう思わずにはいられないほどだった。


 アリシアは確かに魔法の仕組みも、理論も何も分からない。ただ幼い時から森の中で過ごし、数々の魔物と死の瀬戸際で戦ってきたアリシアは、自然と魔法を使っていた。

 その力の一部を見せただけに過ぎなかった。


「変態……いや、王子様。次に私に勝負を持ち掛ける時は、もっと実力を身につけてからにしてください。……そうでなければ、公平な勝負にならないので」

「本当に君は面白いな……!」


 アリシアはルーカスを煽り返す。

 ルーカスの中にあったアリシアへの興味はもはや好敵手を見つけたと言わんばかりのものになる。彼女の圧倒的な力を超えることを目標に日々進歩するだろう。

 二人の視線の間には火花がバチバチと音を鳴らしているようだった。

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